第2話 殴り込み部隊

3か月の訓練を終えて私が配属されたのは揚陸部隊。つまり海兵隊だった。男女の区別は厳禁である。男性自衛官と女性自衛官の割合もまた半々と決められていたが、私が海兵隊に配属になった理由は知らない。体格がよかったせいだろうか。精神的強靭さを買われたのであろうか。それともやはり射撃演習で抜群の好成績をあげたからであろうか。


海兵隊は敵地に上陸するいわば殴り込み部隊である。離島防衛、すなわち奪われた離島を奪還するのが海兵隊の使命である。そして…私が配属されたのは西部戦線であった。西部戦線は実は竹島奪還を目的としていた。そう。第二次朝鮮戦争勃発を奇貨として竹島を奪還しようというのである。


竹島の領有権問題は非常にセンシティブな問題だ。ゆえに米軍の参加はない。自衛隊だけで作戦を成功させなければならない。竹島上陸の名目は「島に滞在している人びとの安全確保」であるから空爆や艦砲射撃はできない。いきなり我々海兵隊が上陸して島にいる人びとをひとり残らず「保護する」のだ。


韓国政府は日本政府に対して非公式だが「竹島上陸は宣戦布告とみなす」と牽制していたから我々は戦闘目的ではなく災害救助目的として上陸する。しかし銃撃を受けることは火を見るより明らかであるから当然ながら武装して上陸する。攻撃を受ければ反撃してよいが「無力化するだけで殺すな」というのが命令であった。






舞鶴の海上自衛隊基地から我々は極秘裏に竹島近海に向けて出発した。表向きは通常行われている護衛艦隊による日本周辺海域の海上警備行動だが我々は夜陰にまぎれて竹島に近づき上陸することになっていた。当然韓国側の警戒が厳しいから上陸は極秘裏に行うことになっている。


護衛艦の鑑底ちかくの狭いスペースに我々はすし詰めに乗り込んだ。総勢20名の小隊である。隊長は30代の三等陸佐であった。こんな少人数で竹島を制圧できるのか?新隊員の私は不安になったが私以外の者は歴戦の強者らしく落ち着いていた。


「カモメ、不安か?」


カモメとは私のコードネームである。20名の隊員は全員コードネームで呼び合うことになっていた。やや心配そうに私にそうきいてきたのは分隊長のウミネコである。顔はゴーグルと軍用マスクで覆われているから判別できないが声から推測すると女性のようだった。ちなみに相手に性別を問うのは厳禁である。


「ええ、少し。ミッションは初めてなので」


「心配いらない。隊長は実戦経験豊富な猛者だ」


私はうなずいた。自衛隊は表向き海外で戦闘を行わないことになっているが、実戦経験を積むために海外派遣の折に外国軍に加わって戦闘に参加する自衛官がいることを噂で知っていた。そうか。隊長はすでに戦闘経験があるのか。私は少し安心した。それにしても私のような年配の徴兵がいきなり選抜されたことが不思議でならなかった。






一言答えただけでウミネコは黙っている。ごうごうと絶え間なく聞こえる低く鈍いエンジン音に混じって不規則に聞こえる雑音はおそらく波の音であろう。誰も口をきかない。私語を慎むよう特に命令されているわけではないが皆緊張しているのだろう。緊張感に耐えられなくなった私はウミネコに小声で話しかけた。


「私のような徴兵の新兵がなぜ選抜されたのでしょうか?」


「その質問の答えは知らないほうがいい」


「極秘任務だからですか?」


「まあな。生きて帰れるかどうかわからないからさ」


ウミネコは口をつぐんだ。私は答えがわかったような気がした。小隊メンバーの身元も本名も知らない。しかしなんとなくわかるのだ。皆独身者。そして近しい親族がいない。死んでも悲しむ者がいない。おおかたそんなところだろう。私にはいちおう息子がひとりいるんだが考慮されなかったのか?



ゆっくりローリングする艦の揺れに身を任せて私は目を閉じた。数時間後には実戦が待っている。相手にするのは訓練兵でもマンターゲットでもない。生きた敵兵だ。








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