第63話 考えるより討つがやすし

「さっそく敵を倒しに行こう! 作戦を考えるより実際にやってみた方が早いから」

「そうだね芽衣子めいこちゃん。考えるより討つがやすしって習ったからね」


 燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんが立ち上がった。

 ええええええっ!

 本当に戦うの?!

 芽衣子めいこちゃんは魔法が使えないから大丈夫だと思うけど、燐火りんかちゃんが戦ったら町がほろびちゃうよ!

 僕はあわてて二人の後を追いかけた。

 燐火りんかちゃんが周囲の被害を考えずに魔法を使うとは思わないけど、町に被害が出そうになったら僕が頑張って止めないとね。

 今の僕には纏蝶てんちょうさんから入手した魔法のアイテムがあるんだから……不安になってきたなぁ。

 本当に役に立つかどうか分からないんだよなぁ。

 魔法のアイテムって呼んでいるけど、実際は呪物や聖遺物せいいぶつが混ざっていそうだし、効果もいまいちなんだよね。

 纏蝶てんちょうさんが売れ残りのアイテムを選んだのかなぁ。

 妖精の毛ってそんなに価値が無いのかな?

 そんな事を考えながら二人の後を歩いていると、前方から数人の大人が慌てて走ってきた。


「向こうは危ないよ! 化け物が現れた!」

「化け物ってクマみたいでしたか?」

「そうだよ! 鉱物のクマだよ! 逃げろ!」


 大人たちが走り去っていった。


「どうやら敵は南南東の方角の様だな。風速・風向・気温が分かれば到着時間の予測が出来るよ」

「凄いね、芽衣子めいこちゃんの予測は。どのぐらいで敵の場所に行けそう?」

「そうだなぁ……計測が出来ないからおおよそになるが、5分程度で現着出来ると思う」

「データがないのに、そこまで正確に分かるんだね。さすが冥王」

「大した事は出来ないよ。予期出来ても対処する力がない。戦う力がある大魔導士には敵わないよ。さぁ、行こう!」

「うん」


 燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんが敵がいる大通りへ向かった。

 僕は何を見せられているのだろう?

 公園のから商店街がある大通りまでは普通に徒歩5分で行けるでしょ?

 事故で道路が封鎖されているとか、イベントで通行出来ないとか、余程の事が起きない限り変わらないよね?

 本当に予測が必要だったのかなぁ……気にしちゃだめだ!

 これは気分を盛り上げる為の演出に違いない。

 僕達は対立する魔法少女を止める第三勢力なんだ。

 主役なんだから少しくらい演出があっても良いと思う。

 さぁ、僕も一緒に突撃だ!

 燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんと一緒に大通りに辿り着くと、既に戦いが始まっていた。

 増子さんと星七せいなさんは激しく殴り合っている。

 亜夕美あゆみさんが水の攻撃魔法でクマの鉱魔こうまを攻撃しているが、しず子さんが癒しの水で回復するから決定打を与えられないでいる。

 鉱魔が弱っていないと活躍出来ない蒼羽あおはさんは静観している。


「いい加減倒れろや! この悪党!」

「それは無理だね! 私の心は簡単に折れないよ」

「私の想定を超える回復力?! これはいやしでは無い、復元の力ですね。邪魔しないで頂けますか、化け物のお姉さん?」

「お姉さんを化け物しないでくださいね~。邪魔されたくなかったら賢者を呼べば良いんですよ~」

「それは出来ません。私達が倒れたら、新しい魔法少女を生み出せる賢者アクイアス・セッテだけが世界の希望になるのです。危険な最前線に呼び出す事はありません」

「中学生に守ってもらうような賢者さんに世界は救えませんよ~。早く差し出しなさい」

「賢者に会いたければ私たちを倒して会いに行けばいい!」


 なんでこんなに殺伐さつばつとしてるの?

 鉱魔を守る理由を聞こうと思っていたけど、怖くて聞ける状況じゃないよ!

 燐火りんかちゃんと芽衣子めいこちゃんは、本当にこの5人と戦うの?

 魔法少女同士の本気の戦い……もう子供の僕達が立ち入っていい状況じゃないって!


燐火りんかちゃん、危ないから逃げようよ」

「何故戦う? そんなに勝利が欲しいのかっ!」


 うあっ!

 突然芽衣子めいこちゃんが叫んだのでびっくりしたよ。


「戦って得られるのは勝利ではない! 終わらない怨嗟えんさを生み出すだけだ!」


 今度は燐火りんかちゃん?!

 何言ってるの二人共?!


「ならば世界の憎悪をの全てを抱きしめて冥府に落ちよう。嘆き、悲しみ……全てを私と共に奈落の底に叩き落としてくれるわ!」

「見事! その覚悟受け取った! だが、その必要はない。わたしの手には戦いそのものを滅する火がある!!」


 もうだめだ……何かのスイッチ入っちゃったよ。

 もう僕には二人を止める事は出来ない。

 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を取り出し詠唱を始めた。


 猛獣の牙より鋭き劫火の牙よ

 我に仇なす全ての敵を絡め取れ

 出でよ! 樹木の如き生命の花!


蹴散けちらせ! 珊 瑚 刺 火コーラルツリー


 炎の花弁が対立する魔法少女達を隔てる様に伸び、中心にいたクマの鉱魔を一瞬で灰にした。


「正義と悪、敵と味方……そんな風に単純に仕分け出来ないんだよ。白黒つけられないからグレーな部分が大事なんだ。見てみろ。神の炎の力で焼かれた奴が灰になっただろ? 神もグレーな部分を認めているって証拠さ。そういう訳で邪魔しちゃったよお姉ちゃんたち!」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を地面に突き立て、腰を曲げてアゴを杖の先端に乗せた。

 でた~。

 大魔導士フラマ・グランデのキメポーズと謎理論。

 モノマネだけは止めて欲しかったなぁ……

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