第15話

誰もいない廊下は静かで、外から秋の虫の声が聞こえてくる。

コロコロって言っているからこの声の持ち主はコオロギかな?高校生になって約半年、時が過ぎるのはあっという間で、いつの間にか季節は秋になっていた。


秋か…お腹空いた。寝ている時は忘れていたけど秋だと気づいた途端、胃袋が動き出す。

早く帰ってお昼ご飯を食べようと考えながら上履きから靴に履き替え、外に出るとまだ気温は高く少しだけ蒸し暑い。


今日の私は秋の暑さにもやられてしまったのかもしれない。せっかく校門近くまで来たのに逆戻りし靴から上履きに履き替える。

美術部とは無縁の場所の体育館から大きな声が聞こえてくる。掛け声に活気があって、みんな元気で運動部って凄い。


そんな元気な掛け声に圧倒されながら私は2階に行く階段を上がり、手すりに腕を乗せながらバスケ部が練習をする光景を眺める。

凛がボールでドリブルしながら走っている。

凛はいつのまに運動が得意になったのだろう?私は小さい頃から不得意のままだ。


ぐぅぅ


お腹空いた…でも、もう少しだけ凛を見ていたい。今日は5分しか会えなかったし、バスケをする凛を一度見てみたかった。

あっ、水瀬さんがシュートを決めた。練習なのに見学に来ていた生徒から歓声が上がり、水瀬さんの人気が垣間見れる。


あれ…タオルで汗を拭いている水瀬さんと目が合った気がした。でも、私の周りには見学に来ている女の子達がいる。

だから、きっと気のせいだろう。今日も人が多いなって思っているだけだ。


きっと、この考えは凛と出会う前だったら100%の確率で当たっている。でも、凛を通じて太陽族の水瀬さんと交流ができてしまった私は本当に見つけられていた。

水瀬さんに声を掛けられ、私の方を見た凛が嬉しそうに両手を振ってくる。凛のバカ!と慌てて後ろに下がったけど…


遅かったみたいだ。私の近くにいた女の子達にジロジロと見られ、私の脳内で勝手に作られる妄想の言葉が私に攻撃してくる。


誰、この子…

佐倉さんと水瀬さんと知り合い?

眼鏡…

おかっぱ(ボブだもん!)

地味、、だっさ

チビ(156センチはあるから!)


勝手に作られた妄想の無数の矢が心臓に刺さり苦しい。それに、お腹の音がタイミングよく鳴り…私はム⚪︎クの叫びの如く頬を手のひらで挟み、心の中で雄叫びを上げる。


「何、あの子」


この言葉は本当に言われた言葉で私の体力ゲージは残り10%なり、よろよろと階段を降りる。恥ずかしい…本気で恥ずかしい!


なのに…ぐるしい、、


凛が階段を降りた私を見つけ、強く抱きしめてきた。「やっと、ちーちゃんが見に来てくれた!」って嬉しそうに言うから凛を怒れないし、私はされるがままの状態だ。


でも、眼鏡が…痛いって!


いい加減、覚えてくれ。私がまだ凛に注意してないから仕方ないけど、いつか眼鏡族への心得を指導したい。


「凛、苦しい」


「あっ、ごめん。大丈夫?」


「うん。ねぇ、部活抜け出していいの?」


「本当はダメだけど、ちーちゃんが帰ろうとしたから」


凛は素直に感情を言葉にする。私の言葉を全部肯定するし…羨ましい純粋さだ。


「水瀬さんに怒られるよ」


「うん。きっと怒られる思う」


「ほら、早く戻りな。私も空手の行く時間だから」


「分かった。あっ、6時半に空手が終わるんだよね?7時ごろ、ちーちゃんの家に行くね」


「えっ?6時半って何?終わるのは5時半だよ。それに…あっ(約束してたの忘れていた…お母さんにも言ってない!)」


「えっ、6時半って…」


私は凛に嘘の時間を教えていた。平日は確かに終わるのは6時半だけど土曜日は始まるのが早いから5時半なのだ。


「ごめん…間違えてた」


「そうなの?じゃ、6時にちーちゃんの家に行くね」


「うん…」


凛が本当に素直な子で良かった。間違った時間を教えても怒らないし、私が約束を忘れていたのを気づいてない。


「ふふ、今日はちーちゃんに一度も佐倉さんって呼ばれてない。嬉しいな」


「そうだっけ?そっか、佐倉さんまた後でね」


「ちーちゃん!わざと言ってるでしょ」


「うん。揶揄うの楽しいもん」


やっと、笑えた。今日は朝からテンションが上がらず笑えるテンションにならなかった。今は普通に楽しく素直に笑える。


「凛、部活頑張ってね」


「見に来てくれてありがとう」


ニコニコ顔の凛はバスケをしている時と違い可愛い顔をしている。でも、バスケをしている時の顔はカッコよくて…


5歳の時から変わりすぎ!


今年、16歳になる凛は私より大人っぽくて腹が立つ。運動神経もいいし、バスケ部だし、何もかも私より上回っている。

身長も私より高いし、正直な話…凛の顔が本気でムカつく。11年経ったらこの顔になるなんて聞いてない!凛だけずるいよ。

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