第4話 癒しの魔法少女?

 何とか百怨ひゃくえんショップから生還した僕は、燐火りんかちゃんと帰宅する事になった。

 お尻が痛いので歩き方がぎこちなくなってしまう。


「あらあらウサギさん、大丈夫ですかぁ~。動きが変ですけど、お怪我をしてますか?」


 背後から女性に声を掛けられた。

 振り返ると肩に狐を乗せた優しそうな女性がいた。

 女性には心当たりはなかったが、肩の上の狐が本物の狐ではない事は知っている。

 僕と同じ魔法王国アニマ・レグヌムの妖精オハコだ。


「どうしたアルタロネクタネブ・アバ・センタンクトロルテプ6世? もう魔法少女選んだか?」

「選んだよオハコ。この子が僕が選んだ魔法少女の燐火りんかちゃんだよ」

「ねえねえテプちゃん。わたしは魔法少女じゃなくて大魔導士だから」


 燐火りんかちゃんの言葉を聞いてオハコが爆笑した。


「テプちゃんだってよ! 誇り高き王族の名を捨てたのか? これからは俺様もテプちゃんと呼ばせてもらうぜ!」

「別に構わないよ。早く帰ろうよ燐火りんかちゃん」

「ちょっと待ってくださいな~。お怪我をなさっているなら、帰る前に治療しませんか?」


 帰ろうとしたら、オハコが連れている女性に呼び止められた。

 オハコはともかく、この女性は信用出来そうだから本当の事を言おう。


「実は百怨ひゃくえんショップで毛をむしられたお尻が痛くて……治せますか?」

百怨ひゃくえんショップ? あそこ、まだ滅んでいなかったのですね~。災難でしたね。私が魔法で癒してあげますよ~」


 魔法で癒す?!

 オハコと一緒にいる時点で何となく察していたが、彼女がオハコが選んだ魔法少女って事?

 どう見ても大人の女性なんだけどな……


「驚いて何も言えなくなったか? しず子は俺様が選んだ最強の魔法少女だ!」

「自己紹介が遅れましたけど、私は癒羅ゆらしず子です。よろしくね、テプちゃん」


 しず子さんが手を差し出したので、前足を出して握手をした。

 オハコは最強の魔法少女って言っているけど、本当だろうか?

 魔法少女は心の純粋さで力が決まる。

 普通は大人になる程、心の純粋さを失い、魔法少女としての力は失われるものだ。

 逆に幼すぎても自我が発達していなくて力を発揮出来ない。

 だから、普通は燐火りんかちゃんのような10才前後の女子を選ぶのだ。

 本当に最強なのかな?

 見栄っ張りのオハコの言っている事は、昔から信用出来ない。


「オハコは最強って言ってましたけど、しず子さんは何の魔法を使えるのですか?」

「私の魔法ですかぁ。私が使える魔法は癒しの水だけですよ~」


 使える魔法が『癒しの水』だけ?!

 たぶん回復系の魔法だとは思うけど、それだけで最強の魔法少女?

 やっぱりオハコのハッタリだったね。

 でも、回復魔法の使い手なら燐火りんかちゃんのサポート役として適任だと思う。

 それに燐火りんかちゃんがワガママな事を言っても、優しく対応してくれるだろう。

 実際に魔法の実力を試してみたいな。

 魔法王国の妖精としての判断であり、決してお尻が痛いからではない。


「しず子さんは癒しの魔法の使い手なんですね。僕のお尻の痛みを癒してもらえますか?」

「良いですよ~。カーネイジパワー! コンバージョン!!」


 しず子さんが叫んだ。

 なんか渋い声で物騒な事を叫んだ気がしたけど気のせいかな?

 僕が戸惑っている間に、しず子さんを淡い水色の光が包み、可愛らしい魔法少女の姿に変身していた。

 変身した……人通りが多い町中で堂々と……


「し、しず子さん。人前で変身して恥ずかしくないのですか?」

「恥ずかしくないですよ~。魔法少女は立派な仕事ですから! 魔法少女の衣装には誇りを持ってるのですよ。それに、この町には私を馬鹿にする人は存在しないですから~」

「……」


 僕は感動で言葉に詰まった。

 しず子さんは魔法少女になった事を誇りに思ってくれているのだ。

 魔法王国の妖精として、こんなにも嬉しい事はない。

 しず子さんは間違いなく魔法少女だ。

 オハコは気に入らないけど、しず子さんを魔法少女に選んだ事は賞賛されるべき事だ。

 それに町のみんなを信じている所も素敵だと思う。


「感動しました! しず子さんの魔法を見せて頂けますか?」

「いいですよ~。癒しの水~」


 しず子さんが魔法のステッキを僕に向けた。

 どぼっ、べじょ、びちゃびちゃ。

 僕は魔法のステッキから噴き出した水を大量に浴びた。

 えっ、ナニコレ?!

 お尻の痛みは消えたけど、びしょれだよ!

 癒しの水って……本当に水が出るとは思わなかったよ!

 普通は水っぽい演出だけで、実際にれる事はないでしょ?

 魔法なんだからさ!!


「びしょ濡れにしちゃって、ごめんなさいね。私の家で乾かしましょうね~」

「お気持ちは嬉しいですけど、燐火りんかちゃんと一緒に帰る予定なのです」

燐火りんかちゃんって一緒にいた女の子か? アイツならとっくに立ち去ってるぜ」


 オハコが前足で僕の背後を差した。

 振り返ると、本当に燐火りんかちゃんはいなかった。

 燐火りんかちゃーん!!

 僕がしず子さんと話している間暇だったのは分かるけどね……置いていかないでよ!

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