7-3 会長の冒険3
松平宅や今日あったことを整理しつつ、おれと浜井さんは導大寺高校の校内で静かに待った。浜井さんもそれを聞いて、今の状況をあるい程度は理解してくれたらしい。正直、浜井さんを危ない目に合わすのは嫌だったが、本人がついていきたいと言うので仕方なく同行してもらうことにした。
夜の学校が不気味なのは言わずもがな。すっかり日も落ちている。学校にも当然灯り一つなく、松平宅に乗り込むのに備え持っていた懐中電灯が役に立つ。
「どこで待ちますか」
「入ってくるのが見える場所がいい。役者が揃うのを待ちます」
浜井さんの質問におれはそう答えた。
「どの門で待ちますか」
学校には南側の正門と西、東にも門がある。浜井はきょろきょろとあたりを見回し、
「二人しかいませんが、分かれますか」
と訊ねてきた。
「いえ、多分北だと思います」
「北?」
浜井さんは首をかしげる。
「はい。静かに様子を見ましょう」
「でも、信じられません。本当に現れるのでしょうか?」
「半信半疑ではあります。ですが、プレッシャーはかけてきたので、多分大丈夫です。向こうも急がないといけないとは思っているはずですから」
おれ達は今日散々歩き回った学校北側の斜面の付近の倉庫傍に隠れた。どれくらい待っただろうか、多分一分も二分もしないうちに、がさがさと斜面を登る足音が聞こえてきた。そして、かん、かんと柵を乗り越える音がする。誰もいないと思って堂々としている。
やがて、物音は静かになったが、その代わり一条の光が校内に差した。相手も懐中電灯を持っている。それが、二本。二人か。やや想定外だが、見守るしかない。
「どっちだ」
男の声がする。
「こっちだ。こっちにある」
柵を超えた二人は、学校の裏手から西側に移動する。そちらから回って校舎に侵入するつもりなのか、それともどこかに埋めたのを掘り返しに行くのか。
「今の声は……」
「静かに。追いかけましょう」
浜井さんの声を遮り、そっと後を付ける。明かりをつけたらばれてしまう。だからもう懐中電灯は使えない。その代わり、先を行く二人の懐中電灯を頼りにする。浜井さんは校内に慣れていないだろうと思い、その手を取っておれが引っ張る。
「監視は? ないって聞いていたが本当か?」
「ああ。いつまでも宿直を置くつもりはないらしい」
「それは助かるな」
呑気な会話をしている。二人はそのまま校舎脇を素通りし、体育館方面へ歩いていく。やはり、校舎内にはない、ということだろうか。
「本当に鍵は空けられるんだろうな」
「当たり前だ。何度も言わせるな」
「わかっている。だけど、堀越の仲間と聞くとやっぱりな」
「あいつは運がなかっただけだ。おれはできる」
二人の行く先を考える。部室棟だろうか。それとも、その途中にある倉庫のどれかだろうか。場所はまちまちだが、体育倉庫もそうだし、防災用品が入っているもの、園芸部の物、用務員のものなど、野外においてある倉庫も数がある。そして、そのどれもが探されているはず、なのだが。
あれこれ考えながら歩いていると、急に浜井さんがおれの手を引いた。
「誰かいねえか?」
おれ達は校舎の壁面に沿って歩いていたのだが、その上を懐中電灯の光がすらっと飛んでいく。
「いるわけないだろ。気にしすぎだ」
「そうか? にしてもいまだにリコーダーを本気で探してるあほもいるんじゃないか」
「大丈夫だ。どうせネコかなんかだ」
心臓が止まるかと思った。
足を止め、しばらく二人の様子を眺めることにした。と、その時だった。
「やっぱり来やがったか、バカめ!」
男の大声がした。
「しまった、台無しだ」
おれは絶望を込めて言った。急いで立ち上がるが、様子はうかがえない。ただ、遠くで小さな光が右へ左へ走っていく。
「あれは、桜木先生ですよね」
「はい。間違いなく」
おれは項垂れた。さすがに昼間煽りすぎたのだろうか。まさか、自分でもう一度逮捕に現れるなんて思いもしなかった。遠くから怒声が聞こえる。
「逃げるな! このっ! 松平ぁっ!」
予想通りの名前が追いかけられているようだ。おれはため息をつく。
「作戦は失敗です。リコーダーの行方はわかりません。多分、もう松平を問い詰めても、要領を得た答えは返ってこないと思います」
おれは肩をすくめた。
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