第15話 僕の魔法

 今日は増子さんと一緒に魔法少女の役目を果たす為に町を探索する事にした。

 そう、困っている人を助けて聖の気を集めるのだ。

 最近起きている魔女の出現には関係なくても、役目を果たさないと別な問題が起きるのだから。

 しず子さんの予定が合わなかったのが残念だが、僕と燐火りんかちゃんと増子さんとプレナの四人で解決出来る事もあるはずだ。

 四人でノンビリ歩いていると、橋の上で大人が騒いでいるのが見えた。

 何だろう?


「行ってみようぜ! 事件の匂いがする!」


 増子さんが走り出した。


「僕達も追いかけよう!」


 僕と燐火りんかちゃんも増子さんに続いて走った。


「誰か助けて下さい! 子供が落ちそうなんです!!」


 大人の女性が周囲の人たちに助けを求めている。

 女性が指さした橋の下を見ると、子供がぶら下がっていた。

 今のところ落ちないように耐えているが、力尽きて落ちそうである。

 これは大変だ!

 誰かが助けないと!!

 だが、周囲にいた大人は誰も助けようとしなかった。

 二次災害を恐れているのだろう。

 今日の川は増水しており、水の流れが荒れているのだ。

 恐らく上流で雨が降っているのだろう。

 僕も助けようと思ったが、僕の力では子供を引き上げる事は出来ない。

 ここは魔法少女の出番だ……と思ったけど、燐火りんかちゃんと増子さんでは助けられるとは思えない……


「魔法少女セイント・ジャスティス参上! すぐに助けるから、もう少し頑張れ!!」


 増子さんが魔法少女に変身して子供を助けようとした。


「危険ですよ増子さん! 助けを待ちましょうよ」

「そうだよ増子。俺っちも助けを待った方が良いと思うぜ」


 僕とプレナの二人で増子さんを止めようとした。

 だが、増子さんは止まらない。


「増子ではないよ。僕は魔法少女セイント・ジャスティス! 正義の使者だ!」

「でも変身出来ても魔法を使えないじゃないか!」


 僕は言った後に後悔した。

 増子さんを心配して言った……だからと言って許される事ではない。

 燐火りんかちゃんやしず子さんは凄い魔法を使えるのに、増子さんは一人だけ魔法を使えない。

 そんな事、彼女自身が一番気にしている事なのに……


「魔法なら使えるよ!」


 増子さんが自信満々に言い切った。


「おいおい増子。見栄を張らなくてもいいっしょ。俺っちの魔力では、魔法なんてまともに使えないんだから」

「使えるよ勇気の魔法をね。僕だって川に落ちたらと思うと怖い。それでも僕はこの子を助ける。それが出来るのは、僕が魔法少女になれたからさ! 魔法少女の衣装は僕に勇気をくれる。魔法少女への憧れが勇気をマシマシにしてくれるんだよ。恐れを乗り越えて一歩踏み出す力……勇気! それが僕にとっての魔法だ!」


 勇気を与える魔法か……

 堂々とした増子さんの姿は、僕があこがれた魔法少女そのものだった。

 僕のパパとママの相棒の魔法少女さんも、増子さんみたいだったのかなぁ……あっ、落ちた!!

 子供が力尽きて落下したので、増子さんが子供を追いかけて川に飛び込んだ。

 増子さんは無事に子供の元に辿り着けたが、濁流だくりゅう翻弄ほんろうされている。

 どうしよう?

 そう言えば、燐火りんかちゃんはどうしている?


邪魔じゃまだな……」


 燐火りんかちゃんがつぶやいた。

 邪魔?

 何が邪魔なんだろう?

 燐火りんかちゃんが突然橋の上に立った。


燐火りんかちゃん! 危ないよ! 何を考えているの? 何か助ける方法があるの?」


 燐火りんかちゃんが振り向いて言った。


「何も考えていないよ。だけどね、愚者ぐしゃには愚者ぐしゃのやり方があるのさ」


 燐火りんかちゃんが愚者ぐしゃの杖を取り出した。

 この一大事に出てくるな!

 大魔導士フラマ・グランデの迷言!!

 僕が心の叫びをあげている間に燐火りんかちゃんが詠唱を始めた。

 この詠唱は!!


 開闢かいびゃくより受け継ぎし原始の力

 連綿と続く魔道史において 比類なき永遠の炎よ

 我ここに示す

 真なる炎を前にして 滅せぬものは存在せぬと

 万物を構成せし五行の力をもって顕現けんげんせよ

 燃え上がる恋のごとき灼熱の花


「咲き誇れ! 紅 蓮 躑 躅ロードデンドロン


 燐火りんかちゃんの最強魔法が川の上流側に炸裂さくれつした。

 一瞬で視界の全てが奪われた。

 川の水が蒸発じょうはつしたのだーー


 一陣の風が水蒸気すいじょうきを吹き飛ばした後、岸に上がった増子さんと子供の姿が見えた。


「川の水が消えたから助かったぜ! ありがとう燐火りんかちゃん!」


 増子さんが手を振っている。


「我に逆らうおろか者をめっしただけだ! 例え水であっても滅びをまのがれる事は出来ぬのだ!」


 燐火りんかちゃんが胸を張って言った。

 やり方は滅茶苦茶だけど、燐火りんかちゃんのお陰で助かった。

 増子さんも立派だった。

 でも、増子さんも燐火りんかちゃんの様な凄い魔法が使えたらと思ってしまう。

 今度は増子さんの魔法の強化をしよう。

 僕の想像通りなら、纏蝶てんちょうさんが魔法強化のカギを握っていると思う。

 僕の変身ブローチを改造して燐火りんかちゃんの願いを叶えたのは纏蝶てんちょうさんだったからだ。

 同じうように特別な魔法の力をもつしず子さんも、纏蝶てんちょうさんの幼馴染おさななじみだ。

 増子さんだけが纏蝶てんちょうさんと関りが無い。

 今度の土曜日は増子さんとしず子さんを誘って百怨ひゃくえんショップに行こう!

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