第2話

私の覚えている佐倉凛は身長110センチ(適当)

髪型は肩に付くぐらいのボブ(多分)

顔は可愛い(まつ毛が長かった!)


けど…物静かで幼稚園では私と話すか先生と話すかぐらいの大人しい女の子で、陰キャって言葉を5歳児に使うのはおかしいけど私と同じ人種だと思っていた。





「ちーちゃん。部活、何時に終わるの?」


「何で…」


「一緒に帰ろうよ」


11年ぶりに出会い、陽キャに変貌した幼馴染の凛は私の腕を掴んだまま離そうとしない。

いい加減、床に座っているのも嫌だし椅子に座りたいのに凛がくそ重い銅像のように動かず、徐々に腹が立ってきた。


「佐倉さん、部活やってないの?」


「帰宅部だよ」


部活に入っていたら「部活に行ったら?」と誤魔化せたのに残念。陽キャは部活でもキラキラと輝いている人種だと思ってたから。


「あっ、私も美術部に入ろうかな?絵を描くの好きだし」


「えっ?」


「よし、入部してくる」


「ちょっと待ってよ!急に…」


「ちーちゃん、先に帰ったらダメだからね」


今も床に座り込んでいる私を置いて立ち上がり、部屋から出ていく凛を見送った私は重力に引っ張られるように後ろに倒れた。

もう、制服が汚れようがどうでもいい。精神的にめちゃくちゃ疲れた。


うぅ…もう!何なの!11年ぶりに突然現れて、いきなり可愛い…とか言ったり、私の知っている凛じゃなくなっている。

脳みそが必死に今の状況を整理しようとぐるぐると回る。そして、仮説に辿り着いた。


凛って本当に佐倉凛なのかな?

双子とかないよね?


もしかしたら凛は双子で、陽キャの⚪︎⚪︎ちゃんと陰キャの凛が入れ替わっている?

そして、陽キャの⚪︎⚪︎ちゃんが私を揶揄っている!有り得る!めちゃくちゃ有り得る!

だって、11年経ったとしても、あんなにキャラが変わるなんて信じられない。


「ちーちゃん、入部してきたよー。えっ、どうしたの?」


床に寝転がっている私を見るなり、凛が心配そうに近づきてきた。私は凛の心配をよそに凛の顔をじっと見つめる。

ちゃんと面影がある…でも、双子説だったら当たり前だから仮説がまだ生きている。


「ちーちゃん?」


「本当に凛なの?」


「えっ?凛って呼んでくれた!!!」


「あっ」


しまった。心の中で凛と勝手に呼んでいたからつい何も考えずに名前を呼んでしまった。でも、凛は嬉しそうに「嬉しい!」と言うから否定できない。


「ちーちゃん、私は本当に佐倉凛だよ。5歳の時、親の転勤で引越しした幼馴染」


私の知っている佐倉凛はこんな風にコロコロと表情が変わらない。下ばかり見て、私より大人しくて友達が私しかいなかった。


だから…認められない(認めたくない)


だって、私の知っている凛じゃない。凛はこんな陽キャじゃなかった。髪の長さも違うし(今の凛はセミロング)

髪の色も少し茶色だし。それに何?この人気者確定している風貌は?地味な私とは大違いであまりにも記憶と違いすぎる。


「ちーちゃん、パンツ見えてるよ」


「えっ?」


凛の言葉に私は慌てて起き上がり、スカートを抑える。凛はそんな私を見てクスクスと笑い、凛の嘘だと気づいた。


「馬鹿!」


「だって、ちーちゃんが寝転んだままなんだもん」


さっきから私は凛に振り回されてばかりだ。お陰で苛立ちが蓄積されていく。

久しぶりに会った幼馴染に揶揄わられ、笑われてめちゃくちゃムカつく!


