第5話

「涼〜ちゃん」


「うぉ、、えっ、どうしたの?」


疲れてしまった私は癒しを求めるため、高校で唯一の友達の野村涼子の背中に抱きつく。


はぁ〜、い・や・さ・れ・る


黙々と花の手入れをしている涼ちゃんを見た時、私は改めて同志っていいなって思った。

素朴なお顔、素朴な性格…落ち着く。


「千紘、重いよ」


「もう少しだけ(まだ、30%しか癒されてない)」


涼ちゃんからは土とお花の匂いがする。凛は香水ではないけど甘い香りがした。

自然な匂いと人工的な香り。匂いまでも月と太陽は相容れない。私と凛みたいだ。


私は涼ちゃんの匂いの方が好きだし、私がこうな風に甘えられるのは涼ちゃんだけで、涼ちゃんは高校の唯一の心の友だ。

私と同じFPSゲームが好きで、私達はゲーム繋がりで仲良くなった。


「部活、終わったの?」


「うん」


「声に元気ないね。何かあった?」


「うーん、久々に幼馴染に会った」


「幼馴染?幼馴染がこの学校にいるの?」


「うん。今日、知った」


「今日、知ったって酷い奴だな」


そんなことを言われても仕方ない。だって、11年ぶりだし太陽族になった凛の容姿が変わりすぎてて分かるはずない。


「でも、何で幼馴染と久々に会えたのに疲れたの?」


「太陽族になってたから」


「太陽ぞく?」


「陽キャの部類かな」


「あー、それは疲れるかも。ずっと一緒だったら慣れているから大丈夫だけど突然はキツイね。私も驚きと違いに疲れそう」


流石、同志の涼ちゃんだ。すぐに私の気持ちを理解してくれる。


「ねぇ、性格って生まれつきがあるじゃん」


「うん」


「そもそも生まれ持った性格って変わるものなのかな?私と同類だったのに変わっちゃってた」


「会ったの11年ぶりだっけ?」


「うん」


「だったら、変わるかもしれないね。11年って歳月は長いから」


「そっか…」


人間は歳月と共に変わる。でも、凛の根っこの部分は私と同じような気がする。

先輩達がいない日を狙ったと言っていたし。


「あれ?水瀬さん…」


普段鳴らない私の携帯からメロディーが流れる。画面には水瀬さんの名前があり、オロオロしながら出ると「凛、そっちに行ってない⁉︎」と慌てた様子の口調で言われた。


私は来てないですと言おうとした。でも、寂しそうな表情で少し離れた場所から私の方を見ている凛を見つけ驚く。


「凛…」


「やっぱり、佐藤さんの所にいるの⁉︎今、どこ?私、美術室にいるんだけど」


「えっと…園芸部、、花壇の所です」


「分かった。すぐに行く」


水瀬さんからの電話が切れ、私は立ち上がる。凛の場所まで行こうと歩き出すと凛が後ろを向いて走ろうとするから私は慌てて大きな声で「凛!」と名前を呼んだ。


思わず、凛って呼んでしまったけど功が奏したようだ。凛が立ち止まり、私の方を向く。

私はまた大きな声で凛に「何で、走ろうとするの」と言った。私は足が遅いから近づこうとして走られたら追いつかない。


ゆっくり一歩ずつ凛の元へ歩いていく。ここで私まで走ってしまったら逃げ出した飼い犬を捕まえようとする飼い主を困らせる犬のように走りそうで怖かった。


じわり、じわりと近づき…私は凛の腕を掴む。これでもう逃げられない。


「やっと、捕まえた」


「ちーちゃん…」


「佐倉さん、どうしたの?」


「また、名前の呼び方戻った…」


「別にいいでしょ」


「凛って呼んで欲しいのに…ケチ」


名前の呼び方ぐらいで拗ねるなんて子供みたいだ。でも、虐めたくなる顔をしている。


「ねぇ、何で走ろうとしたの?」


「ちーちゃんが、、」


「あー!やっと見つけた!凛!また逃げやがったな!先輩が修学旅行でいないからって」


「うげ、、何でここが…」


凛が水瀬さんを見た瞬間、驚いた表情をする。きっと、バレないと思ったのだろう。


「佐藤さん、ありがとう。助かったよ」


「いいえ」


「えっ、どういうこと?」


「佐藤さんに電話で教えてもらった」


「はぁ?何で陽奈がちーちゃんの番号知ってるの!私はまだ知らないのに!」


凛が地団駄を踏んで子供みたいに怒っている。本当、面倒くさい…


「ちーちゃん、何で陽奈にだけ番号を教えたの!私は⁉︎」


「聞いてこなかったじゃん」


「それは…今日、やっと初めて話せたから」


凛と話すとどうしても頭がこんがらがる。太陽族のくせに月族みたいな言動を見せるし、やっぱり首か頭に陽キャになるチップが埋め込まれており、不具合で磁気がおかしくなりバグってるのかもしれない。


「凛」


「えっ?」


私が凛と呼ぶと大好きな飼い主に名前を呼ばれた犬みたいに笑顔になり、、


「佐倉さん」


「えっ…」


凛は表情がコロコロと変わり面白い。でも、一緒にいると疲れる存在で…


「面倒くさいな」


「えー!何で…」


凛といると心の声がつい漏れてしまう。でも、凛だから別にいっかってなり放置する。

そっちの方が凛の表情が面白いし、眉毛を下げ落ち込む姿が犬みたいで可愛い。


「おい!私を無視するな!」


あっ、また太陽族の水瀬さんのこと忘れていた。この人、見た目から太陽族なのにどこか影が薄いから存在を忘れてしまう。

涼ちゃんは私と同類の月族なのでこの状況を見守っている。月族と太陽族…何、この組み合わせ?消化不良を起こすよ。

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