第13話

私は凛と水瀬さんと別れ、教室に入ると涼ちゃんが既に帰ってきており、るんるん気分で涼ちゃんの元へ向かう。

同族を見ると安心するし心が軽くなる。


「遅かったね」


「うん。凛達と一緒にいたから」


「えっ、そうなの?」


「1人でお弁当食べてたら凛と水瀬さんが来て」


「そうなんだ…凄いね」


いや、いや…全然凄くないし、大変だったし。でも、月族の涼ちゃんからしたら太陽族の2人とお弁当を食べるのは凄いことみたいだ。


「はぁ、、疲れたよー」


「そうなの?」


「疲れるよ(水瀬さんになぜ、ぼっち飯をしてるのか聞かれたし)」


ぼっち飯でも、私は音楽を聴きながら鼻歌を歌いながらお弁当をのんびり食べるつもりで自分なりに楽しむつもりだった。

でも、いつのまにか太陽族に挟まれ…心をえぐる質問をされ本当に大変だった。


「ねぇ、佐倉さんと水瀬さんってどんな人なの?見た目通り?」


「そうだな…強いて言うと変な人」


「えっ、2人とも?」


「うん。凛はストーカーだし、水瀬さんは不思議な人(元ヤン…なのか?)」


「はは、何それ。面白いね」


「面白くなんて無いよ!疲れるし」


友達の苦労は他人事だから楽しめる。私からしたらめちゃくちゃ大変で、涼ちゃんも太陽族に挟まれる私の立場になってほしい。


「それでも、千紘のことを羨ましいと思う人が多いと思うよ」


私だって…少しは嬉しい気持ちはある。太陽族に憧れはあるし、みんなが話してみたいと思える人と私は普通に話している。


だけど…


「疲れちゃうよ…」


「まぁ、そうだよね。眩しいよね」


涼ちゃん…違うよ。眩しい部分は確かにあるけど、不釣り合いな自分が嫌なんだ。

2人と一緒にいると勝手に脳が妄想して、落ち込んで、月族の自分が嫌になる。

色々考え過ぎて疲れてしまうし、もっと気楽に過ごしたいのに過ごせなくなる。


「どうやったら、自分に自信がつくかな?」


「えー、そうだな。自分磨きとか」


「見た目ってこと?」


「見た目と中身かな」


「2つも…無理、絶対無理」


「諦めるの早いって」


でも、お洒落とか苦手だし…中身を変えるってどうしたらいいのか一番分からない。

凛も水瀬さんも元が良いから磨けば更に輝けるけど…私は無理だよ。元が地味だもん。


「月は太陽にはなれないだよ…」


「それは惑星の月と太陽のことでしょ。千紘は人間じゃん。絶対はないでしょ」


さっきから涼ちゃんに励まされてばかりだ。でも、優しい涼ちゃんの言葉を素直に受け取れればいいのに頑固な私は無理だと諦める。

私はあんな風に輝けないと…








てぇぇぇい!

やー!


空手は心技体の競技


腹から声(気合い)を出し、拳を真っ直ぐ前に伸ばす。突きは基本の型だ。

風を切るように鋭く突く。普段、地味で大人しい私が唯一大きな声を出し、俊敏な動きをする。空手をする私はもう1人の私。


こうやって今まで寂しさを打ち破った。凛が引っ越して、めちゃくちゃ寂しくて、悲しくて、辛くて、空手を始めて…

鉄棒のせいで記憶は飛んでしまっているけど、凛がいなくなった日のことは覚えている。


ずっと一緒にいれると思っていた人が突然いなくなり、永遠はないんだなって知った。

そして、高校生になり人は変わるんだって知った。現実はえぐいぐらい辛辣だ。



変わる人と変わらない人…



凛に変わってほしくなかったとは思っていない。でも、前みたいな距離にはなれない。

私が勝手に境界線を作ってしまうし、凛には水瀬さんみたいな太陽族の方が合っている。


「よーし、休憩!」


「押す!」


私はタオルで汗を拭き、スポーツドリンクを飲みながら、携帯を触る。

凛から明日も美術室でお弁当食べるの?とLINEが来ており、私は明日は部活は休み+それにいつもは友達と教室でお弁当を食べてるからと返事を送った。


あっ、すぐに返事が返ってきた。凛は時間的にまだ部活中のはずなのにすぐに返事を送ってくる。もしかして、私と同じ休憩中なのかな?それかマメなのかも。


〈一緒に食べちゃダメ?〉


凛は…なぜ、私に執着するの?水瀬さんという友達もいるし、告白をされるぐらい人気があって、太陽族なのに。


〈無理〉


私は偏屈で頑固で意地っ張りだ。これ以上、凛とご飯を食べたら凛との関係がバレるし、涼ちゃんもきっと緊張すると思う。

だから、丁度いい距離感は大事なのだ。


〈ちーちゃんのケチ〉


〈私の友達が気を使うでしょ〉


〈分かった…〉


凛がやっと諦めてくれた。私だって幼馴染の凛と11年ぶりに会えたのは嬉しい。

だけど、11年という歳月は長すぎる。私の中で出来てしまった凛との距離は遠いんだ。


最頂点の幼馴染は私を苦しくさせる。

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