第76話 集中砲火

 マラソンが終わった後、お昼休憩になった。

 僕は燐火りんかちゃんと一緒にママさんが持ってきてくれたお弁当を食べた。

 おいしいなぁ。


燐火りんかちゃん、午後は何に参加するの?」

「玉入れだよ。テプちゃん、玉入れ知ってる?」

「知ってるよ。僕が一番得意な競技だよ」

「えっ、テプちゃん玉入れ出来るの?」

「出来るよ。何で疑うの?」

「テプちゃんは玉を投げられそうに見えないから」

「投げる? 出来るよ! 僕は凄いんだからね!」

「あら、玉入れ得意なら、テプちゃんに教えてもらえば良かったのに」

「そうだな。燐火りんかは玉入れが得意ではないからね」

「何でテプちゃんにばらすの! 秘密にしてたのに!」


 パパさんとママさんが玉入れが苦手な事をばらされて燐火りんかちゃんが怒っている。

 燐火りんかちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだから。

 早く教えてくれたら僕も頑張って教えたのにね。


「大丈夫だよ燐火りんかちゃん。投げるのは苦手でも、敵をかいくぐれるだけの速さがあるから!」

「速さ?」


 燐火りんかちゃんが首を傾げている。

 玉入れのプロの僕と違って、戦い方がイメージ出来ないみたいだね。

 仕方がないなぁ。

 僕が見守ってるから頑張ってね。

 午後になり、玉入れを始める為に生徒たちがグラウンドに集まった。

 緊張するなぁ。

 魔法王国での名勝負を思い出すよ。

 自由自在に宙を舞い、敵の防御をくぐってゴールにボールを放り込む。

 同学年で僕に敵う相手はいなかった。

 昔を思い出しているあいだに、生徒たちが玉入れの準備を終えていた。

 赤、青、緑……それぞれのチームがカゴが付いた棒を立てた。

 なんでだろう?

 カゴが上を向いている。

 空を飛べないのにどうやって相手のゴールに玉を投げ込むのだろう?

 しかも3チーム同時に戦うのか。

 青チームの燐火りんかちゃんは赤チームと緑チームのどちらを狙うのかな?

 3チーム同時の対戦は見た事ないから楽しみだなぁ。

 近くで見たいから燐火りんかちゃんの青チームのゴールで見物しよう。

 僕は青チームが立てたカゴの上に飛び乗った。

 ピィーッ!

 ホイッスルが鳴り、玉入れが始まった。

 敵チームがこちらに辿たどり着くまでには時間がかかる。

 ゆっくり見物させてもらおう。

 ヒュン!

 ほほの横を何かが横切った。

 えっ?!

 慌てて下を見ると、青チームの生徒が次々に僕目掛けて玉を投げている。

 どどどどうして?!

 魔法で姿を隠しているのがバレちゃったのかな?

 何で僕を攻撃するの?

 はっ、とっ、あわわわわっ!

 カゴの上で必死に球を避けた。

 眼下の生徒たちは、僕に当たらず落下した玉を必死に拾って投げつけて来ている。

 こ、怖いよ!

 殺意高すぎませんか?!

 集中砲火の様に投げつけられる玉を必死に避けた。


「弾けろ! 爆熱の果実! 赫 々 南 天ナンディナ・ドメスティカ!!」


 この声は燐火りんかちゃん?

 あわてて声の聞こえた方を見ると、無数の玉が飛んできていた。

 もう無理~。

 僕は玉が届かない上空に飛び立った。

 燐火りんかちゃんまで裏切ったなんて信じられないよ。

 勝負をあきらめちゃったのかな?

 玉が届かないところまで上昇して余裕が出来たので、他のチームの様子を見ると、青チーム同様に自分のゴールに玉を投げ込んでいた。

 えっ、どういう事なの?

 玉入れって、相手のゴールに玉を投げ込む競技じゃないの?

 しばらく見ていると、生徒たちは自分達で立てたカゴに玉を入れているのが分かった。

 なるほどね。

 魔法王国アニマ・レグヌムの玉入れとはルールが違うんだね。

 燐火りんかちゃんにルールを聞いておけば良かったよ。

 知ったかぶりは良くないね。

 ピィーッ!

 ホイッスルがなり、玉入れが終わった。

 どうやら先生がカゴに入った玉の数を数えてくれるみたいだね。


「いーち!」


 おあっ!

 額をかすめるように飛んできた玉にビックリして飛行魔法が解けてしまった。

 先生!

 そんなに高く投げないでよおおおおっ!

 もう一度飛ぼうとしたけど浮力が足りない。

 間に合わない!

 地面に激突する!!


「おっも! テプちゃん何で落ちて来たの?」


 ふぅ、燐火りんかちゃんが助けてくれたみたいだね。


「落下してるのを受け止めるのは危険だよ。飛行魔法で落下速度を軽減していなかったら、肩が外れていたかもしれないよ」

「それは嫌だな。次からは魔法で解決しよう」

「それはやめて。燐火りんかちゃんは火炎魔法しか使えないでしょ? そういえば、魔法みたいな掛け声で玉を投げていたね。怖かったけど、カッコ良かったよ」

「魔法みたいな掛け声じゃなくて魔法だよ。わたしには使えないけど……」

燐火りんかちゃんが使えない魔法? そんなのがあるんだ。でも最強の魔法が使えるから問題ないよね」


 何でだろう、燐火りんかちゃんは浮かない顔をしている。

 最強の魔法が使えれば他の魔法は必要ないと思うのだけど。

 そんなに使えない魔法があるのが気になるのかな?


「大魔導士フラマ・グランデ様の使える魔法を全て使いたいって事かな?」

「違うよ。何にでも使える便利な魔法なんてないからだよ。紅 蓮 躑 躅ロードデンドロンは最強の魔法だけど、目の前の全てを滅ぼすよ。威力だけが魔法の神髄しんずいではないのだ!」

「結局、大魔導士フラマ・グランデ様の言葉を言いたいだけなのね」

「次に参加する競技はリレーだよ。パパとママのところで休んでてね」

「分かったよ。僕の知っている競技とはルールが違うみたいだからね。パパさんとママさんに教えてもらうよ」


 僕は燐火りんかちゃんと別れてパパさんとママさんの所に向かった。

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