第17話 歓迎会 × 嫉妬


 午後の授業が終わって、放課後になる。

 いつもであれば帰宅部としてさっさと帰るか、さもなければオカルト研に顔を出して友人を冷やかすところだが……その日はいつもと違った。

 転校生である萌黄さんの歓迎会が開かれることになり、みんなでカラオケに行くことになったのだ。

 歓迎会に参加したのはクラスの男女十五人ほど。大部屋のカラオケルームでも多すