第103話 先生との対決

「なんなんだ、ちみは!? 何で小学生なのにネイティブ並みに流暢りゅうちょうに話せるのだ?」

「オンラインゲームで毎日話しているからだよ」

「ゲ、ゲームだと! 毎日ゲームで遊んでいるのに何故勉強が出来る?」

「勉強もしてるからだよ。大魔導士になるには学問の習得は欠かせないんだよ」

「大魔導士?! 僕はこんな子供に負けたのか……」


 先生がうなだれている。

 失礼だな。

 燐火りんかちゃんは頑張ってるんだぞ。

 たぶん大魔導士フラマ・グランデ様の教えを守っているだけだと思うけど……


「学問とは勝ち負けを競うものではない。共に研鑽けんさんし、さらなる高みを目指すものだよ」

「大魔導士フラマ・グランデ様の名言だね。先生も頑張ろうよ」


 燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんが先生を慰めた。


「そんなのは望んでない! 僕は優秀な生徒を育てて有名な講師になるんだ! 最初から優秀な生徒なんて必要ないんだ!」


 先生が狂ったように叫び出したので、他の生徒達が動揺し始めた。

 ちょっと変じゃないかな。

 元々変な話し方をする先生だったけど、今は正気ではない様に見える。

 これはーー


「なんか先生機嫌が悪いね」

「朝食を食べてる時に小骨が喉に刺さったんじゃないかな」

燐火りんかちゃん! 芽衣子めいこちゃん! そんな事を言ってる場合じゃないよ! 先生から邪の気を感じるよ!」

「邪の気? ならアタリだね。先生が今回の敵なんでしょ」

「敵って何? 冥王軍の出番かな?」

「そんな事を言ってられるような相手じゃないよ。とっても危険なんだから。ほらっ始まったよ!」


 先生がのけ反り、腹部から悪魔のようなものが生えて来た。

 やっぱり!

 お化け屋敷の時と同じだ!

 こいつは嘆願石たんがんせきの悪魔だ。


芽衣子めいこちゃん! みんなを避難させて!」

「えっ、避難?!」


 芽衣子めいこちゃんが戸惑っている間に悪魔の周囲に無数の炎の玉が浮かび上がった。

 これは危険だ!


燐火りんかちゃん何とか出来る?」

「ごめん、ムリ! 全員は守れないよ!」


 燐火りんかちゃんでも全員は守れないか。

 悪魔が炎の玉を飛ばして来た。

 もう終わりだ……


「心配ない! 僕がいるから!!」


 増子さんが手を突き出すと炎の玉の動きが止まった。

 これはサイコキネシス!


「増子さん! どうして?!」

「塾の中の様子を見ていたからだ! 間に合って良かったぞ!」


 塾の中を見ていた?!

 もしかして透視能力もあるの?

 す、すごいな宇宙人の超能力!


「こっちよ! みんな逃げて」


 しず子さんが生徒たちを避難させている。

 よしっ、魔法少女全員集合で戦えば負けないぞ!


燐火りんかちゃん! しず子さんと増子さんがみんなを守ってくれるから、僕達がアイツを倒すよ!!」

「任せて!」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を具現化して詠唱を始めた。


 猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ

 我に仇なす全ての敵を絡め取れ

 出でよ! 樹木の如き生命の花!


蹴散けちらせ! 珊 瑚 刺 火コーラルツリー!!」


 無数の炎の花弁が悪魔に向かって伸びていった。

 だけど、悪魔が放った炎の玉に相殺そうさいされてしまった。

 悪魔の炎魔法は燐火りんかちゃんの炎と同格なの!?

 今までこんな敵はいなかった。


「まだまだ連続で行くよ!」


 燐火りんかちゃんが次の呪文の詠唱を始めた。


 全てを貫きし灼熱の刃よ

 大地を穿うがち 我の敵を討て

 気高き勝利の花!


「貫け! 炎 剣 菖 蒲グラジオラス!!」


 悪魔の足元から炎の花弁で出来た槍が突き出したが、簡単に避けられた上に素手で握り潰されてしまった。

 こうなったら僕の出番だ!


燐火りんかちゃん、魔獣モードで行くよ!」


 僕は纏蝶てんちょうさんから貰った腕輪の力で魔獣になった。

 これで燐火りんかちゃんに力を送れる!


「ありがとうテプちゃん。高等魔法でやっつけるよ!」


 難を転じる逆転の果実よ

 全ての苦難の超える 数多の実を結び

 我が望む勝利の為に弾け飛べ

 光輝く勝利の実!


「弾けろ! 赫  々  南  天ナンディナ・ドメスティカ!!」


 燐火りんかちゃんが作り出した炎の果実は最強なのだ!

 悪魔が生み出した炎の玉を打ち破り、悪魔を消滅させたのだ。

 先生の体から浮かび上がった嘆願石たんがんせき燐火りんかちゃんが手にした。


「やったよテプちゃん! 2個目の嘆願石たんがんせきだよ!」


 燐火りんかちゃんが嘆願石たんがんせきを手に入れて喜んでいる。

 だけど、僕は先生の様子が気になった。

 生気を失っているような……

 嘆願石たんがんせきに魂を吸われ過ぎたのかな?

 このままだと死んじゃうかもしれない!


「しず子さん! 先生を助けられるかな?」

「やってみるわね~。いやしの水~」


 しず子さんがいやしの水を先生に飲ませた。

 僕は先生の上に飛び乗って心臓の動きを確認した。

 大丈夫そうだ。

 邪の気も消えている。


「一件落着だね。敵は塾の先生の有名になりたいって心につけ込んで嘆願石たんがんせきを渡したみたいだね」

「悔しいけど蒼真そうま陽翔はるとの情報通りね」

「もとに戻って良かったな! 次も頑張ろう!」

「うん、嘆願石たんがんせきを集めて纏蝶てんちょうさんから沢山アイテムもらうんだ!」


 僕達は勝利を喜んだ。

 その裏で無力さを嘆いている人に気付かずに……

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