第14話

凛と会わないと私の1日は平穏で、凛と出会う前の日常になる。平凡で、きっと誰も羨ましがらない普通の日常。

今日の朝は靴箱に凛はいなかった。もしかしたらと身構えていたけど、「ちーちゃん」という言葉は聞けなかった。


別になんてことない。これが私の通常の日常だ。何も変わらない日常。


だけど、今日は土曜日で半日で授業が終わる日で、何となく授業が終わったら凛からLINEが来るかなって思っていた。

けど…連絡がなく、部活がない日なのに私は美術室まで向かう。ドアを開けると誰もいない美術室は静かでドアを閉める音が響く。


「凛〜」


っているはずないか。凛は今頃、水瀬さんと昼食を食べているか体育館でバスケの練習をしているはずだ。

私は机に鞄を置き、椅子に座り周りを見渡す。

昨日のお昼はここに凛と水瀬さんがいた。でも、今日は当たり前だけど誰もいない。


胸がチクっと痛む。この寂しいと思ってしまうのはどんな感情なのだろう?

自分の感情なのになぜか分からなくて戸惑いが生まれる。



私は基本、1人でいることが好きだ。誰もいない空間は贅沢に感じるし、何をしても怒られないし、自由を満喫できる。

だけど、今日は1人が寂しい。結局、また立ち上がり窓から外を眺める。グラウンドではもうサッカー部や陸上部が部活をしている。


やっぱり、運動部は青春しているな〜って感じがする。汗をかき、笑顔でハイタッチ…はしてないか。でも、笑顔が溢れている。

みんなは日々どんな生活をしているのだろう?放課後はバイトなどしているのかな?


私はバイト経験がまだないけど、いつかはしてみたい。大人って感じがするし、バイトをしている人に憧れる。


「うーん、暇だな」


今日は独り言が多めだ。1人でいてもこんな風に思ったことは今までなかった。でも、今日は思いがけない言葉が口から出る。

今日は部活が休みだから来る必要もなかったし、今日も空手の日だから、そろそろ帰った方がいいのに帰るのが億劫になっている。


ダメだ。今日は思考が停止し、体さえもズボラになっている。よし…寝よう。

30分ほど寝て、頭も体もリセットさせてから帰ろう。私は椅子を3つほど横に並べ、その上に仰向けで横になる。枕代わりの鞄が痛いし、座面が硬いけど仕方ない。


私は目を瞑り、すぐに無の世界に行く。夢もみず、携帯のアラームで起きると…横になぜかTシャツを着た凛がいて一気に目が覚めた。


「凛、どうしたの⁉︎」


「ちーちゃんの靴箱にまだ靴があったからここにいるのかなって来た」


「そうなんだ」


「今日、部活休みだよね?何で美術室で寝てたの?最初、仰向けに横になっていたから心配したんだからね」


「ごめん…(私が悪いのか?)」


凛が眉毛を下げ、今も心配そうにしているのは確かに申し訳ない。だけど、まさか凛が来るなんて思わなかったし、、


「凛、部活は?」


「今から行くよ」


「そっか」


今日の私はやっぱり不調だ。会話がすぐに終わってしまうし、凛といると調子が狂ってしまう自分がおり会話が上手くできない。

でも、凛って何を考えているか分からないし、突飛なことをするから予測できない。


「ちーちゃん、具合は本当に悪くないの?」


「うん。眠たくて寝てただけだから」


「そっか。良かった」


安心したように床にへたり込む凛を見てまた申し訳ないなって…私は悪くはないはずだけど反省をする。凛に心配をかけてしまった。


「凛、時間は大丈夫?」


「あっ、うん…」


「私は大丈夫から早く行きなよ」


「分かった…」


凛があっさり立ち上がり、私に手を振り…ドアを開け美術室から出ていく。私的には凛は「まだ、いる!」って言うかなって思っていたけど予想が外れた。

これが11年間のブランク。当たり前だけど、凛の思考が読み取れないし、こう来るかなって思っていた所に凛が来てくれない。


これは私の我儘だけど、否定されないって意外と寂しいもので、私が言ったから凛は帰っただけなのに凛のバカ…って気持ちが溢れる。



何で私の言った言葉を否定しないんだよー!

肯定されてしまうと進まなくなるじゃん…



って心の中で愚痴りながら椅子に座り直し、手で髪を整える。そして一度、ため息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

今日、初めて凛に会えたのに、会えた時間は予想していた以上に短かった。


せっかく…来てくれたのに、、私の馬鹿野郎。後悔しても何も変わらないけど天邪鬼な自分に腹が立つ。

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