第79話 舌戦

 WEB会議を行った翌週の月曜日。

 今日は冥王軍の作戦決行の日だ。

 僕達は予定通り放課後に商店街に集まった。

 怪盗ガウチョパンツの情報通りであれば、鉱魔の襲撃に立ち会えるはずだ。


燐火りんかちゃん、花屋さんの前!」


 芽衣子めいこちゃんの指を差す方向を見ると、青く透き通った鉱石で出来た鹿がいた。

 どうやって出現したのだろう?

 出現した鹿の鉱魔こうまは2mを越える巨体だ。

 普通に移動してきたとは思えない。

 瞬間移動してきたのか、商店街で生み出されたのか……

 う~ん、たぶん生み出されたのだろうな。

 瞬間移動出来るのに、ピンチになった時に逃げないのはおかしいからね。

 やっぱり鉱魔の出現は人為的なものだったんだね。

 燐火りんかちゃんが元変身ブローチを使って愚者ぐしゃの杖を具現化した。

 そして必殺の呪文の詠唱えいしょうをする。


 全てを貫きし灼熱の刃よ

 大地を穿うがち 我の敵を討て

 気高き勝利の花!


「貫け! 炎 剣 菖 蒲グラジオラス!!」


 攻撃を察知した鹿の鉱魔こうまが逃げようとしたが、もう遅い。

 鹿の鉱魔の足元から出現した炎の花弁が胴体を貫く!

 一瞬で灰になる鹿の鉱魔。

 これで準備オッケーだね。

 僕達は蒼羽あおはさん達が現れるのを待った。

 10分後ーー


「鉱魔は何処だ!」


 足が速い星七せいなさんが勢いよく駆け寄ってきた。

 彼女の後ろから亜夕美あゆみ蒼羽あおはも走って来ている。


「鉱魔ならおりませんよ。魔法少女のみなさん」


 芽衣子めいこちゃんが予定通り交渉を始めた。


「またお前達か! 鉱魔は何処だ?」

「どうしたの星七せいな。鉱魔は何処?」

「何をしてるの星七せいな。子供の相手をしている場合じゃないでしょ!」


 亜夕美あゆみさんと蒼羽あおはも合流し、芽衣子めいこちゃんの前に集まった。

 芽衣子めいこちゃんが三人の前に立ちふさがり、右手を突き出した。


「我は冥王。我が領地である紅鳶べにとび町に鉱魔を放つ悪党どもよ! 我がさばきをうけるがいい」

「何言ってんだ! 俺達は鉱魔を倒す為に来たんだ。居場所を知ってるなら早く言え!」

星七せいなの言う通りです。被害が出る前に教えなさい」

「落ち着きなさい二人共。子供相手に大人げないです」

「気にしなくて良いですよ。我は冥王。そんな些細な事は気にしません。お三方は鉱魔を倒す為に来たとおっしゃっておりますが、見ての通り鉱魔はおりません。何故鉱魔が出現したと判断したのでしょうか?」

「大賢者からの情報だよ。さっき鉱魔の力を感知したって連絡があったんだ」


 星七せいなさんが右腕を見せる。

 右腕にはめている腕輪で通信が出来るって事なのかな?

 変身用の珠以外にも大賢者からアイテムを貰ってたんだね。


「おかしいですね。存在しない鉱魔を感知したのですか? 本当は自ら鉱魔を生み出しているのではないですか?」


 芽衣子めいこちゃんに反論された星七せいなさんが口篭もる。


「貴女達は鉱魔を生み出している理由について推測出来ているのかしら? 仮に鉱魔を生み出しているのが大賢者だとしましょう。それなら鉱魔を倒す私達魔法少女を生み出した理由はなにかしら? 魔法少女が大好きだから、私たちを活躍させる為に鉱魔を生み出しているとでも言うの?」

「理由は本人に聞かないと分かりません。だから大賢者と話がしたいのです」

「話にならないわね。鉱魔を倒せるのは私達だけ。それが大賢者が正しいという根拠。貴女のお友達では鉱魔を倒せないでしょ?」

「倒せるよ。一瞬で」


 燐火りんかちゃんの自信満々の一言で亜夕美あゆみさんが気圧される。


「クマの鉱魔を倒せなかったでしょ? 鉱魔は倒しただけでは意味が無いのよ。蒼羽あおはのエンジェリック・スメルティング だけが鉱魔を止める事が出来るの」

「違うよ」

「何が違うの?」

「わたしが倒したクマの鉱魔と、彼女が倒したクマの鉱魔は同じじゃなかった。違う個体だよ」

「そ、そんな事が……いや、まさか……」


 亜夕美あゆみさんが考え込み始めた。

 彼女なりに気付いた事があったのだろう。


「惑わされないで! 大賢者の行動に不審な点があったところで、鉱魔は人々にとって脅威な事には変わりない。町の皆を守らなければならない事に変わりはないでしょ!」


 蒼羽あおはさんは真っすぐだな。

 彼女は大賢者が不審だと思っても、鉱魔を倒してみんなを守るって目的から逸れる事はない。

 理想の魔法少女だと思う。

 それでも彼女を止めなければならない。


蒼羽あおはさん、町を守るだけなら僕達でも出来るよ。でも大賢者の真の目的をあばく事が出来るのは蒼羽あおはさん達だけだよ」

「テプちゃん、鉱魔を止めれれるのは……」

「止められてないよ! 蒼羽あおはさんの魔法で倒せば同じ鉱魔は出てこない。でも違う鉱魔は出続けているでしょ?」

「そんな事は分かっている。でも、それでも倒し続けないといけないの!」

「いつまで続けるの? 一生続けられる? 今は中学生だから戦えるかもしれない。でも大人になっても続けられる?」

「戦うわよ。私が戦える間は!」

「そんなの変だよ! 楽しい学生生活を犠牲ぎせいにして戦い続けるなんて!」

「それでも! 私は!」

蒼羽あおはさんは良くても、引き継いだ人はどうなるの? 蒼羽あおはさんが戦えなくなったら、大賢者は次の魔法少女を生み出すよ。その子が戦いだけの青春を送っても良いの?」

「そ、それは……でも……私は……」


 蒼羽あおはさんが反論を止めた。

 後継者の魔法少女の話をしたのは、ちょっと卑怯ひきょうだったかな。

 でも蒼羽あおはさんは自分が犠牲ぎせいになっても止まらないと思ったかから仕方がないよね。




































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