第23話 悪霊 × 増殖
転校生である萌黄優菜さんを迎えて、俺の新しい高校生活の幕が開いた。
意外なことであるが、裏路地での接触から詩織が俺に関わってくることはなかった。
クラスメイトから聞いた話では、そもそも詩織は学校に来ていないらしい。
体調不良を理由に学校を休んでおり、顔を合わせることすらなかった。
「えっと……詩織が学校を休んでいるみたいだけど、何か心当たりある?」
詩織のクラスの女子からはそんなことを聞かれたし、中には『お前が原因だ』とばかりに問い詰めてきた者もいる。
そういった友達思いの女子には、詩織の浮気によって別れたことを懇切丁寧に説明してあげた。
食い下がる女子もいたのだが、新しく買い替えたスマホに転送してもらった浮気の証拠写真を見せるとすごすごと引き下がっていった。
詩織と顔を合わせることさえなければ、俺の高校生活に不自由はない。
順風満帆に青春を謳歌できているといえるはず。
「いえるはず……だったのにね」
「邪魔をするなあああああああああああっ!」
「はあ……面倒臭いなあ」
襲いかかってくる女子生徒の首根っこを掴んで、電流を流す。
女子生徒はバリバリと身体を痙攣させて、身体から黒い靄を放出させて気絶した。
「多すぎるだろ。何で繁殖してんの、コイツら?」
刀を取り出して黒い靄を切り裂くと、稲光をまとった斬撃によって霧散する。
これで事件解決。また堕神を倒すことに成功した。
「まあ、また禍津霊だけどな。どうして、ウチの学校はこいつらばっかりなんだ?」
俺がいるのは体育館倉庫。
すぐ目の前のマットには何故か半裸になっている男女が気を失っている。
休み時間に堕神の気配を感じ取った俺は体育館倉庫に急行したのだが、そこで半裸の女子がカッターナイフで男子生徒を襲っている場面に遭遇した。
女子生徒は禍津霊に憑りつかれているようで、どんな経緯かは知らないが男子生徒を刺そうとしていた。
「校舎裏での遭遇を含めて、これで四回目。たった一週間でだぞ? どう考えてもおかしいだろ」
校舎裏での戦いを皮切りに、俺は一週間で四度も禍津霊と戦っている。
それも四回ともこの学校の生徒が憑りつかれていた。これで何もないという方がおかしいだろう。
『フム……確かに妙じゃのう』
俺の胸の内で八雷神も首をひねる。
『禍津霊は複数体いる堕神ではあるが、だからといって校内にこれほど巣食っているのは不自然じゃの。どこぞに巣穴があるのかもしれぬの』
(巣穴って……ネズミじゃないんだから)
『あり得ぬことではない。先日、小娘の作った異界に取り込まれたことは覚えておるな?』
(そりゃあ、まあな。路地裏のことだろ?)
路地裏で詩織と戦った際、彼女が作った結界のようなものに取り込まれた。
『それと同じようなものを禍津霊の大元が生み出し、隠れておるのかもしれぬな。異界に潜んでいては気配も辿れぬ』
(大元って……女王でもいるのか? 本当に巣穴があるのかよ)
『なれば、元を絶たねば意味がないのう。絶え間なく奴らが湧いてくるじゃろう』
「…………」
面倒臭い状況である。
単純に現れる堕神を倒すというだけではなく、巣穴を探し出して叩くというミッションが加わってしまった。
(とはいえ……放置するわけにもいかないよな。授業中に抜け出すのにも限界があるし)
今回は休み時間だからまだ良いが、一度など授業中に現れたため体調不良を偽って授業を抜け出すことになった。
あんなことが続いては色々と怪しまれてしまう。萌黄さんにも心配をかけてしまったことだし、あまり校内で戦いたくはない。
「おっと……誰か来たな。退散しよう」
休み時間が終わりに近づいて、体育館に人が集まってきた。いずれ倒れている二人も見つかることだろう。
俺はそっと抜け出して、この場を立ち去るのであった。
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