第89話 敵は神?!

 僕達と大賢者アクイアス・セッテの戦いは終わった。

 操られていた魔法少女の3人は無事に意識を取り戻してくれた。

 戦いの最中に魔法少女の力を失った星七せいなさん、亜夕美あゆみさん、蒼羽あおはさんの3人は普通の学生に戻る事になった。

 これからも仲してくれるとは思うけど、一緒に戦う事はもうないだろう。

 少し残念だけど、これで全て元通り……とはなっていない。

 しず子さんは纏蝶てんちょうさんを追いかけてどこかに行ってしまった。

 増子さんは活躍出来なかった事がショックで落ち込んでいる。

 今回の事件が原因で、僕達は一緒に魔法少女としての活動が出来きなくなってしまった。

 翌週になっても、僕は燐火りんかちゃんと二人っきり。

 嫌では無いけど少し寂しいな。

 でも大丈夫だよね。

 僕達の敵はいなくなったのだ 。

 ゆっくり仲直りしていけば良いよね。

 なんか大事な事を忘れている様な気もするけど……なんだったかな?

 気のせいだよね。

 よしっ、今日も頑張ろう!


「おはよう燐火りんかちゃん。今日も学校に行こう!」

「毎日言わなくても学校は行くものだよ」

「でも言った方が元気が出るでしょ?」

「わたしは敬愛するフラマ・グランデ様の名言を聞いた方が元気が出る」

「僕はあの中年魔導士に負けたのか。悲しいなぁ……」

「気にしたらダメだよ。フラマ・グランデ様に勝てる存在はいないんだからね」

「はいはい、その通りですよね。忘れ物ないかな?」

「大丈夫だよ。テプちゃんは肩に乗って。しゅっぱ~つ!」


 僕が肩に乗ると、燐火りんかちゃんがドアを開けて外に出た。


「ギャアアアアアアッ!!」


 思わず大声で叫んでしまった。

 目の前に広がる黒いモジャモジャの塊に驚いたからだ。


「なにっ、どうしたの? 敵襲?!」


 モジャモジャがしゃべったああああ!

 不気味だよ!


「おはようございます。纏蝶てんちょうさんが遊びにくるの初めてだよね。インチキ大賢者について何か分かったの?」


 燐火りんかちゃんがモジャモジャに挨拶をした。

 纏蝶てんちょうさん?!

 視線を上げると纏蝶てんちょうさんの顔が見えた。

 な~んだ、モジャモジャしてたのは纏蝶てんちょうさんの胸毛だったのか~。

 それはそれで嫌だよ!


「脅かさないでよ纏蝶てんちょうさん。ドアの前に立っていたら危ないですよ」

「それどころじゃないのよテプちゃん。今後魔法少女としての活動を禁止します」

「何で纏蝶てんちょうさんに禁止されなきゃならないの。魔法王国との外交問題になるよ」

「ふざけている場合じゃないのよ。燐火りんかちゃん、不審者がいても絶対に戦ったらダメよ!」


 纏蝶てんちょうさんは何で焦っているのだろう?

 大賢者アクイアス・セッテを一撃で倒した強さがあるのにね。

 それに燐火りんかちゃんの魔法も一撃必殺。

 相手が誰であっても負ける事はあり得ない。

 何で戦うなって言うのだろう?


「心配要らないよ。凶悪なモンスターでも一撃だから!」

「そうだよね。燐火りんかちゃんの魔法の威力は世界一だから!」

「そういう問題じゃないのよ。私たちが戻ってくるまで大人しくしてて!」

「なんでなの?」

「分からないよね。纏蝶てんちょうさんは何処に行くの?」

「最後の戦い……かな?」

「最後の戦い? 纏蝶てんちょうさんが?」

「大げさだなぁ。何と戦うんだろうね?」

「神よ……私たちは神を退けないといけないの」


 纏蝶てんちょうさんが神妙な顔で言った。

 神様と戦うの?!


纏蝶てんちょうさんゲームのやり過ぎだよ。神様が戦うはずが無いでしょ?」

「そうだよね。神の炎を使う燐火りんかちゃんだって、実際に神様を呼び出せないのにね」

「そうだったら良かったのにね……」


 どうしたの纏蝶てんちょうさん?

 纏蝶てんちょうさんが悲しそうな顔をしている。

 初めて見る弱気な纏蝶てんちょうさんの姿。

 燐火りんかちゃんも異常に気が付いたのだろう。

 急に黙ってしまった。

 ここは相棒の僕の出番だね!


「神様と戦うって本当なんですか? 教えて下さい纏蝶てんちょうさん!」

「大賢者アクイアス・セッテは七つの大罪の一人だったのは知ってるわよね。尋問して分かったの、彼が星の力を欲しがった理由をね」


 ほしの力を欲しほしがった。

 ダジャレかなって言ったら怒られそうだなぁ。

 いけない、余計な事を考えている場合じゃない。


「何で星の力を欲しがったんですか? 鉱魔こうまの力で何がしたかったんですか?」

「セッテは神を倒したかったのよ。七つの大罪の仲間が呼び出した神をね」

「アクイアス・セッテは本当に世界を救おうとしてたんですね」

「テプちゃん、それは違うわよ。七つの大罪で一番優れている存在になりたかっただけよ。ただの強欲なオッサンだから」

「ですよね~。でも鉱魔の力で対抗出来るなら、鉱魔を一瞬で倒した燐火りんかちゃんの魔法でも倒せますよね?」

「ムリよ。神は、あんなちっぽけな力の鉱魔とは違うのよ。神が見つかったら私が戦うから」

「神が見つかったら? まだ見つかってないんですか?」

「まだよ。今は勇気君が探しているから」


 勇気君か……珍しい名前だね。

 増子さんの名字も勇気だったような気がするね。

 勇気マシマシの勇気増子ゆうきますこ


「それ増子さんですよね!!」

「そうよ。力になりたいっていうから偵察をお願いしたのよ」

燐火りんかちゃん! 急いで増子さんを探すよ!!」

「分かったよテプちゃん!」


 燐火りんかちゃんが勢いよく駆け出した。


「待ちなさい!」


 纏蝶てんちょうさんに呼び止められたが止まりはしない。

 戦う力がない増子さんが神に見つかったら死んじゃうかもしれないでしょ!

 増子さんの居場所は分からない。

 でもプレナの居場所なら感知出来る。

 僕の能力と燐火りんかちゃんの走力を合わせれば絶対に間に合うよ!!

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