第52話 テプちゃんが魔獣になる

 纏蝶てんちょうさんに会いに行った翌日、僕はいつも通り燐火りんかちゃんと一緒に学校に来ていた。

 いつもは燐火りんかちゃんが授業を受けるのをノンビリ見ているが、今日は纏蝶てんちょうさんから入手したアイテムとにらめっこしている。

 これ、何の効果があるのだろう?

 首から下げている袋に沢山アイテムを詰めてもらったけど、使い方を一切教えてもらっていない。

 効果が予測出来るのはこれだけかな。

 僕は三つ首の魔獣が描かれた護符ごふを手にした。

 これは地獄の番犬と言われているケルベロスだよね。

 具体的な効果は分からないけど、たぶんケルベロスの様な力を得られるか、ケルベロスを召喚出来るかのどちらかだと思う。

 いきなり失敗はしたくないから、最初に使うのはこれにしよう。

 三つ首の魔獣の護符ごふを直ぐに取り出せるように袋の一番上に入れた。

 これで準備完了だね。

 放課後に謎の鉱物の魔獣に出会った時に使ってみよう!

 あとはいつも通り授業を楽しんだ。

 さて、下校の時間だ。

 今日は魔法少女の活動をしない日だ。

 燐火りんかちゃんと一緒に帰宅する途中、金色の巻き髪の少女と出会った。

 この人は蒼羽あおはさんだったかな。


「杖が出せる子供としゃべるウサギじゃないの。こんなところで何しているのかしら?」

「下校中に決まってるでしょ」


 燐火りんかちゃんがそっけなく言った。

 うぁ、殺伐としてる。

 燐火りんかちゃん絶対蒼羽あおはさんの事が嫌いだよ。


「そうよね。杖が出せるだけのお子様に何か出来るとは思えないからね。鉱魔が出る前にお家に帰りなさい」

燐火りんかちゃんは杖が出せるだけのお子様じゃないよ」


 燐火りんかちゃんは無視して帰ろうとしたが、僕は反論した。

 別に蒼羽あおはさんにどう思われようと関係ないけど、言われっ放しでいたくないからね。


「その子、燐火りんかって名前なのね。貴方は?」

「僕はアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世だよ」

「アル……セン……6世。長いからロクセイって呼ぶわよ」

「なんでロクセイなの?! みんなテプちゃんって呼ぶのに?」

「あだ名があるなら早く言いなさいよ。無駄に時間を使ってしまったじゃないの」

「無駄で悪かったですね。蒼羽あおはさん」

「何で私の名前を知っているの? 私の事を調査していたという事は……敵?!」


 蒼羽あおはさんが飛びのいて構えた。

 この子変だな。


「調査なんてしてないですよ。この前友達が名前で呼んでいたでしょ」

「確かに星七せいな亜夕美あゆみが名前で呼んでいましたよ。でもそれだけで名前を覚えているのは変ね。まさか、私に一目ぼれしたのではないでしょうね?」

「帰ろうかテプちゃん」

「そうだね燐火りんかちゃん」


 僕は燐火りんかちゃんと一緒に帰る事にした。

 これ以上話をしても時間の無駄だと思うからね。


「お待ちなさい!」


 蒼羽あおはさんに呼び止められたが、そのまま帰ろうとした。

 あれっ、目の地面から光が溢れている。

 初めて見る光景だけど、なんとなく何が起きているか想像出来る。

 これは鉱魔の登場だ!


「お下がりなさい」


 蒼羽あおはさんが水晶の様に輝くたまを天に掲げ、虹色に輝く光が彼女を包んだ。


「希望の戦士! エンジェルオーラ参上!」


 蒼羽あおはが魔法少女エンジェルオーラに変身したと同時に鉱魔が姿を現していた。

 半透明の鉱石で出来たお馬さんだ。

 今日は蒼羽あおはさん一人だけだけど大丈夫なのかな?

 蒼羽あおはさんが魔法のステッキを構えたが、馬の鉱魔が体当たりで魔法を使うのを阻止した。


「仕方がないなぁ」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を取り出した。

 鉱魔を火炎魔法でやっつけるつもりなのだろう。


「まって燐火りんかちゃん。鉱魔を倒すには蒼羽あおはの魔法が必要だよ。動きを止める魔法を使える?」

「そんな魔法ないよ。大魔導士が使うのは敵をめっする魔法だけだよ」

「危ない!」


 蒼羽あおはさんが馬の鉱魔に突き飛ばされた。

 話をしている途中の僕達を狙った鉱魔から守ってくれたのだ。

 蒼羽あおはさんがよろけながら立ち上がった。

 これは大ピンチだ。

 鉱魔をコアに戻せる魔法が使える蒼羽あおはさんが倒れたら負けてしまうかもしれない。

 そうだ!

 纏蝶てんちょうさんからもらったアイテムがある!

 僕は三つ首の魔獣が描かれた護符ごふを取り出してんだ。

 首筋がムズムズするなぁ。

 ぐぁっ!

 首から二つの顔が生えてきて巨大化した。

 護符ごふの効果はケルベロスの様な姿になれる効果だったんだね!

 あれっ、巨大化が止まった。

 大きくなったのは三つの頭だけだった。

 しかも大きくはなったけど、元々の僕の顔のままだから迫力がない……

 見た目を気にしてる場合じゃない!

 中途半端な変身だけど、ケルベロスになれる効果があるなら火を吐けるはずだ。

 僕は気合を入れて息を吐き出した。

 キュッキュッ!

 可愛い鳴き声が響き渡った。

 なんだろう、この空しい効果は……

 馬の鉱魔があっけに取られて動きを止めている。


「エンジェリック・スメルティング!」


 蒼羽あおはさんが魔法を直撃させると、馬の鉱魔の体が溶けて光り輝く鉱石に姿を変えた。

 あっ、良く分からないけど無事にサポート出来たみたいだね。


「スピネル・コア回収完了!」


 蒼羽あおはさんが鉱魔のコアを回収した。

 護符ごふの効果時間が切れたのか、僕の頭も元通りになった。


「敵を引きつけてくれて助かったわ。じゃあね」


 蒼羽あおはさんが傷ついた体を引きずりながら去っていった。

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