第60話 悪の魔法少女

「我の知識通りであったな。最初から我の言う事を聞いて捕まえておけばよかったのだ」


 全く活躍しなかった魔王さんがドヤ顔で言った。

 帯刀たてわき刑事が事件を起こそうとしたのは、今回のさわぎが原因だよね?

 最終的に犯人になっただけで、魔王さんが推理した時点では犯人じゃなかったと思うけど……

 でもこれで解決かな?

 帯刀たてわき刑事には申し訳ないけど……


「このクズ刑事が! 仲間が来たらお前を引き渡すから覚悟しろ! あとそこの一般人! お前に逮捕する権利はない! 私に引き渡せ!」


 明比あけび警部が帯刀たてわき刑事を拘束こうそくしている怪盗ガウチョパンツに詰め寄った。


「その通りだ。私に逮捕する権利はない。でも拘束する。私は怪盗だからね。法律を守ると思うのかい?」

「ならお前も逮捕する!」


 明比あけび警部がつかみかかったが、怪盗ガウチョパンツが華麗にかわし、逆に明比あけび警部を押さえつけた。


「何をする!」

「大人しくしていてくれないかな? 言葉以外で大人しくする事も出来るけど、君程度に罪悪感を感じたくないのでね」


 怪盗ガウチョパンツが脅すと明比あけび警部が大人しくなった。

 今日の怪盗ガウチョパンツは強気だなぁ。

 少しカッコイイと思っちゃったよ!


「さて、犯人は拘束しましたので、みなさん解散しましょう」


 宿泊客たちが部屋に戻っていった。


「さて、我らも戻ろう。探偵ゴッコは面白かったな」

「魔王さんは余裕があって良いですな。私は撃たれるのが怖くて怯えていましたよ」

「いざとなったら魔王さんを盾にすれば良いだけですよ」

「良いアイデアだなテプ。一兆ドルマを越える衝撃でなかれば我を傷つける事は出来ないからな。フハハハハッ!」


 魔王様が高笑いした。

 一兆ドルマって何の単位?

 良く分からないけど強そうだなぁ。

 さて、疲れてきたから眠ろうかな。

 僕達は部屋に戻ってふかふかの布団で眠った。

 翌日、警察の増援部隊が明比警部と帯刀刑事を捕まえていった。

 怪盗ガウチョパンツのダサいちょうのマスクを見て怯えていたけど、何でだろう?

 色々事情を聴きたかったけど、帰りの予定があるから聞くのを止めた。

 僕達は条さんが運転する車で紅鳶べにとび町へ帰った。


「温泉旅行楽しかったです!」

「私もですよ。誘ってくれてありがとうございます魔王さん」

「我も楽しかったぞ。また機会があったら旅行しよう」


 魔王さんが飛び去って行った。


「おじさんはレンタカーを返しに行くよ。さようならテプ殿」

「条さん、お疲れさまです!」


 僕は条さんと別れた後、燐火りんかちゃんのお家に向かった。

 何だろう?

 大通りの方が騒がしい事に気付いた。

 駆け寄ってみると魔法少女達が戦っていた。


「このゾンビやろう! しつこいんだよ!!」

「私は倒れない! 勇気がある限り!!」

星七せいな、魔法で排除するわよ! ウォーター・ウイップ !」

「増子! いやしの水よ!」

「ふっかあああああつ!!!」


 な、なにしてるのおおおおお?!

 星七せいなさんと亜夕美あゆみさんが増子さんを攻撃していた。

 増子さんはしず子さんのいやしの水で復活しているけど劣勢のようだ。

 何度も倒されながら復活を繰り返している。

 蒼羽あおはさんは後方で待機している。

 鉱魔こうまをコアに戻すチャンスを伺っているようだ。


「頑張れ魔法少女! 鉱魔こうまを倒してくれ! 悪の魔法少女の妨害ぼうがいに負けるな!」


 町の皆が星七せいなさん達を応援している。

 悪の魔法少女って誰?

 しず子さん達に向かって言っていた様に聞こえたけど……

 あっ、あれは燐火りんかちゃんが倒したはずのクマの鉱魔。

 生きていたんだ!

 亜夕美あゆみさんの水魔法でダメージを受けていたが、しず子さんがいやしの水をかけて回復させている。

 何でしず子さん達が鉱魔を守っているの?

 そういえば燐火りんかちゃんは何処だろう?

 辺りを見渡したが燐火りんかちゃんの姿は無かった。

 温泉旅行で事件に巻き込まれて大変だったけど、帰ってきたらもっと大変な事になっていたよ!

 あっ、鉱魔が逃げた!


「鉱魔が逃げたぞ! 止めろよ亜夕美あゆみ

「無茶言わないでよ! 攻撃魔法が使えるのは私だけなのよ。星七せいながあの女を止めてくれないと鉱魔に攻撃出来ないのよ」

「うるせぇ! もっと火力上げろよ! 拳じゃ倒れないんだよアイツ!」

「落ち着きなさい二人共。住民に被害ひがいが出ないなら深追いする必要はありません」


 戦いを続けようとする星七せいなさんと亜夕美あゆみさんを蒼羽あおはさんが止めた。


あきらめなよ。僕は倒れないからね」

「賢者に伝えなさい。必ず抹殺まっさつすると!!」

「それは言い過ぎだよしず子さん。僕達は世界を守る為に戦っているんだからさ」

「そうよ。だから賢者アクイアス・セッテは抹殺まっさつする」

「そういう物騒ぶっそうな事は言わない約束だ」

「分かったわよ」


 えっ、しず子さんが怖い。

 僕が旅行に行っている間に何があったの?

 賢者アクイアス・セッテは何をしたんだろう?

 状況が飲み込めなくて混乱するよ!


「帰るわよ」

「待てよ蒼羽あおは

「仕方ないわね。今回は見逃すけど次はないからね」


 蒼羽あおはさん達がかえって言った。

 残されたしず子さん達もブーイングを浴びながら帰っていった。

 しず子さん達が完全に悪役になっている。

 僕は慌てて燐火りんかちゃんの家に帰った。

 燐火りんかちゃんの部屋に入ると、元気そうな姿で机の前に座っていた。

 無事で良かった!

 僕はあわてて呼びかけた。


燐火りんかちゃん! しず子さん達が悪の魔法少女扱いされていたけど理由を知ってる?」


 だが、僕の声は燐火りんかちゃんに届かなかった。

 ゲームに夢中でヘッドホンをしていたからだ。

 燐火りんかちゃん……いつも通りで何よりだよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る