第16話
インスタントカレーが美味しい。冷凍ご飯さえあればチンしてすぐに食べられるインスタントカレーは料理が全く出来ない私にとって有難いもので、きっとこれから何十年とお世話になる最強の食べ物だ。
よく、カレーは飲み物って言うけど空腹にカレーは飲み物の如くさらさらと胃袋に入っていき、あっという間に食べ終わった。
そして、何もないお皿を見つめる。おかわりをしようかと悩み…辞めた。
今から空手道場に行くし満腹なると動きが鈍くなる(太りやすい体質だし…)
だけど、これだけは辞められない。食後、ソファーの上ですぐにゴロゴロする。
「千紘。りんごちゃん、うちで夕食を食べて行くわよね?」
「えっ、知らない」
「はぁ?なんで聞いてなのよ!」
家に帰って来るなり、お母さんに凛が家に遊びに来るよと伝えたらお母さんは驚愕し、私は当然の如く怒られた。
これは仕方がない。当日に言うなんて私がお母さんの立場だったら激怒している。
そして、また怒られている私は…慌てて凛にLINEをするハメになる。
早っ…
凛は本当に部活をしているのだろうか?LINEの返事が秒速で返ってきて、有難いけど引いてしまうレベルの早さだった。
「お母さん、食べたいって」
「分かった。今からスーパーに行ってくるわね。りんごちゃんて、確か…オムライスが好きよね?ソースはケチャップでいいかしら」
へぇ、そうなんだ。私は本気の本気で、凛の好きな食べ物を全く覚えていない。
やっぱり、これは鉄棒のせいか?落ちた衝撃のせいで色々と記憶が消えている。
「千紘、そろそろ準備しないで大丈夫?」
「あと、5分」
「遅れないようにね」
お母さんは私と違ってテキパキしており、颯爽と買い物に行ってしまった。私はまたゴロリとソファーの上に転がる。
食べた後はすぐに動きたくないし、ゴロゴロしたいし、牛上等だ!
ご飯を食べてゴロゴロする。これほどの最高の休息時間はないと自負している。
でも、時間の進みはなくならずそろそろ準備をして出掛けないといけない。
ダラけた心を掻き立てるため、私は携帯で好きな音楽を流す。ノリの良いサウンドが私の心を楽しませる。
音楽を聴きながら天井を見つめ、白色の天井に今日見た光景を映し出す。
これまで、私の心をいつも掻き立てるのは音楽とゲームと漫画とご飯だけだった。
15年生きてきて、私は恋を知らない。初恋ってどうやったら出来るんだろうって思っているし、恋がそもそも分からない。
今日、バスケ部の練習を見に行って見学に来ている女の子達はどんな気持ちでバスケ部の練習を見ているのだろうって思った。
男子バスケ部だったら分かるけど、、同性を応援する気持ちって…どんな感情なの?
私がテレビでオリンピックの試合を見るのと同じ感覚なのかな?だったら、気持ちは分かるけどピンと来ないからモヤモヤする。
確かにバスケをする凛や水瀬さんがカッコよかった。運動音痴の私にとって運動が出来る人はやっぱりカッコよく見える。
見学に来ていた人達はみんな、運動が苦手な人なのかもしれない。だから、コートの上でキラキラと輝いている人を応援する。
くそ、くそ!もう、今日は最悪!
食後、ソファーでゴロゴロし、いつのまにか寝てしまった私は30分ほど道場に遅刻した。
遅刻した者は心の鍛錬をするために、練習が終わったあと掃除をさせられる。
お陰で、凛にLINEもできず師範に見張られながら掃除をし全速力で自転車を漕いでいる。
って…そもそも携帯を家に忘れたから連絡できないけどね!寝てしまった私は遅刻!と慌てながら道場に向かい携帯を家に忘れた。
遅刻したら心の鍛錬で掃除って…鍛錬じゃなくてただの罰じゃん。私が悪いけど、師範が厳しいお姑さんの如く見張るから最悪だ。
見た目はゴツいヒゲ親父(ゴリラ)なのに綺麗好きだし、お菓子作りが趣味だし、全く見た目と合ってない先生すぎる。
はぁはぁ…流石に疲れた
汗をかきながら家に着くと既に凛は着ておりリビングでお茶を飲みながらお母さんと楽しそうに話をしていた。
「はぁはぁ、、ただいま」
「ちーちゃん!おかえり〜」
「千紘、遅かったわね」
せっかく凛が来るからちゃんとお風呂に入って迎えたかった。それなのに、凛が汗がダラダラと流れた私の体に触れようとするから凛の手を手刀で打ち払う。
「痛いー」
「私に触れようとするからでしょ」
「会えて嬉しかったのに」
「汗かいているから無理」
この、凛の触り癖はどうにかしてほしい。人に触ることに躊躇することを学んでほしいし、乙女のマナーがなってない。
「千紘、先にお風呂に入ってきなさい」
「うん。凛、もう少し待ってて」
「はーい」
汗で濡れた服を脱ぎながらクンクンと体の匂いを嗅ぐ。運動の汗は、暑さでの汗とは違うからあまり匂わないと思うけど不安だ。
一応、制汗剤を盛大に体に振りまいたからレモンの匂いがちゃんとする。
はぁぁ、、温かいお湯の中は極楽浄土だ。空手を始めてから、スポーツで流す汗が気持ちよく、なぜ人がスポーツをするのか知った。
スポーツをして、汗をかいた後のお風呂が最高すぎるから頑張れる。
だけど、せっかくお風呂に入り汗を流したのにまた体から汗が出そうになった。
タオルを首に掛け、Tシャツ・短パン姿でリビングに行くと凛が熱心に何かを見ており、近づいて見てみると私の幼少期の写真だった。
「ちょっと、凛!」
「あー、ちーちゃん」
私にとって、幼少期の写真は人に見られるのが苦手で恥ずかしく照れ臭い。
だから、凛から取り返そうとしたけど凛は強い力で全く離してくれない。
「えいえい!」
「痛っ!凛、痛いって」
「ちーちゃんの11年間を補給してるの。邪魔しないで」
今度は逆に凛に手刀をくらい、私の手がアルバムから離れる。凛は意地でも私のアルバムを見るつもりみたいだ。
「へへ、可愛い〜」
可愛って…別に普通だし。地味な子だったし、この頃の私は目つきが悪かった。
でも!これには理由がある。凛がいなくなって寂しくて必死に泣くのを我慢していた。
幼少期の写真を見ると過去の記憶が蘇る。もしかしたら…私は寂しさを打ち消す為、凛を忘れようとしていたのかもしれない。
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