第26話 人助けが出来ない

 今日は燐火りんかちゃんと一緒に見回りに出かける事にした。

 都合よく事件が舞い込んでくる事は無いからだ。

 増子さんとプレナも一緒だから賑やかである。

 早速、増子さんが商店街で重い荷物を運んでいた人を手伝っている。

 こうして善行を積んでいれば聖の気が集まってくる。

 問題だらけの紅鳶べにとび町も少しは平和になるだろうな……魔法少女である意味はあまりないけど。


「いい汗かいた。これで町は平和になったかな」

「なったぞ増子。帰ろうぜ~」

「よしっ、次だ!」


 妖精のプレナが空返事をしたが、増子さんは全く気付いていない。

 帰りたがっているプレナを気にせず、増子さんが次に手助けする人を探し始めた。

 話がみ合っていないのに、よくコンビで活動できるなぁ。

 僕は勇気マシマシで精力的に活動する増子さんと、なまけ者でだらしないプレナが仲良くしているのが不思議に思えた。

 どうせプレナは増子さんに仕事を丸投げしたいだけだろうけど、増子さんがプレナに苛つかない理由が分からない。

 今も怠け者のプレナは、リュックサックのように増子さんの背中に張り付いているだけである。

 僕なら自分の足で歩きなよって思うけどな。


「増子さんはプレナがサボっているのに怒らないのですか?」

「気にならん! プレナは頑張って魔力を供給してくれているからな」


 あ……そういう風にだまされているのね。

 本気で努力していれば、もっとまともな魔法が使えるハズなんだけどなぁ。


「人聞きが悪い事を言うなよ。俺っちは頑張っているんだからさ!」

「事実を言っただけだけど。プレナはもっと真面目に特訓した方が良いよ。妖精なのに魔力が殆どないじゃないか。今のままだと普通の狸と変わらないよ」

「人の事を気にしてる場合じゃないと思うけどな。俺っちより燐火りんかちゃんの方が何もしていないじゃないか」


 プレナに言われて気づいた。

 そういえば、燐火りんかちゃんは何もしていない……

 僕達も人助けをして、聖の気を集めないと!


燐火りんかちゃん、増子さんに負けないように頑張ろう」

「何言ってるのテプちゃん。増子さんは仲間だよ。何で増子さんを倒そうとするの?」

「そういう意味じゃないよ。増子さんに負けない様に活躍しようって意味だよ。僕達も人助けをしないとね」

「人助けはしないよ」

「何で? 僕達は困っている人を探しているんだよね?」

「違うよ。大魔導士の役割は最大火力で敵をほふる事。だから、わたしが探しているのは敵だよ」

「敵って誰?!」

「悪の心を持つものだよ。そして悪の心は誰もが秘めているものだ。そういう意味では人類全てが悪といえる」


 燐火りんかちゃんは人類全てを滅ぼすつもりなの?!

 どうせお気に入りのゲームのセリフなんでしょ!


「まぁ、いいかな。この前みたいに悪い魔女を倒せば人助けにはなるし」

「そうだね。人助けにはなるね。わたしの助けにはならないけど!」


 燐火りんかちゃんが怒っている。

 まだ魔女がアイテムをドロップしなかった事を怒っているのね……

 アイテムをドロップしなかったら、確かに燐火りんかちゃんの助けにはならないだろうけど。


「僕は敵が出ない方が良いと思う。癒しの魔法が使えるしず子さんがいないからね」

「そうだぜ。敵なんて出てきても何も良い事ないって。俺っちもケガはしたくないしな」

「大丈夫。テプちゃんが守ってくれるよ。この前もガオーって立ち上がっていたから」


 大丈夫じゃないよ!

 燐火りんかちゃんを守ろうと前足を上げて立ちあがった事はあったけどね。

 ケガしたら痛いと思うよ!


「ケガしたらどうするの? 僕だって殴られたら痛いよ」

「妖精って物理攻撃無効じゃないの?」

「僕は自然界からエネルギーを得ているから大丈夫って聞いてるよ」

燐火りんかちゃん! そんな設定はないよ! 増子さんも誰から聞いたの? 僕達はこの世界の自然界からエネルギーを得ていないよ」

「なんだ……ガッカリ」

「プレナは縁側えんがわで寝ころんでエネルギー回復って言ってるよ」


 燐火りんかちゃんは露骨にがっかりするし、増子さんはプレナのデマを信じ切っている。

 ただの昼寝で自然界からエネルギーを得られる事はないよ。

 魔法が使えるけど、妖精だって生き物なんだ。

 精霊みたいな扱いしないでよね!


「僕達妖精は動物と同じでケガしたりするからね。安全第一で行こう」

「嫌だ―。ケガしたら回復するから頑張ろうよテプちゃん」

「どうやって回復するの? 燐火りんかちゃんは回復魔法使えないでしょ? 増子さんとプレナも使えないよね?」


 増子さんとプレナは頷いている。

 当然だよね。

 僕達四人は回復系の魔法は使えないんだから。


「ほらっ。ケガしたらミニクサーで回復させるから!」


 燐火りんかちゃんが、いつの間にか小さい草を手にしていた。


エリクサー万能薬のノリで、ただの小さい草を取り出さないでよ!」


 僕はミニクサーを取り上げようとしたが、燐火りんかちゃんが上手に避けた。

 えいっ、とうっ、捕まえられない!

 これでは、猫じゃらしで遊ぶ猫と同じじゃないか!

 結局、敵は出てこなかったので、僕と燐火りんかちゃんは全く活躍出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る