第10話

二限・三限と授業が始まるまでの短い時間、私は教室から全速力で脱出し、クラスメイトに水瀬さん・凛のことを聞かれずに済んだ。

でも、ちっとも休憩できず体がしんどい。何で私がこんな目に遭わないといけないの?と理不尽さを訴えたい。


でも、月族の私が出来るはずもなく…ただ時間だけが過ぎ、私はまたお弁当を持って教室を抜け出し美術室に向かう。

今日の昼食は涼ちゃんと食べれないからぼっち飯だけど、やっと休息できる。



部活でよく来る美術室だけど、初めてお昼の時間に美術室に来た。あっ、ちゃんと顧問の先生には許可を貰っているから私がここでお弁当を食べるのは問題ないからね。

寧ろ、ぼっち飯を心配されマリア様みたいな微笑みで「いいよ」と言われたし。


誰もいない空間は「ふふ」となぜか笑みが溢れてしまう。私は骨の髄まで月族で、軽い足取りで窓側の小さな机にお弁当を置き、椅子に座り周りを見渡す。

太陽族だったら寂しいと思うかもしれない無の空間は私に安らぎを与える。


私だって話す人がいないのは寂しいけど、たまにだったら寧ろ充実感を得られる。視線と圧から逃れた開放感に私は陽気に鼻歌を歌いお弁当を食べ始めた。

今日は私の大好きな甘い卵焼きとトマトと唐揚げが入っており幸せな気持ちが増幅する。これぞ最頂点のラインナップ。


「美味しそう〜」


そうでしょ。だって、私の大好物ばかりだもん。って…へっ?

私しかいない空間だったはずなのに横から声が聞こえ、顔を横を向けると凛がいた。


「えっ、何で…」


「ちーちゃんがお弁当を持って廊下を歩いてるのを見つけて尾行した」


いやいや。笑顔でそんなことを言われても、やっていることはストーカーだ。


「へー、誰もいない美術室って広いね」


もう一つの声が聞こえ、私はギュンと180度首を動かし声が聞こえた方向を向くと水瀬さんもおり、箸で掴んでいた大好きな卵焼きがお弁当に落ちる。

なぜ、太陽族の2人が私の神聖なサンクチュアリにいるの?あり得ないし!


「ちーちゃん、一緒にお昼食べよう〜」


ぼっち飯は基本寂しいけど、場所によっては幸せな空間になる。そんな私の楽しいぼっち飯が太陽族に阻まれワイワイと音を立てる。

それも小さな机の上に2人のお弁当とパンが置かれ、机の上が華やかに彩られていく。


「はぁー、お腹空いた」


「あっ、ちーちゃんの卵焼き美味しそう」


なぜ、私はこんな目に…凛と水瀬さんに挟まれお弁当を食べるなんて落ち着かないし、水瀬さんのキャラ弁可愛いし(この人、本当…不思議な人)、凛は私の卵焼きをジッと見つめおやつを待っている子犬のようだし。


「卵焼き、食べていいよ…」


「いいの!ちーちゃん、ありがとう」


この、目を細めた笑顔…本当、ずるい。この笑顔を見ると腹が立つし、私は常々思っていることがある。

元の顔が良い+笑顔が最高って一番ずるいよね?どれだけ前世で徳を積んだら得られるのって神様に文句を言いたいし。


そして、甘え上手なのが腹が立つのを通り越してムカつく(嫉妬だけどね!)


「ちーちゃん、食べさせて欲しい」


ねっ!腹が立つでしょ。普通はこんなセリフ言えないって。それに、きっと凛は自分の顔の良さを自覚していない。


「嫌だよ」


だから、私は負けない。幼馴染として凛には厳しく接する。この無自覚、光・犬属性は優しくすると調子に乗る。


「えー、お箸持ってないし…」


「ほら、私の使っていいよ」


「ちーちゃんのケチ」


凛は私に対しよくケチと言うけど、私が悪いのだろうか?いや、きっと悪くない。凛が私に対し、理想を押し付けているだけだ。


「美味しい〜」


「お母さんが喜ぶよ」


「あっ、今度ちーちゃんの家に行っていい?おばさんに会いたい」


「いいけど…(お母さんが呼べって言っていたし)」


「じゃ、明日!」


「無理。道場に行く日」


「着いていく!見学してもいい?」


「やだ!空手は自分との戦いなの。見学者がいると集中できない」


「そんな…」


練習や必死にやっていることを見られるのは月族は関係ないかもしれないけど嫌だ。それに空手は自分を高めるスポーツだ。

礼儀作法、集中力など自分を規律させることが大切で友達の応援なんて無用!


「ねぇ、佐藤さん。何で眼鏡してるの?」


「えっ?」


キャラ弁を黙々と食べていた水瀬さんが突然、おかしなことを言う。これは太陽族の性質なのか質問の意味が分かりづらい。


「眼鏡って空手しているとき危なくないの?組み手とかあるでしょ」


「大丈夫です。稽古は相手に当たらないようにしているので」


「そうなんだ」


基本、大会や試合に出る選手を目指す人だったら眼鏡は無理だけど、私は大会などは出ないから問題なかった(小さい頃は出たことあるけど緊張でボロ負けして諦めた)


「あの…何か?」


「勿体ないなって思って。可愛いからさ」


やっぱり…太陽族は合わない。私をジッと見るなり勿体ないとか可愛いとか、どんな思考をしているのだろうか?

それとも可愛いが口癖なのだろうか?太陽族は思考回路がぶっ飛びすぎている。


「ちーちゃんは眼鏡してても可愛いし!」


私の眉間にシワが寄る。太陽族、無理…まじで無理。頭の思考が私と違いすぎるし、そんなパリピ的発言を恥ずかしがらず、真顔で言える精神についていけない。


「分かってるよ」


だから、真顔で同意しないで!凛はまだしも、水瀬さんに言われると身体中がむず痒くて、精神的に追い込まれる。

2人のせいで大好きな卵焼きがトマトが唐揚げの味がしないし、脆弱な私の精神のセキュリティーもっと頑張れ!


拾えるシールドどこ⁉︎

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