第116話 はいてくれないか?

「はいてくれないか?」


 怪盗ガウチョパンツが白銀のガウチョパンツを増子さんに差し出した。


「へ、変態だぁ!」

陽翔はると!」

「とち狂ったか変態仮面!」

「それは俺っちでもドン引きだよ〜」


 僕たち全員で怪盗ガウチョパンツを軽蔑した。


「な、なんでだ! 僕は真面目に言っているんだ!」

「女の子に自分のズボンをはかせようとするのが真面目な訳ないでしょ!」


 しず子さんが怪盗ガウチョパンツの襟首を掴んだ。


「自分のではない! 安心してくれ。未使用だ!」

「そういう問題じゃないの!」

「今は身内で争っている場合じゃないよ」


 増子さんが怪盗ガウチョパンツに詰め寄るしず子さんを止めた。


「怪盗ガウチョパンツ、君はなんで僕にコレを渡そうとしたんだい?」

「君の勇気に感銘を受けたからだ。だから僕の勇気の証を託そうと思った。このガウチョパンツは特別な力を秘めていると思う。でも僕では力を引き出せないだろう。僕は弱いからね」

「弱いから諦めるのかな?」

「違う! 弱くても諦めたくないから託すのだ! こんな弱い僕でも出来る事はあるっ! 自分で戦えなくても、誰かを支える力になる!」


 白銀のガウチョパンツを握る怪盗ガウチョパンツの手に力が入る。

 かっこ悪く見えるけど怪盗ガウチョパンツはいつも本気なのだ。


「分かったよ。これは僕がはくよ」


 増子さんが怪盗ガウチョパンツからガウチョパンツを受け取り、体に重ねると光に包まれ衣装が変化していった。


「魔法少女ガウチョジャスティスだ!」


 で〜ん。

 宇宙人ドリンクのようなメタリックで白銀の衣装を着た増子さんが謎のポーズをとっている。

 忘れていた。

 増子さんも怪盗ガウチョパンツに負けないくらい独特な感性を持った人だった。

 でも、そんな増子さんだから怪盗ガウチョパンツと相性が良かったのかもしれない。

 目の前の増子さんは今まで見たことがないくらい輝いている。


「マルク・セットゥ、攻撃しなくて良かったのかい?」


 増子さんがマルク・セットゥに問いかけたが返事がない。

 マルク・セットゥは腹を抱えて笑っていたからだ。

 ですよね〜。

 敵さんだって、こんな変な状況を見たら笑っちゃうよね!


「はぁ、はぁ。やっと笑いが止まったよ」

「そうか。なら攻撃しても大丈夫か?」


 増子さんが構えた。


「構わんよ。どうせ私の力の前で滅びぬ者はいないのだから」

「それなら行くぞ!」

「やってみろよ魔法少女! これが神を滅ぼす為に手に入れた力だ!」


 マルク・セットゥが右手を突き出すと破滅の光が放たれた。


「ブレイブアーティファクト! マジカル・サンシェード!!」


 増子さんが左手を突き出すと白銀の光が集まってサンシェードを形作った。

 これは怪盗ガウチョパンツの攻撃を防げない防御技だ!

 でも増子さんが作ったサンシェードは破滅の光を受け止めた。

 すごいのだ! 

 力は互角みたいだ。


「勇気君! 足りない力は僕が貸す! 自身の力を信じろ!」


 怪盗ガウチョパンツが増子さんの背中に手を当てた。

 宇宙人ドリンクの超能力パワーが伝わっているのが分かるのだ!


「分かったよ怪盗ガウチョパンツ! ブレイブアーティファクト! メラミンスポンジ! 悪しき力を擦り落とせ!」


 巨大な白銀のメラミンスポンジが破滅の光を擦り落とした。

 えええええええっ!

 そんな消し方あるの?!


「なんなんだその力は!」


 マルク・セットゥが初めて焦った。

 これは勝てるかも!


「止めを刺すよ! 力を貸してくれ怪盗ガウチョパンツ!」

「了解だ! 僕を使え!」

「これが僕の……僕たちの勇気の力だ! ブレイブアーティファクト! ガウチョロケット!!」


 増子さんが怪盗ガウチョパンツを掴んで投げた。

 鉛筆みたいにピンとまっすぐに伸びた怪盗ガウチョパンツがマルク・セットゥ目掛けて飛んでいく。


「きょええええええっ!」


 怪盗ガウチョパンツが奇声を上げながらマルク・セットゥに激突した。

 ズドン!

 物凄い音を立ててマルク・セットゥが吹き飛んだ。

 そして怪盗ガウチョパンツが手錠を取り出してマルク・セットゥを拘束した。

 少しかわいそうに見えてきた。

 あんなカッコ悪い技でやられたくはないなぁ。


「これで一件落着。解決出来たのは勇気君がきてくれたからだね」

「怪盗ガウチョパンツのおかげだよ。僕だけでは勝てなかった」

「それでも勝ったのは君だよ」

「いや二人の勇気で掴んだ勝利だよ」


 なんだかいい雰囲気だなぁ。

 二人で盛り上がっているけど、僕たちもいる事を思い出して欲しいのだ。


「ふははははっ! もう終わりだ! 全部滅んでしまえ!!」


 マルク・セットゥが急に叫んだ。

 もう終わりって言っているけど、これ以上何が出来るのだろう?


「この手錠は集魔師しゅうまし纏蝶てんちょうが作ったものだ。もう力は使えないぞ」

嘆願石たんがんせきで集めた力で生み出した悪魔を解き放った。今頃俺が買った南海の小島から溢れ出しているだろう」

「なんだと?!」

「わざわざ教えてやったのだ。溢れ出す悪魔を見て絶望しろ!」


 マルク・セットゥが勝ち誇った顔で言った。

 大変な事になったのだ!

 一匹でも倒すのが難しいのに、たくさん出てきたら勝てないよ!!

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