第3話

ヒィィィィィ


無理やり凛を部活に連れ出そうとする水瀬さんが凛の腕を掴み、立ち上がらせようとする。そして、凛が私に抱きつき抵抗する。

おかしいって!何、この状況って叫びたい!巻き込まれ事故すぎるし、凛が私にしがみつき水瀬さんは必死に私から剥がそうとする。


「ウゲェ」


力学的に同じぐらいの力で引っ張り合うと反動でそのまま引っ張っている方向に倒れてしまうことが多い。

力が拮抗した末、水瀬さんは床に尻餅をつき、私は凛の下敷きになった。お陰でさっきから変な声が出て、最悪の厄日が続く。


「ちーちゃん、大丈夫!!!」


全然大丈夫じゃないし、むしろ、このまま昇天させてほしい。きっと、このまま目を瞑っていれば複数の可愛い天使がお空に連れて行ってくれるはず。

パトラッ…犬は飼ってないからこの言葉は言えないけど、お父さん・お母さん今日まで育ててくれてありが…


「きゃー」


本当に私の体が宙に浮き上がり、私の顔の近くに凛の顔がある。何を思ったのか、凛が私をお姫様抱っこしているのだ。

そして、私は人生で最上級のパニックに陥っている。お姫様抱っこ+凛の手が私の胸を…


「ちーちゃん、良かった…目を覚ましてくれて。あっ、でも保健室に行こうね」


いや、保健室とかどうでもいいから!おっぱい!あっ、違う。私の頑張って成長しようとしている胸に凛の手が当たっているの!


「む、、むね」


「むむね?」


ダメだ。きっと、胸という単語を言っても凛は気づかない。理由は分かっている…私の胸が発展途上だけど少しだけ成長が遅いから、手が胸を触っていても凛は胸だと気づいていないのだ。めちゃくちゃ悔しい!


「降ろして…大丈夫だから」


「でも、、」


「大丈夫だって」


めちゃくちゃ疲れる。体力的にも精神的にも。本気でここで永眠したくなってきた。


「あの…大丈夫?」


あっ、すっかり忘れていた。そう言えば水瀬さん、まだいたよ。太陽族なのに光を放っていないから忘れていた。


「大丈夫です…」


「ごめんね。私のせいで」


そうだね。そうだよ。ってか、一番悪いのは凛だけど。大きなため息を吐きたい。漫画みたいに「ハァァ」って擬態語を付けたい。

だけど、陰キャの私がそんなことできるはずもなく必死に笑顔を作る。でも、きっと口角が引き攣っているはずだ。


「陽奈の馬鹿ー!ちーちゃんが怪我したらどうするの!」


「ごめんって…」


いや、どこも怪我してないし大丈夫だから。もう帰ってくれ。それか、私に帰らしてくれ。そろそろ、本気で疲れて倒れるぞ。


「ねぇ、凛。本気で…バスケ部辞めたの?」


「うん。辞めた」


「何で?」


水瀬さんが悲しそうな顔をしている。当然だ、友達が勝手に部活を辞めたのだから。


「ちーちゃんと一緒にいたいから」


ふーん、ちーちゃんと一緒にいたいって。どこぞの青春だよって言いたくなるよね。

好きな人を追って部活を辞め、好きな人の部活に入るなんて王道の少女漫画すぎ…はぁ?


「何でだよ!」


私は15年生きてきたけどツッコミをしたことがない。そんな私が生まれて初めて人間にツッコミをした。

いや、そんなキョトンとした顔をしないで。凛がおかしいし、私はおかしくない。それに水瀬さん。ちゃんと太陽族として起動して!


何も発さず、ただひたすら私達を見つめるバスケ部の太陽族はスリープしているかのように放心している。

お陰で、陰が薄く太陽族にあるまじき灰色になっており光を失った廃人だ。


「ちーちゃんと11年も離れていたんだよ。11年という月日を取り戻す」


いやいやいや、おかしいこと言ってるし。それも自信満々の表情で言われても私は凛のこと忘れていた(一番、最低で酷い奴)


「佐倉さん、バスケ部に戻った方がいいと思うよ」


私は大切なパーソナルスペースを守るために凛に助言をする。これは凛のためでもあるし、太陽族は一緒にいると疲れる(本音)


「ちーちゃん…そんな」


「ほらー!言われてるじゃん!」


「やだやだ!ちーちゃんと一緒にいたい」


太陽族に復活した水瀬さんが凛を煽る。2人とも、まるで子供みたいだ。

特に凛は見た目は成長しているけど、精神年齢は成長しておらず5歳児のままで。


だから!私の肩を掴み振るのはやめてくれ。


「先輩のいない日を狙って頑張ったのに…」


あれ?急に凛が落ち込み項垂れる。思いがけないことに思わず、凛に声を掛けてしまった。


「バスケ部の?」


「違う。美術部の…」


凛の言葉を聞いて水瀬さんが呆れている。私は頭に?マークが浮かび意味が分からない。何で、美術部の先輩がいたらダメなのか?

だから、また疑問を質問する。モジモジしている凛が変だしおかしいし、口下手で奥手の昔の凛が重なっている。


「凛って美術部の先輩が苦手なの?」


「違う。高校に入学して初めてちーちゃんに声を掛けるから誰もいない方が緊張が和らぐかなって」


凛は私より身長が高い。5歳の頃は私より身長が小さかったのに抜かれてしまった。

でも、今は5歳の頃みたいに小さく感じる。あの頃の凛がいるみたいな…


うげー


「ちーちゃんから離れたくないー」


苦しい!苦しい!凛が私の体をプレスするみたいに抱きつき、そのせいで私の体が潰される。くそ、体格だけ多くなりすぎ!本気で体がぺちゃんこになってしまう。


それに、凛にめちゃくちゃ文句を言いたい。眼鏡は潰されると痛いの!鼻に引っかかる透明の小さな突起物が当たって痛いの!

眼鏡族しか分からないあるあるを全国に広がってくれ!そして、凛に植え付けてくれ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る