第75話 燐火ちゃんが諦めた?!

 今日は運動会の日だ。

 しず子さん達とギスギスした関係になっていたり、鉱魔こうまの事で悩みも多いけど、学校行事は待ってくれないのだ。

 いつもは走って登校するけど、今日は体力を温存する為に歩くことにした。

 登校途中でしず子さんと星七せいなさんが揉めていた。

 どうやら鉱魔を倒した後らしい。

 星七せいなさんの仲間の亜夕美あゆみさんと蒼羽あおはさんが腕を組みながら呆れて二人を見ていた。

 でも今日もスルーする事にした。

 陽翔はるとお兄さんが仲裁する為に駆けつけていたからね。

 大人の事情は大人に任せよう!

 鉱魔のコアが順調に集まっている事は気になるけどね。

 学校についた後、僕はグラウンドの外周にあるライトに上った。

 ここからなら、ゆっくり見物出来ると思う。

 楽しみに待っていると、体操服に着替えた学生がグラウンドに集まってきた。

 保護者さん達も集まり、校長先生からの開会の挨拶が始まった。

 ついに運動会が始まる。

 一緒に頑張った成果を発揮するだけだね。

 もう僕に出来る事はない。

 魔女や鉱魔との戦いとは違った緊張を感じた。

 頑張れ燐火りんかちゃん!

 心の中で応援していると、学生たちが3つのチームに分かれていった。

 赤、青、緑……燐火りんかちゃんは青チームだね。

 少し元気がないように見える。

 やっぱり赤チームが良かったのかな?

 こればかりは好みで選べないから仕方ないよね。

 最初の競技は綱引き。

 燐火りんかちゃんも参加している。

 最初は赤チームと青チームの対決。

 合図と共に一気に綱が引かれ、赤チームが勝利した。


「よっしゃー! これが勇者の力だ!!」


 誰だろう?

 恥ずかしい事を叫んでいるのは……あっ、健斗君だった。

 燐火りんかちゃんの事を考えるので精一杯だったから忘れていたけど、健斗君も一緒に参加しているんだった。

 翔太君がいるなら、翔太君もいるかな?

 グラウンドを見渡すと緑チームと一緒にいる翔太君を見つけた。

 綺麗にチームが分かれているね。

 綱引きは健斗君がいる赤チームが優勢かな?

 勝負の行方を見守っていると、赤チームが緑チーム相手にも圧勝した。

 そして翔太君の緑チームは青チームにも負けてしまった。


「この雪辱せつじょくは来年のテストで晴らす!」


 翔太君の負け惜しみが空しく響き渡る。

 運動会の雪辱を勉強で晴らすなんて聞いた事ないよ。

 考えるだけの人なら結構いそうだけど……

 次の競技は紅鳶べにとび小学校名物のマラソン。

 燐火りんかちゃんが一番力を入れていた競技だ。

 マラソンだけは黙って見ている事は出来ない。

 応援するだけなら近くに行っても問題ないよね。

 僕は燐火りんかちゃんの所に向かった。


燐火りんかちゃん、頑張ろうね!」

「うん、練習の成果を見せようね!」

「練習の成果か。魔導士が勇者に体力で勝てるとは思えないけどね」

「僕の計算では3周も持たない。諦めるのだな、僕と共に」


 健斗君と翔太君も一緒に走るのか。

 手強いな健斗君だけは。

 翔太君は走る前に諦めないでよ!


「負けないよ。大魔導士フラマ・グランデ様は体力も凄いんだから。私だってきたえてきたんだよ!」

「あの中年おかっぱ暴力魔導士か。なるほど、あいつの弟子を名乗るなら運動でも負けたくないよな。非礼をびよう」

「気にするな。貴様に何を言われようと、友に名付けられたグランデの称号は傷つかぬ!」

燐火りんかちゃん?!」

「テプちゃん、6章の名シーンですよ。大魔導士フラマ・グランデの名シーンで検索すれば簡単に出てくるのに、知らないのは相棒失格ですよ」

「そうなんだ……翔太君は詳しいんだね」

「当然ですよ。世界観も含めて全ての知識を得るのもゲームの醍醐味だいごみの一つですからね」

「そ、そうなんだ……」


 パンッ!

 あっ、もう始まっちゃった!

 学生達がグラウンド内のコースを周回し始めた。

 慌てて燐火りんかちゃんの隣に向かった。


「頑張れ燐火りんかちゃん!」


 声をかけたが燐火りんかちゃんからの返事はない。

 呼吸を乱さない様に無言で走っている。

 先頭を走るのは健斗君。

 勇者を名乗るだけの事はあるよね。

 スタート前は一緒にいた翔太君は宣言通り遅れていったけどね……

 全員同じ学年なのに走力にかなり差がある。

 3周目で既に先頭を走っている学生は8人に減っていた。

 その中の2人は健斗君と燐火りんかちゃん。

 周回を重ねる毎に先頭集団の人数が減っていくが、燐火りんかちゃんは頑張ってついて行っている。

 でも、とても苦しそうだ。

 まだ先頭を走っている健斗君は余裕があるように見える。


「ファイトだよ燐火りんかちゃん!」


 僕は応援しながら燐火りんかちゃんの隣を飛行した。

 10周目、ついに燐火りんかちゃんが先頭集団についていけなくなった。

 負けないで燐火りんかちゃん!

 僕は祈ったが、燐火りんかちゃんが走るのを止めてコースから出て行ってしまった。

 どうしてなの?!

 次々に他の男子生徒に追い抜かれていく……


燐火りんかちゃん! どうして諦めちゃったの? 頑張ろうよ!」

「何言ってるのテプちゃん。女子は10周だよ。私がいちばーん!」


 燐火りんかちゃんが喜んでいる。

 最初から言ってよ!!

 同時に走っているから勘違いしたじゃない!

 走る前の健斗君との直接対決みたいなノリは何だったの?!

 急に疲れが出てしまった。

 マラソンの順位は、男子は健斗君、女子は燐火りんかちゃんが一位だった。

 不安だらけだった翔太君は、一応完走したのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る