第90話 アラハバキ来店!

 僕はプレナの魔力を探知した。

 そんなに遠くはない。

 この方向は……増子さんの喫茶店だ!

 増子さんは神の捜索に向かったはずなのに、何で喫茶店にいるのだろう?

 もしかして危険な目にあわせない為、プレナだけお留守番しているのかな?

 増子さんがいるかどうかは分からないけど、プレナが喫茶店にいる事は確実。

 彼女の行き先くらいは知っていると思う。


燐火りんかちゃん、プレナは喫茶店にいるよ! 急ごう!」

「わかったよテプちゃん!」


 燐火りんかちゃんが喫茶店に向かって走り出した。

 運動会の練習で鍛えた脚力は凄いんだぞ!

 僕達はすぐに喫茶店に辿り着いた。

 カランカラン!

 ドアを開けて喫茶店に入ると、おっきな土偶の様な物体が増子さんと向かい合って座っていた。

 プレナは隣のテーブルの上で倒れている。

 遅かった!

 既に増子さん達が謎の存在と接触していた。

 あれが神なのかな?

 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を具現化して構えた。

 僕はプレナが倒れているテーブルに飛び移り、プレナを前足で揺すった。


「プレナ生きてる? しず子さんが来るまで頑張って!」

「うるさいなぁ~。何だよテプ、しず子が何だって?」


 プレナがもそっと起き上がった。

 あれっ、生きている?!


「大丈夫なの? 攻撃されていない?」

「何言ってるのさ? ここは喫茶店だよ。攻撃なんて受けるはずがないだろ。寝ぼけてるのかよ~」

「寝ぼけてないけど……」

「用事がないなら寝るぞ~」


 プレナが再びテーブルの上で眠り始めた。

 一体どうなってるの?!

 状況が分からず呆然としていると、謎の土偶の様な物体が振り返った。


「うるさいお客さんだなぁ。お店で行儀よくしなきゃならんのだよ。私もさっき知ったばかりなんだけどね」


 土偶がしゃべった!!

 燐火りんかちゃんもビックリして愚者ぐしゃの杖を突き出した。


「テプちゃん!! 不気味だから焼いてもいいかな?」

「土偶って焼いて作るから、焼いても効かないかも」

「焼けるか試してみようか?」

「そうだね」

「何物騒な事言ってるのだ。私は土偶ではないのだから焼かれたくはない」


 どうやら謎の土偶とは意志の疎通が出来そうだね。


「どうしたんだ二人共。ハバっちゃんを焼いても食べれないと思うぞ」


 増子さんがすっとぼけた事を言った。

 別に焼いて食べる気はないよ。

 ん、ハバっちゃん?!

 増子さんとこの土偶は知り合いなの?


「この土偶さんは増子さんの知り合い何ですか?」

「知り合いだぞ。さっき知り合ったばかりだけどな」

「それ知り合いって言いますか?」

「知らないおじさんについて行っちゃいけないんだよ」

「誰が知らないおじさんだ! 私にはアラハバキって名前があるんだぞ」

「アラハバキだからハバっちゃんね」


 会ったばかりなのに、もうあだ名がついてるのね。

 どこかで聞いたことがある様な名前だけど思い出せないなぁ。

 これが纏蝶てんちょうさんが恐れていた神様?!


「あのアラハ……ハバっちゃんは何をしに喫茶店に?」

「勇気殿が酒よりうまい物をくれるって言うのでな、ついてきたらこれをくれたのだよ」


 ハバっちゃんが嬉しそうに指差した先にあったのは、燐火りんかちゃんが考えたオリジナルメニューのアンガー・イラプションだった。


「怒り狂う火山の様な見た目なのに甘くてうまい。酒よりうまいかどうかは判断が難しいが、私は満足したぞ」


 ハバっちゃんはとても喜んでいるようだ。

 表情からは判断出来ないけどね……


「ハバっちゃんは七つの大罪が呼び出した神様なんですよね?」


 燐火りんかちゃんがハバっちゃんに問いかけた。


「その通りだよ。神様としてまつられてるよ。七つの大罪とかいう奴らに呼び出されたのもあっている」

「七つの大罪はどうしたんですか?」

「偉そうに呼び出されたのが不快だったから吹き飛ばした」


 さらっと物騒ぶっそうな事を言ったよ!

 やっぱり強大な力を持つ神様だ。

 緩い雰囲気にだまされそうになったよ。


「そんなに怯えなくても大丈夫だぞ! ハバっちゃんはいい奴だ!」


 神様をいい奴って呼ぶのは増子さんくらいだろう。

 ハバっちゃんの肩らしき部位をパンパン叩いている。


「信じてもらえて嬉しいぞ。信仰してもらえると元気になるからね」

「信仰はしてないぞ。常連になってくれたら嬉しいけどな」

「常連になるか。それはいい。だけど支払いはどうしよう? 人間の貨幣かへいを持っていないのだよ」

「それは困ったね。僕が経営しているのではないからね。ママに相談する事は出来るけど……」

「そこまでお世話になったら居候いそうろうになってしまうよ。自分で稼いでくるさ!」


 ハバっちゃんが元気よく言った。

 神様が稼ぐのか……何して稼ぐんだろう?

 人間の仕事が出来るように見えないなぁ。


「さて、今日の支払いはどうしようか。お金を持っていないから物でお返ししたいけど、今は宇宙旅行で手に入れたまずい液体しか持ってないんだよね……」


 ハバっちゃんが銀色のビンをテーブルの上に置いた。

 凄い!

 何もない空間からビンを取り出したよ。

 神様の力は凄いんだね!


謙遜けんそんしなくてもいいのに。味より気持ちが大事だよ。コレをもらうよ」


 あっ、増子さんが飲んじゃった。


「飲んじゃったのおおおおお?!」


 ハバっちゃんが大声を出したと同時に増子さんが急に倒れた。

 どうなってるの?!

 神との戦いは避けられたけど、別の意味で大ピンチだよ。

 早くしず子さんを呼ばないと!!

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