第6話
凛の触り癖はもとからだ。よく、私の腕にしがみつくように引っ付いていたし、甘えん坊で同じ歳なのに妹感があった。
5歳の頃はそんな凛が可愛いと思っていたけどデカくなった凛に対してはそんな感情は出てこないし本気で面倒い。
私の腕にしがみつき、水瀬さんに対し威嚇する凛は犬そのもので、一体いつになったら私は凛から解放されるのだろう。
11年という歳月はここまで甘えん坊の濃度を高めてしまうものなのか?体も顔も成長しているけど心が子供のままだ。
「凛、良い加減にして」
「やだ!」
「練習サボる気か」
「今日ぐらいいいじゃん」
「ダメに決まってるでしょ!それに、佐藤さんをこれ以上困らせるな」
「それは…」
やっと凛がこの状況に気づいてくれた。水瀬さん、Good Job!だよ。やっと、良い仕事をしてくれてありがとう。
「ちーちゃん…私、迷惑、、かな」
「うん」
「そんな…」
私はすぐにでも家に帰りたい。涼ちゃんをずっと放置してるし、お腹が空いた。
「ほら、迷惑って言われた」
「陽奈、うるさい」
あっ、凛にうるさいと言われた水瀬さんが落ち込んでいる。でも、この2人が仲が良い理由が分かった。性格が似ている。
「凛、部活はサボっちゃうダメだよ。他の部員の人に迷惑になるから」
「ちーちゃん…(パァァ)」
私に《凛》と名前を呼ばれるだけで嬉しそうに笑う凛は可愛いけどチョロい。
だけど、この可愛さは甘やかしたくもなる。ヨシヨシと頭を撫でたいし、もっとこのニコニコした笑顔を見たくなる。
でも、今ではない。早く帰りたいし、蚊帳の外の涼ちゃんがずっとソワソワとしており私達が部活の邪魔をしている。
「あの…番号交換したい」
「いいよ。番号交換したらちゃんと部活に行くんだよ」
「うん!」
私と凛は番号を交換する。凛は私の番号を嬉しそうに眺め、微笑んでいる。
「ほら、凛。部活に行くよ」
「分かったよー。ちーちゃん、また明日ね」
「うん」
凛と水瀬さんに手を振り、2人の背中を見送ったあとやっと深く呼吸する。
疲れた。凛も疲れるけど水瀬さんも疲れる。
「千紘…幼馴染って佐倉さん?」
「うん」
「おぉ。それは凄いね。バスケ部の1年のエースじゃん」
「凛のこと知ってるの?」
「勿論だよ。2人ともカッコいいよね〜」
涼ちゃんがこんな風に人を褒めるなんて珍しい。でも、涼ちゃんの気持ちは分かる。
月族にとって太陽族は眩しい存在だけど憧れの存在でもある。
「いいな。幼馴染って響きいいよね。私も欲しかったな」
「まぁ、響きはいいよね」
私も幼馴染って言葉は好きだ。特別感があるし、友達と違い唯一無二感がある。ただ、私と凛は5歳の時に別れ離れになっているからどうなんだろう?
同じ年に生まれ、家が隣同士で、幼稚園までずっと一緒だった。5年間だけど…
「あっ、千紘。明日のお昼、私はいないからね」
「えっ、何で!」
「園芸部、昼休みに全員集まって明日の野菜を収穫するの。そして、ついでに食べる」
「えー、私も一緒に食べる」
「無理だよ。千紘、美術部じゃん」
「そんな…」
涼ちゃんがいないと私はぼっち飯確定だ。どうしよう…教室で1人ご飯を食べるのは悲しいし、目立つし、、絶対に嫌だ。
どこか、ぼっち飯が目立たない場所でお弁当を食べれたらいいけど、そんな場所を知らないし、もし…見られたら吐血してしまう。
「佐倉さんと食べたら?」
「無理だよ!クラスも違うし」
「クラスが違っても別にいいじゃん。幼馴染なんだし、関係ないでしょ」
「絶対に無理!明日、休もうかな…」
「ちょっと…ぼっち飯が嫌だからって」
「だって、、あっ、美術室で食べるよ!」
美術部で良かった。これでぼっち飯をのびのびと食べれる。携帯で音楽を聴きながら食べれるし、やっと気持ちが上昇してきた。
「よし。じゃ、帰るね」
「えっ、待っててくれないの?」
「今日は帰る。疲れたし」
時間的には1時間ぐらいだけど1ヶ月分の疲れが一気に押し寄せた感覚で、今日1日で沢山話したし、家でゆっくりしたい。
拗ねる涼ちゃんと別れた私は…忍足で体育館に向かう。凛がちゃんと部活をやっているか確認したかった。
そっと、換気のため開けられているドアから中を覗くとバスケ部が大きな声を出しながら練習をしている。
制服からTシャツと短パンに着替えた凛と水瀬さんがいて…2人に目が奪われる。2人ともまだ1年生なのに動きが凄い。
5歳の時の凛は運動が好きじゃなく、私とお絵描きばかりしていたのに私が苦手な球技を楽しそうにしている。
凛って運動神経良かったんだ。バスケをする姿が腹が立つほどカッコよくて、変わってしまった幼馴染が眩しい。
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