第74話 かっこ悪いけど格好良い男?!

「テプちゃん、これを渡しておくよ」


 陽翔はるとお兄さんから小袋を渡された。


「中見は何?」

「使い捨ての魔力玉が入っている。狼煙のろしみたいなものだよ。地面に叩きつければ居場所が分かるようになっている」

「煙が出るの?」

「出ないよ。割れると特殊な魔力が立ち上るのさ。大賢者アクイアス・セッテが現れたら使ってくれ。僕と蒼真そうまが駆けつけるからさ」


 蒼真そうま……纏蝶てんちょうさんが駆けつけてくれるのなら安心だな。

 お店で会っただけで戦うところを一度も見た事が無いけど、筋肉ムキムキで魔王より強そうだからね。

 陽翔はるとお兄さんが先に来たら纏蝶てんちょうさんが来るまで時間稼ぎをしよう。

 これで不安は無くなったかな。

 燐火りんかちゃんは鉱魔こうまが相手なら負けないからね。


「ありがとう陽翔はるとお兄さん」

「お礼を言いたいのは僕の方さ。しず子を奴らと戦わせたくはないからね」

「どうしてですか? しず子さんは陽翔はるとお兄さんと違って魔法が使えますよ。攻撃魔法は無いけど、戦う力はあると思いますけど」

「強さの問題ではないんだよ。しず子は過去にとらわれている。七つの大罪の一人だというだけで、初対面の大賢者アクイアス・セッテを殺そうとしてしまうかもしれない。だから止めたいんだ。アイツは僕達が捕まえて罪をつぐなわせるからさ」

「でも陽翔はるとお兄さんはアクイアス・セッテを倒せるんですか? 強いかもしれないですよ」

「弱いけど頑張るさ。もう逃げたくはないんだ。昔ね、戦う力がないからって逃がされた事があるんだ。逃げた後、どうなったと思う?」

「それは……」


 僕は陽翔はるとお兄さんの質問に答えられなかった。

 纏蝶てんちょうさんのご両親が亡くなられた時の話だと分かっていたから。

 陽翔はるとお兄さんは、あの時の悲劇を繰り返したくないのだろう。

 だから怪盗ガウチョパンツとして活動している。

 いつも中途半端でかっこ悪いけど、信念を持って頑張っているのは格好良いよね。


「困らせてしまったかな? 気負わなくていい。僕達がついているからさ」

「宜しく陽翔はるとお兄さん。僕も燐火りんかちゃんを危険な殺人者と戦わせたくないから」


 僕は陽翔はるとお兄さんと握手をした。


「よしっ、みんなのところに戻ろうか?」

「うん」


 僕と陽翔はるとお兄さんは増子さんの部屋から喫茶店に戻った。

 既にしず子さんは帰っていたようだ。

 かき氷を食べ終わった燐火りんかちゃんと増子さんが暇そうにしていた。


「遅かったねテプちゃん。何を話していたの?」

纏蝶てんちょうさんから貰ったアイテムの解説だよ。これからの戦いで必要になるからね」

「ふ~ん。みんなの前で話せば良かったのに。みんながアイテムの効果を知っていた方が戦いやすいと思うよ」


 し、しまった。

 一応隠している怪盗ガウチョパンツの正体の話だったから違う話で誤魔化そうとしたのに、燐火りんかちゃんに嘘がばれそうだよ。


「そういう考え方もあったね。でも僕はテプちゃんの能力だから、最初にテプちゃんだけに知って欲しかったんだよ。能力はプライベートな事だからね。知りたかったらテプちゃん本人から聞いてくれたまえ」

「分かったよ怪盗ガウチョパンツ」

「何を言っているのかな燐火りんかちゃん? 僕は巷を騒がせているイケメン怪盗のガウチョパンツとは別人だよ。はははっ」


 陽翔はるとお兄さんが焦っている。

 折角僕が誤魔化そうとしたのに、途中から口調が怪盗ガウチョパンツになっていたからバレバレだよ……

 燐火りんかちゃんは鋭いから隙を見せちゃ駄目だよ。


「この後どうするんだ? しず子さんは見回りするって言って帰ったけど?」

「増子お姉ちゃんごちそうさま。今日はゲームのイベントがあるから帰るね」

「僕も燐火りんかちゃんと一緒に帰ります」

「そうか、またな! 今度は一緒に見回りしよう!」


 僕と燐火りんかちゃんが喫茶店を出ようとしたらーー


「支払いは僕が」

「いいよ。仲間だからサービスだ」

「そうもいかん。僕は女性に借りを作らない主義なんだ」

「何でかな? 過去に痛い目にでもあった?」

「そ、それは……」


 増子さんと陽翔はるとお兄さんが支払いで揉めている。

 なんだか仲が良さそうにも見えるなぁ。

 もう少し見ていたいけど、燐火りんかちゃんを待たせているから喫茶店を出た。

 いつも通り、商店街の大通りを歩いていると巨大な赤い豚さんが暴れていた。

 新しい鉱魔だ!


燐火りんかちゃん、鉱魔が出たよ!」

「そうだね。でも今日は帰ろう!」

「でも鉱魔が暴れていたら危険だよ」

「大丈夫だよ。ほらっ」


 燐火りんかちゃんが指をさす方を見ると、三人の魔法少女がいた。


やしの戦士! コスモオーラ!」

智慧ちえの戦士! アクアオーラ!」

「希望の戦士! エンジェルオーラ!」


 蒼羽あおはさん達だ!


「大丈夫か? いま直してやっからさ! ギャラクシアン・ヒール!」


 コスモオーラがけが人を魔法で回復させる。

 回復役のコスモオーラを邪魔だと思ったのだろう、豚の鉱魔がコスモオーラを攻撃しようとした。


「攻撃なんてさせません! ウォーター・ウイップ !」


 アクアオーラが必殺技で豚の鉱魔を拘束した。


「これで終わりです! コアに戻れ! エンジェリック・スメルティング !」


 エンジェルオーラの魔法が直撃し、豚の鉱魔が赤い宝石の様なコアに姿を変えた。


「ガーネット・コア回収完了!」


 エンジェルオーラがコアを手にした。

 完璧な連携、一瞬でつかみ取った勝利。

 蒼羽あおはさん達は鉱魔との戦いなら、僕達より的確に対処出来る。

 でも……


「妨害しなくて良かったの?」

「うん、今日はそういう気分じゃないから。早く帰ろう!」

「そ、そうだね……」


 燐火りんかちゃんは今日も気まぐれなのだった。

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