第51話 纏蝶さんに会いに行く

 謎の魔法少女と出会った翌日、僕は恐怖のお店『百怨ひゃくえんショップ蝶番ちょうつがい』に来ていた。

 目的は僕自身が強くなる事だ。

 僕は燐火りんかちゃんが活躍出来なくて焦っていた。

 でも、それは間違っている。

 焦っているのは僕自身が何も出来ないからだ。

 僕達魔法王国アニマ・レグヌムの妖精たちは少女に力を与えて魔法少女にする力があれば良いと思っていた。

 だけど、それだけでは駄目なんだ。

 魔女の始祖と戦う前にパパが言っていた、昔の妖精たちは攻撃魔法だって使えたんだ。

 僕だって頑張れば何か出来ると思う。

 だけど解決方法は思い浮かばなかった。

 だから来てしまったのだ、この恐怖の店に。


「こんにちは」


 ひえっ!

 ドアを開けて足を踏み入れると同時に……恐怖で動けなくなった。

 纏蝶てんちょうさんが更に化け物になっている?!

 前に来た時は体を隠す様に大きな二枚の蝶の羽根が体に巻き付いていたが、今は羽根を広げているから筋骨隆々な肉体が剥き出しになっている。

 棘が生えた巨大な鉄球が付いた棒を持っており、棘の先から紫の液体がしたたり落ちている。

 床に垂れているけど大丈夫なのかな?


「あら、テプちゃんじゃないの。一人でくるなんて珍しいわね」

「ててて、纏蝶てんちょうさんはどうしたんですか? そんな恰好していたら警察呼ばれますよ」

「大丈夫よ。警察もお得意様だから」


 えっ、警察がお得意様?!

 警察が呪物とか買ってるの?!

 信じられない!


「冗談ですよね?」

「本当よ。販売と買い取り両方でお世話になってるからね」

「警察なのに呪物とか買ったりするんですか?」

「逆よ。呪物は買い取る方ね。捜査の過程で入手た呪物を買い取ってるのよ。売ってるのは魔除けや解呪アイテムね。呪術や魔法を使った犯罪もあるのよ。状況によっては私が直接出向く時もあるわよ」

「捜査の過程で入手したものを売って大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないわね。世間では呪物なんて認めれれてないからね。でも正規の手続きで魔除けを買うための予算が出ると思う? 出ないよね? 魔除けが買えず警察官が死ぬ。捜査で入手した呪物が街中に出回ってしまう。それで多くの人が不幸になったら大変な事でしょ? だからいらない呪物を売って魔除けを買うのよ。必要悪といった所ね」

「そんな大事な事を僕に言っても大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。喋るウサギの事を誰が信じるの? 信じてもらえない上に、珍しい動物として捕まっちゃうよ」

「えっ、今まで話しても大丈夫だったのに? 燐火りんかちゃんのパパとママだって普通にしてたよ」

紅鳶べにとび町が特殊なだけよ。今まで魔法少女は普通にいたし、サキちゃんみたいな特殊な存在が沢山いるからね。知り合いでしょ?」


 サキちゃんは僕の友達のじょうさんに寄生している生物だ。

 言葉を話す事は出来ないけど、細長い体で文字を表現出来るから意志の疎通が出来るんだよね。

 紅鳶べにとび町なら大丈夫みたいだけど、他の町に行く時は会話を聞かれない様に気をつけようかな。


「ありがとうございます纏蝶てんちょうさん。物騒な恰好しているから驚いたけど、いつも通りの纏蝶てんちょうさんで良かったです」

「いつも通りではないわよ」


 纏蝶てんちょうさんが冷たく言い放った。

 この感じどこかで……あっ、昨日のしず子さんと同じだ!

 しず子さんは蒼真そうま……纏蝶てんちょうさんに謎の魔法少女の事を確認するって言っていた。

 纏蝶てんちょうさんの様子が変なのは、しず子さんが謎の魔法少女の事を話したからなのかな?


纏蝶てんちょうさんは、しず子さんから謎の魔法少女の話を聞いたのですか?」

「聞いてないわよ。私が聞いたのは大賢者アクイアス・セッテについてよ。テプちゃん、大賢者アクイアス・セッテの関係者と関わらない方がよいわよ」

「何でですか? 纏蝶てんちょうさんは大賢者アクイアス・セッテを知っているんですか?」

「知らないけど、アレは私が処理する事だから」

「おかしいですよ纏蝶てんちょうさん! 理由くらい教えてくれてもいいじゃないですか?」

「子供は知らなくていい事があるのよ。キツイ言い方してごめんねさいね。それで、テプちゃんは何を買いに来たの?」


 纏蝶てんちょうさんに話を逸らされてしまった。

 残念だけど、これ以上追求しても教えてはくれそうもないな。

 仕方がないから、本来の目的である僕のパワーアップの相談をしよう。


「強くなりたいです。強大な敵と戦う事は無さそうなので、燐火りんかちゃんと一緒に人助け出来るくらいで大丈夫です」

「分かったわよ。とっておきのアイテムを選んであげるわよ」


 纏蝶てんちょうさんが店の中を歩き回って袋の中に詰めていった。

 け、結構沢山のアイテムを袋に詰めているけど、支払いは大丈夫かな?

 僕は以前、お尻の毛をむしられたのを思い出した。

 ちょっと痛くても我慢しないとね。


「揃ったわよ、私のお勧め。支払いはいつも通りで大丈夫かな?」

「大丈夫です。お願いします」


 僕はカウンターの上に飛び乗り、纏蝶てんちょうさんにお尻を向けた。

 覚悟は出来ている。

 ジュィーン!

 何の音だろう?

 何かが僕のお尻に触れているけど痛くはない。


「終わったわよ」


 振り向くと、纏蝶てんちょうさんがバリカンを手にしていた。

 バ、バリカン?!

 まさか!!

 慌てて鏡で確認すると、お尻が綺麗に刈り上げられていた。

 ぎゃぁーっ!


「テプちゃんカッコいいわよ。ツーブロックウサギの完成ね」

「そんなの嫌だああああっ!」


 僕は心の底から叫んだ。

 買ったアイテムの中に育毛剤あるかなぁ……

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