第98話 迷走

「アイテムを落とすモンスターねぇ。現実にはいなそうだけど」


 纏蝶てんちょうさんでもアイテムをドロップするモンスターの居場所は分からないようだ。


鉱魔こうまはコアを落としたよ。もう一回出てこないのかなぁ」

「無理だよ。鉱魔を生み出していた大賢者アクイアス・セッテは捕まっちゃったからね」

「テプちゃんの意地悪~」

「エエエエエッ! 僕が悪いの?」

「だって一緒にモンスターを探してくれないじゃない」


 何で僕は11才の女の子にモンスターを探さない事を責められているのだろう?

 もっと可愛いお願いをされたいなぁ。

 魔法少女なんだからさ!


「増子さんと一緒に魔法少女として町の人を助けようよ! 善の気を集めるのが僕達の使命だからね」

「活躍出来ないからイヤだ! 魔法少女とかって設定いらないもん」


 設定?!

 魔法少女をサポートする妖精として悲しいよ。

 活躍出来ないからイヤか……増子さんは活躍出来なくても頑張ってくれていたのにね。

 ダメだ!

 こういう時にサポートしてこそ妖精なのだ!


「戦っていれば強い敵が出てくるかもしれないよ」

「かもしれないじゃイヤだ。そうだ! テプちゃんの故郷の魔法王国にはモンスターいないの?」

「いないよ。魔法王国アニマ・レグヌムは平和だから」

「そうなのかぁ……」


 燐火りんかちゃんが落ち込んでしまった。


「ぼ、僕もモンスター探すから元気だしてよ!」

「わかったよテプちゃん。一緒にがんばろー」

「私も探しておいてあげるわよ。そろそろお帰りなさい。帰りの時間が遅くなるからね」

「それなら僕が送っていくよ」

纏蝶てんちょうさんバイバイ」


 僕と燐火りんかちゃんはお店から出て、増子さんに家まで送ってもらった。

 さて、どうしよう。

 燐火りんかちゃんと約束したからモンスターを探さないといけないけど、僕には心当たりがない。

 パパに聞く事は出来ない。

 魔法少女を共に世界を平和にする役目を与えられているのに、モンスターが出てきて欲しいなんて言えないからね。

 だから相談出来る相手は、この世界で知り合った相手だけ。

 じょうさん、魔王さん、健斗君、翔太君の4人しかいない。

 モンスターの居場所を教えてもらうなら魔王さんが適任かな。

 水曜日の放課後であれば魔王さんは公園にいる事が多い。

 次の水曜日、僕は予定通り放課後に公園に向かうと魔王さんがベンチに座っていた。


「魔王さんこんにちは」

「ひさしぶりだなテプ。となりが空いてるぞ」


 僕は魔王さんのとなりに座った。


「魔王さんは何をしていたんですか?」

「この世界は平和で良いなと思っていただけだ。ここに座って子供たちを見ていると、そう思うのだよ」


 魔王さんは平和が好きなんだね。

 でも、魔王さんがいるから周りの人は穏やかな気持ちにはなれないんだよなぁ……。

 いつも怖い顔をしているからね。

 話しをしてみると良い人だから、少しづつ打ち解けてはいるけどね。

 いけない。

 僕はモンスター居場所を聞きにきたんだった。


「魔王さんは倒すとアイテムを落とすモンスターの居場所を知っていますか?」

「アイテムを落とすモンスターだと。魔獣の類を倒してもアイテムを落とさないだろ。アイテムが欲しければ他者から奪え」


 うぁあああああ!

 久しぶりに魔王さまらしい話を聞いたよ。

 教えてくれたのは有り難いけど、強盗みたいな事は出来ないよ!


「出来れば人以外でお願いします」

「人以外だと……それなら我らの宿敵バルギアンと戦ってみるか? 人型だが、この世界の甲殻類こうかくるいみたいな見た目だ。奴らであれば滅ぼしても構わない」

「その……バルギアンを倒したら何が手に入るんですか?」

「持っているこん棒や剣だ。たまに鎧を着ている奴もいるぞ」

「それって持ち物を奪うって事ですよね……」

「当然だ。ネイラスティアの民を守る為にバルギアンを狩ってみないか?」

「遠慮しておきます……」

「そうか。役に立てなくて済まなかったな」

「いえ、相談に乗ってくれてありがとうございました。僕は燐火りんかちゃんが求めているモンスターを探しに行ってきます」

「そうか。頑張れよテプ」


 僕は魔王さんと別れて公園を出た。

 一番期待していた魔王さんに相談してもダメだった。

 社会人のじょうさんにモンスターの相談をするのは難しいな。

 あとは健斗君と翔太君だけだね。

 燐火りんかちゃんと一緒に登校した時に相談してみよう。

 今日の所は諦めて帰宅する事にした。

 翌日、学校で健斗君と翔太君に話しかけた。


「健斗君、翔太君。相談があるんだけど」

「どうしたテプ。めずらしいな」

「僕達に相談していいんですか。僕は燐火りんかちゃんの敵ですよ」

「敵なのはゲームの陣営の話でしょ。二人はアイテムを落とすモンスターの居場所を知っている?」

「アイテムを落とすモンスターの居場所? そんなのいるはずないじゃないか」

「そうですよ。そんな事より隣町に来ているお化け屋敷の話をしましょうよ。偽物の七不思議より楽しめると思いますよ」

「でも燐火りんかちゃんはモンスターを探しているんだけどなぁ」

「大丈夫ですよ。こういう時は他の話題で意識をそらすのが良いんです」

「だよな~。テプも来るだろ。燐火りんかも連れてこいよ」

「えっ、はい」


 モンスターを探していたのに、何故かお化け屋敷に行くことになってしまった。

 でもこれで良かったのかもしれない。

 お化け屋敷があるのは七つの大罪が暗躍している隣町だ。

 事件が起きても直ぐに駆けつけられるよね。




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る