6-7 わたしと坂道

 会長は、ついに最後の手段に出た、とわたしは思った。

「リコーダーを探すために、学校を掘り返します」

 万策尽きたのだろうか、ついに会長は自分からそういった。

「どこですか?」

 わたしの問いに、会長は答える。

「正門の反対側、なるべく人目につかなそうなルートを考えると、校舎北側の斜面、ですかね」

「そっちですか」

「確かに傾斜がきつくてつらいですが、そっちを攻めるのが正解だと思います」

 会長はそういってショベルを片手に先を歩く。ペイペイは嫌がりそうな作業だと思った。今はいないので都合がいい。

 ざっくり、山の中に立地しているこの導大寺高校、その北側は、フェンスで区切られているが、その先は斜面になっており、木もそこそこ茂っている。唯一門がない方角でもある。

 会長は何のためらいもなくフェンスを越えてその先に出ると、落ち葉や地面をショベルでつつきながら歩き始めた。だが、わたしはそれを躊躇った。制服を着ているため、今のわたしはスカートである。さすがになあ、と思って固まっているわたしに気付き、

「ああ、そっか。すみません。配慮が足らなかったですね。浜井さんは会室で休んでいいですよ」

 と会長は言った。

 結局、会長が一人で延々と地面を掘り返し始めた。それをわたしは眺めるのみ。

 暑いし、暇だった。わたしは比較的風通しの良いところで木陰に入った。さすがに一人で戻るのは忍びない。

 そこを掘ったって、なにも出やしないはずだ。なのに、会長は何をやっているんだろう。この学校中は掘り返されていると、誰よりも知っているのは会長だろうに。

 やがて二時間以上経ち、日も傾いてきたころ。もう諦めて別の方法を探そう、そう提案しようと思い、フェンス越しに会長に声を掛けることにした。

「会長、もうやめて、別の作戦にしましょう」

 しかし、思ったより遠くにいる会長に声は届かない。参った、このままでは暑い中延々と放置されてしまう。

「会長!」

 声を張ってみる。が、駄目なようだった。もう少し近づこうと、フェンスに沿って歩く、と、何となく、フェンスの向こう側の木陰に、何かがきらと光った気がした。

「会長!」

 もう一度声を掛けるが返事はない。土に埋もれて、何かがある。わたしの頭の中に小さな可能性が浮かんだ。小石だってあんなに光らないだろう。なにせ、光るものの隣にはちょっと大きめの石が転がっているが、木の影の中に暗く埋もれている。だが、リコーダーはどうだろう。艶があるので、光を反射してもおかしくはない。

 わたしは周りを見渡した。誰もいない。会長も遠くにいる。わたしは意を決し、フェンスに手をかけ、するすると登って行った。

 そして、半分落ちるようにフェンスの向こう側に着地した。さあ、あの光るものは……と振り返ると、そこに会長がいた。

「あの。なんかすみません」

 会長は謝った。何に対してかはわからない。が、わかる。少し俯いているから、わかる。

「なんでいるんですか」

 わたしはつい怒り気味にそういった。

「だって、呼んだじゃないですか」

 あまりにも真っ当なことを会長は言った。

「返事、しなかったじゃないですか」

 わたしは問い詰める。

「その、疲れているので」

 木の陰に入ってわかりづらいが、確かに会長の顔は暑さでやられているようだった。

「ごめんなさい」

 もう、折れるしかないと思い、わたしも謝る。

「いえ、ほんと、気が利かなくてすみません。それで、どうかしたんですか?」

 会長は訊ねた。

「そうそう、この辺にリコーダーが!」

 わたしは光るものがあった場所に駆け寄り、それを素手で引っ張り上げた。

「……ないですね」

 わたしは落胆した。引っ張り上げたのはガラス片だった。

「すみません。お騒がせしました」

 わたしは頭を下げる。恥ずかしかった。こんなもののために、なんてことをしたのだろう。そもそも、いくらちょっと艶があるからってリコーダーはあそこまで光を反射しないのは明確である。

「いや、これは、ありです」

 しかし、会長の声は明るかった。

「なんとなく、イイ感じですね」

 会長の笑みが、わたしには理解できなかった。まさか、本当にリコーダーが見つかるというのだろうか。

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