第19話
こんなにも学校に行けることが嬉しいと思ったことはない。昨日はずっと凛といて疲れた…理由は別に気が合わないから疲れるとかではなく私に耐性がないから。
〈ちーちゃん、可愛い〜〉
この言葉を言われ慣れてない私は苦痛でしかなく、言われる度に顔を歪め…褒められてない人はきっと私の気持ちが分かると思う。
私にとって『可愛い』はメンタルをマグナムで攻撃する言葉でしかない。
「ちーちゃん、おはよー」
くっ…凛は朝が弱いはずなのに私より早く登校をし私を待ち伏せする。確かに私達は幼馴染で11年ぶりに会ったけど、再会の喜びの継続時間が長すぎる。
「凛…朝からテンション高い」
「えー、そうかな?」
「眠くないの…?」
「眠いけど、ちーちゃんに会えるから自然とテンションが上がる」
私は今も眠くてテンションなんて低空飛行のままで一切上がらない。だからこそ、凛のテンションについていけなくてしんどい。
「ごめん…朝は無理」
「えっ…そうだよね。ごめん」
凛が落ち込んでしまったけど眠気のせいで凛のテンションに合わせるのは無理だし…
あー、そんな犬みたいに耳を曲げられると(私にはそうな風に見える)無碍に出来なくて仕方なく「でも、ありがとう」と伝えた。
「ちーちゃんは優しいね」
「あっ。でも、もう待ち伏せしないでね」
「なんでー!」
「凛に無理をしないで欲しいの。無理のない時間に登校してほしいから」
「分かった…」
これは本当の気持ちで、もう一つの気持ちは凛と話していると周りの目が気になるからだ。今も…うぅ、みんな見ないで。
私を見ても何も生まれないよ?
いや、分かってるよ。
みんな、凛を見てるって。
もしかしたら「何…この、ダサ子」って思われているかもしれない。はぁはぁ、、ヤバい。心に無数の矢が刺さる。
お願いだから不釣り合いとか、おカッパとか、眼鏡とかチビとか思わないで。
「お、お、おはよ…」
「涼ちゃん、おはよー」
最高のタイミングで私のオアシスの涼ちゃんが登校してきた。でも、声が吃っており、私の横にいるデカい凛に怯えている。
「凛、私の友達の涼ちゃん」
「初めまして、佐倉凛です」
「野村涼子です…」
涼ちゃんのきょどっている姿を見ると、もう一つの世界線の私を見ているようだ。
私は凛と幼馴染だから普通に話せるけど、違っていたらきっと涼ちゃんみたいになる。
「おはよ…」
「陽奈。寄りかからないでよ」
私以上に寝起きが悪そうで、今も半分眠っている水瀬さんがフラフラしながら歩き、凛を壁がわりに寄りかかっている。
この人、いつも何時に寝ているのだろう?低血圧だとしても目が開いてないし、床でも平気で寝そうだ。
「あっ…ひろもおはよう」
「えっ…おはようごいます」
ひろ?今、水瀬さん「ひろ」って言ったよね?私の顔を見ながら言ったから私に言ったのは間違いないし…でも、ひろって何?
「ちょっと!!!なんで、ちーちゃんのことをひろって呼んだの!」
「佐藤さんって名前を言うの長いし、朝は呂律が回らないから簡略化したの」
簡略化?
佐藤千紘・さとう ちひろ
ち・ひ・ろ、、ひろ!
思わず手をぽんってして納得してしまったけど簡略化する場所が違う気が…
それに三文字しかない名前なのに更に短くする必要がある?これだから太陽族は…すぐに距離を縮めようとする。
「ひろって呼んでいい?」
「あっ、はい…」
眠そうな顔だけど、元々の顔が天下一品だから嫌ですなんて言えないし、これが光属性の太陽族なのかと思い知らされる。
「ずるい!私より親密度が高い感じがする」
「うるさい。朝から大きな声を出さないで。それに、私が千紘って呼んだら凛が怒るでしょ。凛はちーちゃんって呼んでるから私はひろで丁度いいじゃん」
凛は私のことをちーちゃんと呼ぶ。水瀬さんはひろ…で〈ちー・ひろ〉か。おぉ、上手い!座布団10枚!ってなるか!
はぁぁぁぁぁぁぁ…学校はとても狭い空間で、数百人しかいない世界だ。
そんな、狭い空間での上位カーストはどうしても目立ってしまう。でもさ、そもそも学校のカーストって何って思わない?
周りが勝手に作っている階層だしって思っているけど、、自己肯定感が低い私はそんな2人といるといつも肩身が狭くなる。
視線が…
沢山の視線が…
太陽族の2人を連れて歩く私(+涼ちゃん)はみんなの注目を集める。これで2回目だし、前もみんなの視線を浴びてめちゃくちゃキツかった。
メンタル・フィジカル・パッション!!!
頑張れ、自分!
ここで逃げても凛に捕まるし、どうせ逃げられない。この視線はどこまでもついてくる。
それなら、凛達と一緒にいるけど他人のふりをしたら逃れられるかもしれない。
なのに…
「ちーちゃん、今日は部活?」
みんながいる前で私に話しかけないで!凛の口から出た「ちーちゃん」というあだ名のせいで親密度がバレてしまう。
でも、もう無理みたいだ。水瀬さんが「月曜日は部活だよね」と言うから凛が「何で知ってるの!」と怒っているし…
「凛がまた部活を抜け出すかもしれないから調べたの」
「このストーカーめ」
「凛がすぐにサボろうとするからでしょ」
お願いだから私の周りで喧嘩をしないで欲しい。涼ちゃんは凛だけでも萎縮していたのに水瀬さんまで追加になったから透明人間みたいに気配が消えている。
うぅ…私も透明人間になりたい
見ないでくれ…どうせ、私を見ていないと思うけど、もしかしたら目の片隅で私の姿が映っているかもしれないから。
ふぅと大きく深呼吸をする。今日を乗り切れば、明日から凛は待ち伏せをしない。
頑張れ、自分!
Don't you cry!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます