第61話 第三勢力

 しず子さん達が悪の魔法少女扱いされている緊急事態なのに、燐火りんかちゃんは何で普通にゲームで遊んでいるんだろう?

 早く話をしたかったが、ゲームの邪魔をしたら別の意味で緊急事態になるので止めた。


「ふぅっ。今日の収穫はいまいちだったなぁ。あれっ、テプちゃんおかえり。温泉旅行楽しかった?」


 燐火りんかちゃんがヘッドホンを外して振り返った。


「ただいま燐火りんかちゃん。温泉旅行は殺人犯にされそうになって、ガウチョパンツが天井から落ちてきて大変だったよ」

「大丈夫テプちゃん? 混乱してる? 意味が分からないよ」


 ちょっと説明を省略し過ぎたかな。

 燐火りんかちゃんには僕の温泉旅行での大変さが伝わらなかったようだ。

 実際に体験した僕たちなら理解出来るけど、知らない人が聞いたら理解出来ない状況だから仕方がないかな。

 ゆっくり説明すれば良いのだろうけど、そんな心の余裕がないんだよね。

 今まで紅鳶べにとび町を守ってきた僕達魔法少女が悪役にされているんだからね。


燐火りんかちゃん、しず子さん達が悪の魔法少女って呼ばれていたけど理由を知ってる? どうして燐火りんかちゃんは一緒に戦っていないの? 燐火りんかちゃんが倒した鉱魔こうまも蘇っていたよ!」

「テプちゃん、質問が多いよ。落ち着こうよ」

「分かったよ燐火りんかちゃん」


 僕は深呼吸をした。


「落ち着いたよ燐火りんかちゃん。何でしず子さん達は鉱魔を守っているの?」

「知らないよ。教えてくれなかったから」

「えっ、何で?」

「テプちゃんがいなかった間の事を話すね。その方が話が状況を理解しやすいと思うから」


 そう言った後、燐火りんかちゃんが僕がいない間の事を教えてくれた。

 僕が旅行に行った日、しず子さんが久しぶりに喫茶店に現れたそうだ。

 そして、増子さんだけに話があると言って連れて行ったので、燐火りんかちゃんはそのまま帰ったそうだ。

 翌日、町に現れた鉱魔を蒼羽あおは達が倒そうとしていた所にしず子さんと増子さんが急に現れて鉱魔を守ったのだ。

 狂暴な鉱魔を守った事で町のみんなからはヤジを飛ばされていたけど、二人は気にせず去っていったそうだ。

 その場にいた燐火りんかちゃんに一言も声をかけずに……


「そんな……仲間なのに……」

「大丈夫テプちゃん? 顔が青いよ」

「だって! 鉱魔を守っただけで驚いたのに、燐火りんかちゃんを無視したんだよ!」

「何か事情があるんじゃないかなぁ。しず子さんがアクイアス・セッテを出せって言っていたから」

「しず子さんが賢者を探している事は分かったけど、邪魔をする為に鉱魔を守るのは良くないと思うよ」

「邪魔する為に鉱魔を守るか……ちょっと違う様な気がするなぁ」

「ちょっと違う? 燐火りんかちゃん、どういう事なの?」

「鉱魔を守るのも目的のような気がするんだよね。蒼羽あおはさんに魔法を使わせないようにしていたから。鉱魔をコアにしたくないみたいだった」


 鉱魔をコアにしたくない?

 何でだろう?

 鉱物の力と体を持った魔獣である鉱魔。

 大自然の力を持った凶悪な危険な存在だから倒した方が良いと思う。

 謎の賢者は胡散臭いから気になるけど、鉱魔と戦う蒼羽あおはさん達の邪魔はしない方が良いと思うんだけどなぁ。

 燐火りんかちゃんが魔法で消滅させた鉱魔は復活したけど、蒼羽あおはさんのエンジェリック・スメルティング でコアになった鉱魔は復活していないからだ。

 今の所、鉱魔を完全に倒すには蒼羽あおはさんの魔法が必須だ。


「う~ん、しず子さん達が何を考えているのか分からないなぁ」

「テプちゃん、悩んでる?」

「悩んでるよ。どうして燐火りんかちゃんは悩まないの? 魔法少女同士で対立しているんだよ! 燐火りんかちゃんだけ仲間外れになっているんだよ! 燐火りんかちゃんの魔法でも倒せない敵が出て来たのに!」

「テプちゃん興奮しすぎだよ。落ち着いて状況を思い返してみようよ。新たな発見があるかもしれないよ」


 状況を思い返す?

 しず子さんが増子さんを巻きこんで蒼羽あおはさん達と敵対した。

 更に鉱魔を守って悪の魔法少女と呼ばれている。

 しかも燐火りんかちゃんは仲間外れという状況。

 何の発見があるんだろう?

 僕には分からないよ!


「ごめん。燐火りんかちゃんが悪役扱いされていなくて良かったくらいしか思いつかない。燐火りんかちゃんが言う新たな発見ってのは思いつかないよ」

「テプちゃんは鈍いなぁ。それじゃ順番に説明するね。わたしたちは両陣営と面識がある」


 ふんふん。

 確かに両方の魔法少女と面識があるよね。

 陣営って言い方が気になるけど。


「そして双方を倒せる圧倒的な戦力を保有しているんだよ」


 圧倒的な戦力かぁ……燐火りんかちゃん一人だけどね。

 確かに火力だけなら燐火りんかちゃんの魔法が最強だと思うけど。

 戦力という言い方は合わないと思うけど。


「ここまで言ってもテプちゃんは分からないの?」

「分からないよ。燐火りんかちゃんが圧倒的に強いのは分かるけど」

「両陣営に属していないって事は、第三勢力って事なんだよ。主人公ポジションだよ! わたしの力で争う二つの勢力を制圧するの!」


 燐火りんかちゃ~ん!

 そんな事を考えていたのね……

 アニメでは定番の役割だけど、現実でやるのは簡単な事じゃないよ。

 それに燐火りんかちゃんが力を使ったら制圧じゃなくて殲滅せんめつになっちゃうよ!

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