ぽんこつアンドロイド VS ご主人様ユウダイ

とろり。

第1話 デカイ箱


 ピンポーン!

 玄関のドアの前には配達員。ユウダイは寝起きのままの姿でドアを開けた。

 ガチャ。


「ユウダイ様ですね? ここにサインをお願いします」

 ユウダイは名前を書いた。

「確認いたしました。それでは荷物を運ばせていただきます」


 配達員の筋肉ムキムキの男三人がデカイ箱を玄関から狭いワンルームの一室に運んだ。


「作業は全て終わりました。失礼いたします」


 配達員はドアを閉めるとアパートの近くに寄せておいた配送車に乗り走り去っていく。


「ククク、ついに来たか。最新版アンドロイド コードネーム アイ」


 ユウダイはデカイ箱を丁寧にカッターで開けていく。高さ百七十センチメートル、横百センチメートル、奥行き百センチメートルの箱の中身が次第にあらわになる。


「おおーーっ!」


 最新版アンドロイドのアイが完全に姿を現した。

 ユウダイは早速、充電を開始した。


「ふむ、充電とな。小型お掃除ロボットと似た仕様だな」


 ぶつぶつと呟きながらユウダイは取り扱い説明書を読む。


「電源は背中せなか中央、操作は基本的に無し。AIが自動で学習し、臨機応変に対応する。対応言語は日本語のみ。バージョンアップはメーカーで実施。強制終了は背中せなか中央の電源を長押し、か……」


 トリセツを逐一声に出しながら読むユウダイ。長々の読み進める。


 ピコンッ!


 充電が完了したみたいだ。


 ユウダイはアイの背中にある電源を押した。


 ショキカズミ、サイシンバンアンドロイド コードネーム アイ バージョン2100 キドウチュウ……


 アイはゆっくり目を開くと――


「こ、この変態ッッッ!!!」


 強烈なビンタをユウダイに食らわせた。


「いっツッッッ! い、いきなり何しやがる!」

「私の……全裸の私に何をッッッ! 何をしようとしたのッッ!」

「いや、何も、」


 ユウダイ、同梱されていた服を着せるのを忘れていたようだ。しかし、トリセツには“自分で着る”と書いてあった。バグなのか、単純にそういうプログラムの仕様なのか。ユウダイはため息をついた。


 確かにセール商品で安かった、アイ。けれど最新版アンドロイド。考えられるのは、バグくらい。ユウダイはメーカーに苦情を申し立てた。


 約十分間のやり取りの末、出た結論が、『しばらく使用しても学習AIが機能しない場合はメーカーで保証します』との事だった。ユウダイはアイに振り返るとまだ全裸のまま、なぜか正座していた。


「ちょっと待て、なぜ正座?!」

「私は礼儀を重んじるのです」

「その前に、服を着ろーーーーッッッ!」

「な、なんですか! 野蛮ですわ、ご主人様!」

「初めて言われたご主人様が、このタイミングで残念だよッ!」

「服を着せてください」

「!! をぉーいッッッ! 自分で着ろーーーーッッッ!」

「ご主人様のいけずぅ」

「知るかッッッ!」


 アイはしぶしぶ服を着る。そして「ご主人様?」と尋ねた。


「あ? 何だよ?」

「胸見ましたよね?」

「い、いや、見てない! 見えたんだ! っていうか、お前はアンドロイドなんだから別に意識するなよ」

「これでも、若い女性仕様。ご主人様とのこれからがムフフです」

「だ~か~ら~っ! 俺は別に意識してないし、お前も意識するな! 俺とお前は主従の関係なんだよ」

「そんなのつまらない! そもそも私、ユウダイの命令なんて聞かない!」

「ご主人様を呼び捨てにするなーーーーッッッ!」

「面白いご主人様♪」

「クソッッ!!」



 ユウダイはメーカーに送り返すためにそのデカイ箱を丁寧にたたむとベッドの下に滑らせた。



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ぽんこつアンドロイド VS ご主人様ユウダイ とろり。 @towanosakura

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