第77話 コールサイン

 最後の競技はリレーだ。

 アンカーだって言ってたから、燐火りんかちゃんが走るのは最後だ。

 リレーは男女別に行うから、健斗君との直接対決はないみたいだね。

 パパさん達と一緒に他の競技を見ながら燐火りんかちゃんの出番を待った。

 放送で5年生女子のリレーの案内があり、選手達がグラウンドに集まった。

 いよいよ最後の競技。

 放課後に一緒に頑張った成果を見せる時だよ!

 頑張れ燐火りんかちゃん!

 最初の走者が走り出した。3チームとも互角の走りだった。

 続いて第二走者。ここで燐火りんかちゃんの青チームが一歩リードした。

 赤チームと緑チームが必死に追いかける。

 続いて第三走者。更に青チームが他のチームとの差を付けてる。

 速いな、第三走者の人。同じチームで良かったよ。

 これだけ差がついていれば、燐火りんかちゃんが余裕で勝てるよね。

 練習の成果が見せられないかな?

 でも燐火りんかちゃんのチームが優勝するなら良いよね。

 いよいよ燐火りんかちゃんの出番。

 第三走者の子がバトンを渡し損ねて……あっ、転んだ!

 そのままバトンを受け取ろうとしていた燐火りんかちゃんにぶつかった。

 大変だ!

 燐火りんかちゃんが倒れた!

 赤チームと緑チームが追いつき、バトンを渡して最終走者が走り出した。

 第三走者の子がやっと立ち上がり、一緒に立ちあがった燐火りんかちゃんにバトンを渡した。


「ごめん、燐火りんかちゃん。私のバトンの渡し方が下手なせいで……」

「大丈夫だよ鈴原さん。下手でも受け継いでくれたバトンを手放す間抜けではないさ! 見るがいい! 其方そなたがバトンをつないだ私の雄姿を! 杖を手にした大魔導士に勝る存在などないっ!」


 燐火りんかちゃんが猛スピードで走り出した。

 杖を手にした大魔導士に勝る存在などないってのは、戦いの強さって意味なら理解出来るけど、足が速いイメージはわかないよね……

 見学していた生徒たちが笑いながらツッコミを入れている。

 でも僕と他の生徒達では違う事がある。

 大魔導士の気分になっている燐火りんかちゃんは、必ず勝利すると信じているって事さ!

 グイグイ差が詰まり、ついにゴール直前で先頭に躍り出た。

 他を寄せ付けない圧倒的な速さ。

 大魔導士は関係なかったけど、燐火りんかちゃんは凄いのだ!

 ゴール後、燐火りんかちゃんが魔王を倒した後の大魔導士の様にバトンを掲げた。


「いっちばーん!!」


 信じていた通りの勝利。

 燐火りんかちゃんとなら運動会でも無敵なのだ!

 これで楽しかった運動会も終了。

 閉会式が終わった後、全員で帰る事にした。


 商店街がある大通りを通ると騒ぎが起きていた。

 たぶん鉱魔こうまが暴れているんだろうな。

 空を飛んで人垣を越えると、透明な巨大ウサギがいた。

 ウサギの鉱魔か……趣味が悪いな!


「ウォーター・ウイップ !」


 アクアオーラに変身した亜夕美あゆみさんの必殺技がウサギの鉱魔に直撃した。

 痛っ!

 自分が叩かれた気分になるなぁ。

 僕はウサギじゃないけど、似ているから仲間意識があるんだよね。

 見なかった事にしよう!


「テプちゃん、何の騒ぎだった?」

「いつもの鉱魔騒ぎだよ。今日はしず子さんは戦っていなかったから帰ろう。蒼羽あおはさん達が勝つと思うから大丈夫だよね」

「そうだね。今日は疲れたから帰ろう!」

「こちらノマド、聞こえるかヘキサ?」


 突然、陽翔はるとお兄さんの声が聞こえた。

 どこからだろう?

 声が聞こえる方向を確認すると、纏蝶てんちょうさんから手に入れたアイテム袋の中からだった。

 そういえば通信用アイテムが入っていたような気がする。

 使い方は分からないけど、通信が繋がっている今なら話しかけられるよね。


陽翔はるとお兄さんですよね? ノマドとかヘキサって何ですか?」

「コールサインだ」


 コールサイン?

 聞いた事ないなぁ……


「テプちゃん小うるさいって言われてるよ!」

「えええっ! 僕、小うるさいの?!」

「小うるさいじゃなくてコールサインだよ。魔法無線の呼び出しの時に識別出来るように決めておいた」

陽翔はるとお兄さんが変な事を言いだすから、燐火りんかちゃんに勘違いされてるじゃないですか。どういう意味なんですか?」

陽翔はるとお兄さんではない、怪盗ガウチョパンツだ。テプちゃんはアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世だから、ヘキサにした。僕はノマドで呼び出してくれ」

「テプちゃん、アルタロタロ、ネッチョリ、セントウって何?」

「僕の本名だよ。怪盗ガウチョパンツは覚えてくれているのに、何で燐火りんかちゃんは覚えてくれないの……」

「ごめん、一度も言った事がないから覚えてなかった」


 そういえば、そうだったよね。

 僕は燐火りんかちゃんに一度も本名を呼んでもらってない。

 最初からテプちゃんだったよね……


「もめている所、申し訳ないが話を進めても良いかな?」

「あっ、お願いします」

「今日も例の魔法少女は戦っていたかい?」

「戦ってましたよ」

「やはりな。鉱魔の出現は人為的に起こされたもので間違いない」

「どうしてですか?」

「鉱魔は必ず賢者の魔法少女が駆けつけられる時間に現れる。彼女たちが中学校に通っているタイミングでは現れないのだよ」

「えっ、そうだったの?!」


 想定外の情報に驚いた。

 そういえば、毎回登校中や下校中に鉱魔を見かけていたような気がする。

 鉱魔を呼び出す理由はなんだろう?

 僕には理由が思いつかなかったーー

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