第34話 分かれ × 別れ
「それでは、ホムラさん。今日は守ってもらってありがとうございます」
ご機嫌な様子で萌黄さん……改めて、優菜は帰っていった。
下の名前を呼んだだけで……どさくさまぎれで「さん」付けもやめさせられてしまったが、彼女はとても喜んでくれた。
正直、ここまで過剰反応されると嬉しいを通り越して戸惑ってしまう。
いい加減、彼女が俺に対してどんな感情を抱いているのか向き合う時が来たのかもしれない。
「では、幽霊君。ちゃんと明日も部活に来たまえよ。今日の出来事についてディスカッションしようじゃないか」
友人である雨宮キサラも上機嫌のホクホク顔。
初めて現実世界がオカルトに侵略される場面を目にして、よほど嬉しかったのだろう。
「議論するようなことはないと思うけど……わかったよ」
「それではね。バンシーちゃん、帰ろうか」
「はい。それでは、また明日……おやすみなさい」
「……おやすみ」
キサラと優菜が連れたってリムジンに乗り込んでいく。
ちなみに、この車はキサラの家の送迎者。
わざわざ、こんな時間まで待っていてくれたらしい。
「それにしても……幽霊君は本当に乗らなくても良いのかい? バンシーちゃんの家とさほど距離も空いていないし、送っていくよ?」
「ああ、大丈夫だ。帰る前に後始末をしなくちゃいけないからね」
「ほう……後始末」
「言っておくが……お前が楽しむようなことはもう起こらないぞ。女の子なんだから、さっさと帰れ」
「……仕方がないね。あまり遅くなると父に怒られる」
恐るべきことに……キサラは良い家のお嬢様だったりする。
リムジンの送迎者で学校に通学しているくらいには裕福なのだ。
家は隣の市だったが、オカルト的な伝承やら事件やらが多いという理由で八雲市の学校に通っていた。
「そういえば……父が幽霊君に会いたがっていたよ。『いつ、ホムラ君は我が家に挨拶に来るのかね?』とかなんとか」
「……よくわからないけど、超行きたくないよ」
「残念だ……それではね」
「さようなら」
二人がリムジンの窓から手を振ってくる。
俺も軽く手を振り返して、曲がり角で車が見えなくなってから一息を吐く。
「さて……八雷神、気がついているよな?」
『誰に聞いておる。もちろんじゃ』
問いかけると、すぐに胸の奥から返事が返ってきた。
「校内から堕神の気配……かなり弱いけど、これは禍津霊のものだよな?」
異界で焼き尽くしたはずなのに、校内の何カ所かに堕神の気配を感じる。
いったい、どうして奴らの気配があるのだろう。
『おそらく、あのダイダラ法師の残骸じゃろうな。燃やしそこねの灰が学校内に飛び散っているらしい』
「あれだけ焼いたのにまだ残っているのか……プラナリアみたいな生命力だな」
『あくまでも残り香みたいなものじゃよ。大した力もないし、放っておいても自然消滅してしまうようなものじゃ』
「それじゃあ、このままにしておいても問題ないっていうのかよ」
『気になるのなら、改めて焼いておけば良い。まあ、杞憂だとは思うがの』
八雷神がお気楽な口調で言う。
さんざん堕神を殺せ、狩れと言ってばかりの八雷神が放っておいても良いというのなら、本当に自然と消えてしまうようなものなのだろう。
例えるなら、それは焚き火から出る煙のようなもの。
うっかり吸い込んでしまったらムセてしまうが、そうでなければすぐに風に吹かれて散り散りになってしまう……そのレベルのものなのだろう。
「……念のためだ。気配が大きめの奴だけは消しておくか」
ほったらかしにしておいて、後から厄介事になったら面倒だ。
そんな運の悪い事はないと信じたいが……自分の身の回りで起こっている出来事を思うと、楽観視はできない。
『気になるのであれば、そうすれば良い。まあ、大丈夫じゃろうが』
気配を追って校内を散策する俺に、八雷神がのんびりと言う。
『そうじゃな……もしもここから禍津霊が復活できるとすれば、よほど条件の良い人間の身体に憑依して、その人間がとんでもなく大きな負の感情を抱かねば無理じゃろう』
裏を返せば、その条件さえ整えば復活するということだろうか?
『まあ、そうだな。それこそ退神師の血族クラスの器を手に入れねば不可能じゃろうが』
「そうか……じゃあ、とりあえずは安心か」
言いながら、校庭の茂みに隠れていた禍津霊の残骸に刀を突き刺して消し去った。
ネズミのように隠れている彼らは八雷神が言うとおり、酷く微弱で吹けば消えてしまいそうなほど
俺は一時間ほどかけて校内の掃除を終えて、ようやく帰路に着くのであった。
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