「痛いー」


「うるさい!佐倉さんが悪いんでしょ」


「あっ、また佐倉さんに戻ったー」


凛の頬を力強く引っ張り仕返しをする。普段、陰キャで大人しい私も、やられたらやり返す行動力ぐらいはある。


「ちーちゃん、ごめんなさい。もう勘弁してー」









「ち〜ちゃん…」


私に頬を引っ張られて泣きそうになっている凛が5歳児の凛と重なる。こんなに力強く引っ張ってはないけど、泣き虫だった凛の頬をこうやって引っ張っていた。

泣くなって…この時は私の方が明るかったし、力関係では上だったから。


目の前にいるのは本当に11年ぶりに会った幼馴染の佐倉凛なんだ。でも…見た目も性格も変わりすぎて私は凛と一緒にいるのが嫌だ。

見た目の圧が強いし、お洒落になっているし、私の陰の存在がより際立ってしまう。


でも、流石に可哀想になってきた私は凛の頬から手を離す。凛は必死に両手で頬を擦り、痛みを和らげようとしている。


「ごめん。やりすぎた…」


「痛かったけど、嬉しいよ。懐かしい気持ちになった」


「いつ、こっちに戻ってきたの…?」


「高校に入学する前」


「最近なんだ…」


「ずっと、ちーちゃんに会いたかった」


「うん…」


素直に気持ちを言葉にする凛は凄い。私はこんな風に言葉にできない。これが私と凛の差でこの小さな差が実は大きな隔たりを作る。


「凛ー!あー、ここにいたんだ」


突如、美術室の扉が開き、凛と同じクラスの子だろうか?身長が高く、可愛い女の子が大きな声を出しながら入ってきた。


「陽奈、どうしたの?」


「急にいなくなったのはそっちじゃん!部活に戻るよ!」


部活?確か凛は帰宅部だと言っていたはずだ。そして、さっき美術部に入部した…


「ごめん。さっき、退部した。今は美術部だから」


「はぁ?何を言っているの!先輩達に怒られるよ」


「だから、もう退部したって」


2人のやり取りに私は瞼をパチパチと動かし状況を把握しようと必死だ。

それに私の目の前で喧嘩腰で言い合っているから蚊帳の外の私は戸惑ってしまう。


「あの…」


「あぁ゛?」


ここここ…怖い。勇気を振り絞って声を出したのにドスの効いた声で返された。


「ちーちゃんに怖い声で返事しないでよ!」


「あー、、ごめん。えっと、誰?」


もうどうでもいい。私はこの空間から抜け出したい。怖いし、無理だし!同じ1年生のはずなのに上級生のような圧があるし、目つきが怖すぎる。


「私の幼馴染のちーちゃん!」


「ちーちゃん?」


凛は馬鹿なのか?私の名前を勝手に教えるな!今の目つきは普通に戻っているけど見た目が私とは縁遠い存在すぎて無理なの!


「どうも…水瀬陽奈です。えっと、1年生でバスケ部です」


バスケ部…!!!運動部で5本の指に入る勝ち組の部活。それもバスケ部は1位・2位を争うぐらいトップクラスの太陽族。


えっ…ってことは凛は今日までバスケ部だったのに突然辞めてトップクラスの月族の美術部に入ったってこと?


突然、私の周りにはもう1人の太陽族が現れ、月族の私は眩しくて目を細める。

陽キャの陽は太陽の陽!急にこんなにも陽を浴びたら月は熱中症になってしまう。


佐倉  凛(サクラ・リン)

水瀬 陽奈(ミナセ・ヒナ)


佐藤 千紘(サトウ・チヒロ)


名前から差がありすぎて本気で無理!千紘はまだ百歩譲っていいとして佐藤なんて人口の多い名字ランキング1位だよ!

それに何?佐倉って!水瀬って!カッコ良すぎでしょ!それに、凛と陽奈なんて女の子の人気名前ランキング上位の名前だし!


お母さん!お父さん!私もせめて葵とか芽依とか詩(ウタ)とかが良かった!生まれ持ったこの差が恨めしすぎてくそ恨めしい!

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