第25話 優しいおじさん

 しず子さんと話を終えた後、僕はいつもの公園のベンチで休憩していた。

 色々重たい話を聞いてしまったなぁ……複雑な事情を抱えているとは思っていたけどね。

 これは僕では解決出来ない問題だ。

 今のしず子さんなら目の前で誰かが死んでも、魔法で生き返らせちゃいそうだと思う。

 でも、過去に死んだ人を生き返らせる事は出来ないだろう。

 魔法は奇跡のような力を持っているが、何でも解決出来る訳ではない。


「こんにちはテプ殿。今日はお疲れのようだね」


 あっ、じょうさんだ。

 じょうさんも複雑な事情を抱えているんだよなぁ。

 サキちゃん出てこないよね?

 僕は少し警戒してしまった。


「……こんにちはじょうさん。色々あって少し疲れてしまったのですよ」

「そうか。それは大変だね。よっと」


 じょうさんが隣に座った。


「何だ今日は貴様だけか? 魔導士はどうした?」


 今度は名前を知らない人に声をかけられた。

 正確に言えば、名前を知らないけど顔は知っている相手……魔王さんだ。

 魔導士って燐火りんかちゃんの事だよね。

 そこは魔法少女って言って欲しかったね。


燐火りんかちゃんなら学校ですけど。何か用ですか?」

「案ずるな。魔導士が不在の状況で戦うつもりはない」


 魔王さんが僕の隣に座った。

 じょうさんと魔王さん……そして間に挟まれて座る僕。

 これはどういう状況なのだろう……

 魔王さんがチラッとじょうさんを見た後に言った。


「我の事は呼ばなくても良いぞ。我が名は軽々しく口にして良いものではないからな」


 軽々しく口にするというより、どう頑張っても名前で呼べないよ!

 そもそも名前を知らないから!

 じょうさんがいるから気を使ったつもりなのだろうけど逆効果だよ。

 魔王さんと呼ぶ方が恥ずかしいから!


「テプ殿のお知り合いですかな?」

「テプの知り合いの魔王だ」

真央まおさんですか。男性では珍しい名前ですね。私は糸園いとぞのじょうです」

じょうか。なまりが強いようだが……気にしないでおこう」


 じょうさんが魔王さんを真央さんだと勘違いしている!

 しかも魔王さんは真央と間違って呼ばれているのに、じょうさんが訛っているだけだと思い込んでいる。

 思いっきり勘違いしているけど……訂正するのは面倒だな。

 よしっ、放置しよう。


「ところで、先ほどの続きになるけど、テプ殿の元気が無い理由はなにかな? おじさんで良ければ話を聞くよ」

「何だ、何か問題を抱えているのか? 我に打ち明けるがいい」


 じょうさんが相談に乗ってくれるようだ。

 ついでに魔王もね。

 しず子さん達のプライベートの話をそのまま言えないので、僕は知り合いとの接し方で悩んでいると相談する事にした。

 自身のミスで大切な人の家族を死なせてしまった知り合いを助けたい、二人の仲を元に戻す方法が思いつかなくて困っていると。


「そうか、それは大変だったな」


 魔王さんが僕の背中をなでてくれた。


「テプ殿は優しいな」


 じょうさんが僕の頭をなでてくれた。


「二人を助けたい想いは理解した。だがな、この問題は当事者の二人だけにしか解決出来ないものだ。だからと言って、放置しろと言っているのではないぞ。そういう事情であれば、当事者でもないくせに色々口出すやからが出てくるだろう。守ってやれ。そういう奴らから」

「そうですよ。何も出来なくても、今まで通り見守ってあげて欲しい。その二人が困った時に、いつでも手を差し伸べられるように。テプ殿なら出来ますよ。おじさんだってテプ殿に元気をもらってますからね」


 じょうさんと魔王さんの二人に励まされて泣きそうになった。


「ありがとうございます。じょうさん、魔王さん。解決方法が思い浮かばなくても見守る事にします。二人に幸せになって欲しいですから」

「その意気だ! お前なら出来る。この魔王が保証するさ!」

「ファイトですよテプ殿! テプ殿が根気よく通い続ければ、きっとうまくいきますよ! 営業活動と同じでね」


 嬉しいな。

 問題は解決していないけど、これからも頑張れそうな気がするよ!

 ん、なんだか周囲がさわがしいな。

 周囲を見渡すと、公園にいる人達から奇異なものを見るような視線を向けられている。

 何でだろう……あっ!

 僕は気づいてしまった。

 事情を知らない周囲の人達から見たら、ベンチに座ったおじさん二人がウサギをなでている不思議な光景にしか見えない事に……

 どどどどうしよう!

 幸せな気分から一転、気まずい気分になってしまった。


「そろそろ帰るとしよう」


 魔王が立ち上がった。

 良かった。これで気まずい状況から脱却できる。


「今回は戦わなかったが、次に会う時は敵同士。魔王とは人と相容れぬ存在だからな。さらばだ!」

「さようなら……魔王さん!」


 魔王が去っていった。

 人とは相容れぬと言っていたけど、僕は妖精だから関係ないんだけどね。

 どうせ次回も戦わないと思うよ!


「それでは、おじさんも帰るよ。営業の途中だからね」

「お疲れ様ですじょうさん」


 僕は前足を振った。

 じょうさんの背中に『またね』と白い文字が浮かび上がった。

  背中に文字が浮かび上がるなんて、お洒落なスーツを着ているなぁ……って事はないよね。

 あの文字はアニサキスのサキちゃんだ!

 いきなり出てきてビックリしたよ!!

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