第11話
今日はお弁当を食べている気がしない。太陽族に挟まれ、ぶっ飛んだ発言を食らい、身動きが取れず、居心地が最悪だ。
私の唯一の休息の時間なのに…全く休息をできていないってどういうこと?
「ちーちゃん、空手が終わったら家に行ってもいい?」
あっ、この話はもう終わったと思っていたけど凛は覚えていたみたいで話の続きをする。どうしても私の家に遊びに来たいみたいだ。
「いいけど、遅くなるよ」
「何時?」
「6時半」
「全然大丈夫だよ」
「分かった…家の場所、分かる?」
「勿論!」
あっという間に凛が私の家に遊びに来るのが決まり、展開の速さにこれが太陽族のスピードかと驚きつつ、疲れが溜まっていく。
この疲れは遠足の前日の気持ちに似ている。楽しみではあるけど、脳が勝手に疲れる。
「凛ってさ、佐藤さんの前だと饒舌だよね」
水瀬さんは本当に不思議な人だ。また、急に変なこと言い出すし、月族の私には太陽族が何を考えてるのか読み取れない。
だけど、太陽族の凛は「そりゃそうだよ」と言い(理解し)なぜか恥ずかしそうに俯く。
「佐藤さん。唐揚げ、私の唐揚げと交換しない?どんな味か気になる」
「あっ、はい。どうぞ…」
ちょっと待って!話が変わるペースが早すぎる。さっきは凛の話をして、今は唐揚げの話になり、私の唐揚げを美味しそうに食べる水瀬さんは掴みどころがなさすぎる。
あっ、水瀬家の唐揚げ美味しい!私の家は塩胡椒ベースだけど、水瀬家の唐揚げはにんにく醤油で味が濃厚だ。
「ふふ、美味しい」
「ちーちゃんって、食べ物に弱いよね…」
あれ?今度は凛が拗ねている。ねぇ…これって私の理解力が悪いの?それとも太陽族に私がついていけないだけ?
唐揚げを食べただけなのに凛に拗ねられる意味が分からないし、会話が変わり過ぎ!
「凛、梅干しいる?」
「いらないよ!今日はパンだし、それに私が嫌いなの知ってるでしょ」
「知ってるよ。わざとだもん」
凛を揶揄うような態度の水瀬さん。仲がいいからの会話だと思うけど、2人の仲に少しだけ取り残された気分になった。
私は凛が梅干しが嫌いなのを知らない。でも、水瀬さんは知っている。幼馴染なのにね…そっか、梅干しが嫌いなんだ。
「凛、梅干しいる?」
「えっ?いる!」
あれ、ちょっと意地悪をしてやろうと思っただけなのに凛に私からの梅干しは「いる!」と言われてしまった。
でも、なぜだろう?凛といると私の中のSっけが出てきて、楽しい気持ちになる。
「あーん」
きっと、本当に梅干しが苦手なのだろう。ゆっくり開いた口の中に梅干しを入れると凛は涙目になり必死に我慢している。
「本当に梅干し苦手なんだね」
「ちーちゃん…酷いよー」
「ほら、唐揚げもあげるから口開いて」
「うん!」
美味しそうに唐揚げを食べる凛はさっきとは打って変わって笑顔で、水瀬さんはそんな凛を見て笑っている。
「美味しい?」
「うん、美味しい!」
「佐倉さんってさ、、」
「ちーちゃん、そろそろ名前を統一しようよ。凛がいい」
「やだよ」
「なんでー」
何でって、理由は簡単だ。凛って普段から呼んでしまうと口癖になるし、周りに凛と幼馴染とバレてしまう。
私は絶対にバレたくないし、中間業者は嫌だし、凛は水瀬さんと仲がいいから水瀬さんへの中間業者にもされてしまう。
それに…一番嫌なのは
へぇ、あの子が佐倉さんの幼馴染なんだ
ふーん、地味っ
眼鏡って
不釣り合いだよね
陰キャってありえなくね?
嫌だ!絶対に嫌だ!そんなの私が一番分かっている。陰キャと陽キャは相容れないって。一緒にいちゃダメだって。
だからこそ、私から凛に話しかけることはないし側にいてはいけない。
「凛、佐藤さんに無理強いしちゃダメだよ」
「別に…」
「やっと、話せるようになったんだからゆっくり進みなよ」
うん?2人の会話の意味が分からない。凛が私とやっと話せるようになった?
えっ、だって…凛は久しぶりに会った私に対し「可愛い」とか平気で言う奴だ。
それに11年ぶりに会った凛は私の知っている凛ではなかった。月族から太陽族に変わり、見た目も性格も変わってしまった。
でも、本当に変わってしまったのだろうか?凛の時折見える月族の要素。
私は離れていた11年間の凛を知らない。どんな生活をしていたのか、どんな友達と仲良くしていたのか、どんな恋愛をしていたのか。
私は5歳のままの佐倉凛(りんごちゃん)で止まっている。凛の…本当の姿ってどれ?
太陽族?
月族?
どっちなの?
それとも、やっぱり陽キャになれるチップが埋め込まれてるの?(私も欲しい!)
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