第31話 美少女 × 触手
「フッ! ハッ! タアッ!」
「~~~~~~~~~~!」
廊下で大量の禍津霊に遭遇した俺達は、一旦、進路指導室に逃げ込んだ。
外の廊下で前後から挟み撃ちされた状況では、まともに戦うことなんてできそうもない。
進路指導室であれば出入口は一カ所。部屋に入ってくる敵さえ迎え撃てばいい。
「とはいえ……この数はさすがに参るね!」
『火雷』によって複数体の禍津霊をまとめて焼き斬りながら、俺は焦りから手の中に汗を握り込む。
軟体動物の形状を取った禍津霊は次から次へと湧いてくる。
すでに百体以上を倒しているはずなのだが、進路指導室に入り込んでくる勢いは衰えることがなかった。
「これって何匹いるんだよ! お姫様はこんな山ほど取り逃がしたのか!?」
『いや、おそらくは元々は一体の禍津霊が分裂したのじゃろうな。此奴らはそもそもが黄泉に堕ちた穢れた魂の集合体。元々が無数の魂で構成されていたのじゃから、分裂をするのも自由じゃろう』
「落ち着いてる場合じゃないだろ……『火雷』!」
「~~~~~~~~~~!」
さらに十体ほどの禍津霊を焼却する。
そうやって生まれた空白を埋めるようにして、廊下から新しい禍津霊が湧いて出る。
「おお……絶体絶命だな。このままだと幽霊君が負けてしまうんじゃないか?」
「あ、雨宮さん。そんな悠長にしている場合じゃないのでは……?」
後ろではキサラと萌黄さんが身体を寄せ合いながら、俺に守られている。
「手伝いをしたいところだが……割って入れば、私達には足手まといになるだろうね。ならば見学をするしかないだろう」
「それはそうですけど……」
「それから、私のことはキサラで良いよ。私も君を『バンシーちゃん』と呼ばせてもらおう」
「そのニックネームの意味はわかりませんけど……わかりました。よろしくお願いします。キサラちゃん」
「おお、ちゃん呼びは新鮮だな。しかし、悪くはない」
などと会話をしながら、緊迫な空気には似合わぬ友情をはぐくんでいる。
「友達になったばかりの二人を守るためにも、絶対に負けるわけにはいかない……!」
『頑張れ、頑張れ。禍津霊とて無限ではない。いずれ終わりは来る。じゃから頑張れ』
「頑張る!」
八雷神のいい加減な応援にヤケクソ気味で返して、俺はとにかく刀を振った。
そうやって防戦一方に追いやられながらも奮迅する俺であったが、戦いが始まって荷十分ほどで決定的な変化が訪れる。
「キャアッ!?」
「わっ!」
「萌黄さん!? キサラ!?」
背後から聞こえてきた悲鳴に振り返ると、黒い触手に捕らえられた二人の姿があった。
「まさか……窓からか!」
外壁を伝ってきたのだろう。
窓から複数体の軟体動物が侵入しており、触手で二人をからめとる。
類まれな美少女である萌黄さん、ロリ巨乳体型のキサラが触手に捕まり、身体をあちこち舐められている姿はいけないマンガかゲームのようである。
しかし、そんな光景を楽しんでいる場合ではもちろんない。俺は眼前の敵を斬りながら、どうにか二人を助けようとする。
「クソッ……どうする、どうすれば……!」
刀は届かない。
雷撃は二人の身体まで傷つけてしまうかもしれない。
だからといって、もちろん放っておくという選択肢はない。
いったい、どうすれば良いというのだろう。
「ほほう、これが悪霊の感触か。なかなかに興味深いな」
「キサラちゃん、言ってる場合じゃありませんよ!」
「わかっている、わかっている……てい!」
「~~~~~~~~~~!」
だが……俺が葛藤している中でキサラが自力で触手を振りほどいた。
厳密には、手に持っていた何かを触手にかけて撃退したのだ。
「は……何で?」
「ほらほら、幽霊君。前に集中したまえ。こちらはこちらで対処しておくから」
「対処って……いや、お前は何をやってるんだよ!」
「何って……もちろん、実験だとも」
「~~~~~~~~~~!」
キサラがポケットから取り出した粉を振りかけると、軟体動物の形状をした禍津霊が悶絶する。
「本当はもっと早く試したかったのだが……こう見えて、空気を読んで我慢したのだよ。幽霊君が必死になって戦っているのに、私が前に出て邪魔するわけにはいかないとね。だけど、こうやって自分が襲われてしまったのならば好きにしても構わないだろう?」
キサラはバッグから何やら取り出して禍津霊にぶつけ始める。
それは液体だったり個体だったり粉だったり……様々であるが、効果があってダメージを与えられているものもあれば、まるで効いていないものもあった。
「フム、どうやら塩は効果抜群のようだな。教会の聖水はイマイチ。御札はものによるといったところか。大きな神社で購入したものより地元の小さな神社の方が効果があったりするのは、興味深いな」
「あ、あの……キサラちゃん?」
「ああ、バンシー君。君はこれを持っていたまえ」
「何ですか、これ。五芒星と……中央に描かれているのは『目』ですか?」
「ウム、その通りだ。来たようだぞ」
「キャアッ!」
新しく窓から入ってきた禍津霊が萌黄さんに触手を伸ばしてくる。
しかし、触手が萌黄さんの肩に触れた途端に光の盾のようなものに弾かれた。
「え……これは……?」
「ほほう、エルダーサインは効果があるようだね。日本の魔物だからといって、海外の呪いが効かないわけでもないようだ」
キサラが満足そうに頷いて、すぐに別のアイテムを試しだす。
「私達のことは守らなくていいから、幽霊君は敵を倒すことに集中したまえ。こっちはこっちで好きにしておくから」
「キサラちゃん、これはどうしたら良いの?」
「普通に殴ればいいのだよ。そう、上手上手」
「こう? これで良いの?」
萌黄さんが銀の十字架で禍津霊を叩いていた。
先ほどまで俺に守られていたはずの女子二人であったが……普通に自分の身を自分で守っている。
『何というか……
(いや……別に良いんだけどさ。自衛できるのなら)
別に良い。
別に良いのだが……先ほどまで自分がナイトを気取っていたのが恥ずかしくなってくる。
何が彼女達を守るだ。そのためになら力が湧いてくるだ。
自分の自惚れが恥ずかしくて仕方がない。
「作戦変更……ガンガン行ってやる!」
これまでは後ろの二人を気にしながらだったが、今からは敵を減らすことに全力を尽くす。
俺は眼前の敵を全て斬り伏せると、そのまま廊下に躍り出た。
「悪いけど……わりと気が立っているから手加減をするつもりはない」
廊下には山のように禍津霊がいる。
女子二人とも距離を取っているので、巻き込む心配もない。
数えるのも馬鹿馬鹿しくなるような軟体動物の大群めがけて、俺は最大威力の攻撃をブチ込む。
「『
それはかつて、狒々神を跡形もなく消滅させた一撃。
地形すら作り変えるような神殺しの放電。
「「「「「~~~~~~~~~~!」」」」」
圧倒的な熱量の雷電が廊下の端から端まで走り抜け、そこにいた禍津霊を一匹残らず消滅させたのである。
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