第25話 友達 × オカルト


 雨宮キサラ。

 その人物は校内でもきっての変わり者として知られていた。

 俺にとっては中学からの友人、武夫と共に親しく交流のある相手である。


「やあ、幽霊君。久しぶりだね」


 オカルト研究部の部室に行くと、黒いローブを身に付けた小柄な少女が出迎えてくれた。

 まるで黒魔術の最中のような姿で現れたこの人物こそが、オカルト研究部の部長である雨宮キサラである。


「キサラ、君はまたそんな服を着て……よく先生に怒られないもんだね」


「部活中にユニフォームを着て、何を責められる理由があるのかね? 野球部もバスケ部も専用の服を着ているじゃないか」


 キサラが愉快そうに肩を揺らして笑った。

 顔立ちこそそれなりに整っており、美少女といっても過言ではないキサラであったが、今の彼女を見て女性的な魅力を感じる男はいないだろう。

 ボサボサの髪を長く伸ばし、目の下には色濃いクマを作り、小柄ながらもそこそこ発育の良い体躯はダボダボの黒魔術ローブで覆っている。


「『入道君』に連絡したんだけど、彼は来れないようだね。薄情な友人だよ」


「放課後なんだから普通に部活だろう? 真面目に全国を目指してるんだから邪魔をするなよ」


『入道君』というのは武夫のことだった。

 オカルトマニアであるキサラは、親しい人間を妖怪や魔物の名前で呼んでいる。

 武夫は身体が大きいから『入道』。俺は影が薄いから『幽霊』らしい。


「それで? わざわざ呼び出したりして、何の用事だよ」


「親愛なる友人である君に聞いてもらいたいことがあってね? 現在、校内で起こっている超常現象についてさ」


「超常現象……幽霊でも出たのか?」


「それに近いかもしれないね。人間に憑りつく悪い幽霊だよ」


 キサラがケラケラと笑い、部室の奥にあるPCへと向かっていった。


「情報弱者の君は知らないだろうが……この学園では、先月から校内での暴行・傷害事件が多発している。生徒からの行方不明者も出ていて、まるで世紀末のようだね」


 キサラがPCを操作すると、学園の見取り図と複数人の生徒の名前が記載された名簿が表示された。


「今日も午前中に体育館倉庫で、痴情のもつれによる傷害事件が起こったそうだよ。先週などイジメられていた少年が逆上して、クラスの男子四名を病院送りにしたそうだよ。愉快なことにね」


「…………」


 心当たりがあり過ぎる話だった。

 それはどちらも禍津霊によって引き起こされた事件であり、俺が加害者をしばいて終わった事件である。

 

「被害者の中には、加害者である生徒に黒い霧のようなものがまとわりついているのを見た者がいるようだよ? 全員が見たわけではなく、見える者と見えない者がいるのが逆にそれらしいじゃないか。私はこれが人ならざる存在によってもたらされた超常現象だと考えている。餅は餅屋……我らオカルト研究部の出番というわけさ」


「…………」


 PCに表示されたデータには事件の加害者・被害者の言い分や関係性、事件が起こった経緯、病院に運ばれた彼らの現状に対する情報が事細かに書かれている。

 いったい、どうやってこれほどのデータを集めたのかと疑わしいことだが……この女、雨宮キサラであれば不可能ではないだろう。


 雨宮キサラはとんでもないレベルの変人である。

 しかし、それでも彼女は天才だ。

 中学の頃から成績は学年一位を譲ったことはないし、全国模試でもトップ争いをしているらしい。

 校内でこんな怪しい格好をしたり、授業にも出ずに謎の研究にふけっていたりして許されているのも、ただただ彼女が成績優秀だからである。


『ほう……よくぞまあ、ここまで調べたものじゃのう。確かに、これほどの才覚を持った者であれば協力者として申し分なさそうじゃの』


(まあ、ね。コイツに助けを求めなければいけないのはすごく悔しいというか、おっかない話ではあるけどね)


 協力者が欲しいとは思っていたが、この変わり者を巻き込むことには抵抗がある。

 危険な目に遭わせてしまうからという心配ではなく、キサラを秘密の共有者にすることに空々しい恐ろしさを感じるのだ。


(とはいえ……やっぱり相談役は欲しいな。すでに禍津霊の事件を追っているようだし、やっぱり手伝ってもらった方が良いな)


「私はこの事件を『黒霧事件』と名付けて、真相を追求したいと思っている。そこで幽霊君にも手伝ってもらいたいのだが如何いかがかね?」


「如何もなにも、とっくに巻き込まれているよ……」


「ふうん? どういう意味かな?」


「…………」


 俺は一度、大きく深呼吸をしてから意を決して口を開く。


「あのな先々週の土曜日の話なんだけど……」


 俺が話しはじめると、すぐにキサラが両眼を輝かせた。

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