第50話 役に立てない!

 立ち去ったしず子さんの事が気になったが、人助けをして聖の気を集める事はサボれない。

 僕、燐火りんかちゃん、増子さんの3人で人助けをする為に町中を散歩する事にした。

 プレナも一緒だが、増子さんが背負ったリュックサックの中で寝ている。

 顔だけ出しているので、狸のぬいぐるみをリュックに入れている様に見える。

 暑くないのかなぁ。

 あっ、危ない!

 子猫が車道の中央でうろうろしているのが見えた。

 次々に車が走ってくるから歩道に戻れなくなったのだろう。

 今の所車を避けているが、このままだとひかかれてしまうだろう。


燐火りんかちゃん、持ってて」


 増子さんがプレナが入ったリュックサックを燐火りんかちゃんに渡した。


「魔法少女セイント・ジャスティス参上!」


 増子さんの服が魔法少女の姿に変わった。

 そして変身すると同時に走り出し、道路にいた子猫を抱え上げた。

 キキーッ!

 道路に飛び出した増子さんに驚いたのだろう。

 走行中のトラックが急ブレーキをかけた。


「ほっ、てい、おりゃあ!」


 増子さんが気合でトラックを避け、次々に車を避けながら戻って来た。


「もう道路に飛び出すなよ」


 増子さんが子猫を歩道に降ろしてあげた。

 にゃぁ。

 一言鳴いた後、子猫が去っていった。

 無事に助けだせて良かった。

 僕達は何もしてないけどね……


「さて、次行こうか?」

「うん、次こそは火炎魔法で解決して見せるから!」


 なんだか不安だなぁ。

 燐火りんかちゃんは火炎魔法で解決するって言ってるけど、火炎魔法で解決出来る状況ってあるのかな。

 魔女も出ないし大きな災害もない。

 鉱魔が出てくれば……駄目だ!

 自分達が活躍する為に敵の登場を願うのは良くない事だ。

 でも3人の中で一番強力な魔法を使えるのに活躍出来ないのは悔しいな。

 今後どうするか考えないと。

 平和な街での生き方についてね。

 なんだか魔王を倒した後の勇者の様な気分だね。

 再び町中を歩いていると看板が強風で飛んできたのが見えた。

 このままでは通行中の人に当たってしまう!

 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を具現化し、詠唱を始めた。


 全てを貫きし灼熱の刃よ

 大地を穿うがちーー


「でやぁあああっ!」


 増子さんが走って飛んできた看板を体当たりで止めた。

 ……解決しちゃった。

 燐火りんかちゃんが詠唱を止めた。

 またしても活躍出来なかった。

 このままだと燐火りんかちゃんが敵の登場を望んでしまうかもしれない。

 燐火りんかちゃんが闇落ちしたらどうしよう……


「増子おねえちゃん大丈夫? 怪我しなかった?」

「心配ない。魔法少女だからな!」

「今日は十分じゃないか? 増子の活躍でタップリ聖の気が溜まったと思うぞ」


 リュックサックから顔を出しているプレナが言った。

 やっと目が覚めたようだ。


「起きたかプレナ。今日も頑張ったぞ」

「今日はわたしは活躍出来なかったなぁ」

「そんな時もあるさ。気にするな」

「うん、次は頑張るよ」


 燐火りんかちゃんが元気よく言った。

 活躍出来なかったのに落ち込んでいない?!

 得意な火炎魔法が使えなかったのに。


「さて、帰ろうか?」

「またね、増子おねえちゃん、プレナ」


 燐火りんかちゃんがプレナが入ったリュックサックを増子さんに渡した。


「今日はありがとうございました」


 僕は前足を振った。


「また明日だ!」

「おう、良く寝ろよ」


 増子さんとプレナが去っていったので、僕達も帰る事にした。

 お部屋に戻ると燐火りんかちゃんはゲームの準備を始めた。

 今日もゲームか……活躍出来なかった事を気にしていないのかなぁ。


「ねぇ、燐火りんかちゃん。活躍出来なかったのに気にならないの?」

「気にならないよ。活躍出来たほうが良いけど、増子おねえちゃんが解決してくれたから」

「そ、そうなんだ。もっと魔法を使いたいと言うと思った」

「手段と目的を履き違えちゃダメなんだよ」


 手段と目的を履き違えてはダメか。

 燐火りんかちゃんは分かっていたんだね。

 攻撃魔法を使う為に敵の登場を願うなんてありえない事だよね。

 僕の取り越し苦労だったよ。


「攻撃魔法を使う為に敵の登場を願うなんてありえないよね」

「そうだよテプちゃん。火炎魔法の威力を上げるのに敵なんて必要ないんだから」


 んっ、火炎魔法の威力を上げるのに敵なんていらないだって?

 どういう事?


燐火りんかちゃんの目的って何?」

「そんなの火炎魔法の威力を上げる事に決まってるでしょ?」

「えっ、何で? 何で火炎魔法の威力を上げる必要があるの? 敵もいないのに威力を上げる理由があるの?」

「理由なんてないよ。愚直ぐちょくに魔法の威力を上げる事を望む。必要があるのではない、切望があるのだ。ただひたすら高みを目指したいというね」

「そ、そうなんだ。それは凄いね……」


 またアイツか!

 どうせ大魔導士フラマ・グランデ様の有難いお言葉だって言うんでしょ!

 でも少しは感謝出来るかな。

 燐火りんかちゃんが魔法を乱用しないで済んでいるからね。

 過去には闇落ちした悪の魔法少女が生まれた事もあったらしいからね。

 大きな力は人を狂わせる。

 世界平和を願っていた優しい少女が、力に振り回されて悪人になるのは悲しいからね。

 でも燐火りんかちゃんは大丈夫だって信じるよ!

 僕は机に飛び乗り、燐火りんかちゃんがゲームで遊ぶのを眺める事にした。



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