第7話

私は家に帰ったらルーティンがある。制服から部屋着に着替えゴロゴロし、夕ご飯を食べた後に自室でFPSゲームをし、お風呂に入ったあとゴロゴロしながら寝る。


そんなルーティンが凛によって崩される。さっきから携帯には凛からのLINEが何度も来ており疲れる(教えるんじゃなかった…)


11年ぶりに会った幼馴染は随分変わってしまった。5歳までの記憶しかないから仕方ないけど、今も本当に私の知っている佐倉凛なのかと疑ってしまう。


それとも私と凛の熱量が違いすぎるのは凛が太陽族だからだろうか?

月族の私は静かに過ごしたいのに太陽族は夜も活発で、疲れを知らない。


「千紘ー、お風呂に入りなさい」


「はーい」


お母さんにお風呂を促され、ソファーから立ち上がる。そして、お母さんに訝しげな表情で「今日は珍しくゲームしてないわね」と疑問をぶつけられた。


当然だ。食後、いつもだったら自室の部屋でゲームをしている私が今日はリビングのソファーの上で携帯と睨めっこしていた。


私だってゲームをしたかった。でも、凛からのLINEがしつこくて…流石に返答をしないのはいくら私でも凛が可哀想で出来ない。


「あっ、そうだ。お母さん、佐倉凛って覚えてる?」


「りんごちゃん?」


「うん」


「勿論覚えてるわよ。千紘の幼馴染だし」


「凛ね、私と同じ高校に通ってるよ」


「えっ、そうなの?こっちに戻ってきたんだ」


お母さんは凛の名前を聞いただけですぐに思い出した。そして「凄い偶然ねー」と言いながら何か思い出したように棚を漁る。

お母さんが私に懐かしい写真を見せてきた。私と凛が一緒に写っている幼稚園の時の写真で2人とも姿形が幼い。


「この写真は5歳の時かな。確か、この年に引っ越しをしたんだよね」


「うん、そうだよ。凛…幼いな」


「りんごちゃん、千紘のことが大好きでよく千紘と結婚するって言ってたわよね」


「そうだっけ?記憶ないよ」


「言ってたわよ。だから、引っ越し当日はりんごちゃん号泣して大変だったし。最後の挨拶に来てくれた時、やだーって言って千紘から離れなくて」


私は記憶障害になっているのかもしれない。本気で昔の記憶がカスカスで、中学生の時に鉄棒から落ちて頭を打って以来過去の記憶も飛んでしまった。


「千紘は普段暗いのにりんごちゃんに対してだけ口が悪くて姉御肌だったわよね」


お母さん、娘に対し暗いって…否定は出来ないけど。


「そんなに口悪かったの?」


「他の人の前だとオドオドしているのにりんごちゃんの前だけハキハキして、きっと千紘の中でりんごちゃんは心を許せる友達だったのよね。りんごちゃんが引っ越した後、千紘しばらく落ち込んでいたし」


「そうなんだ」


凛が引っ越しをして落ち込んだのは覚えている。めちゃくちゃ寂しくて、孤独で、片方の翼をもぎ取られた気分だった。


「そっか、りんごちゃん戻ってきたんだ。千紘、りんごちゃんを家に招待しなさいよ。お母さんも会いたいし」


「別にいいけど…」


お母さんが懐かしそうに写真を見るから嫌だとは言えない。きっと、お母さんは今の凛の姿を見たら驚くだろうな。凛は見た目も変わってしまった。


「来る日が決まったら教えてね。お菓子、買っとくから」


「うん」


今日、久しぶりに凛に出会い…高校に入学して半年だから久しぶりって言葉はおかしいけど会話をしたのは11年ぶりだからいいはず。

今日だけで色々と私の周りが変わった。バスケ部で太陽族の水瀬さんと電話交換をし(陰は薄いけど)凛と昔みたいに話せた。


私は小さい頃、赤色が好きで凛のことを勝手にりんごちゃんと呼び始めた。凛+好きな赤色でりんごって安易な命名だけど一応好きなものって意味がある。

この時の私は若かったなっとまだ15歳だけど過去を懐かしむ。凛は昔から笑顔が可愛くて、犬っぽくて、大人しくて。


大人しい部分は変わってしまったけど、笑顔と犬っぽい部分は変わっていない。だけど、変わってしまった部分が私を戸惑わせる。

写真の中の凛は私の知っている凛だけど、今日会った凛は知らない凛の部分が多かった。私とは正反対の太陽族になっていたし。


あっ、変わってない部分がまだあった。寂しがりやな所と私の名前を笑顔で呼び、私に名前を呼ばれると嬉しそうにする所。

あー、でも…なんかイライラする。急に現れた幼馴染がバスケ部で、カッコ良くなって、簡単に「可愛い」って言葉を発する所。


私が無性に腹が立つのは後天的な陽キャのくせに(チップ説も捨てがたい)という思いと私と同類の部分が見え隠れしていたから。私には姿を偽っているように見えた。

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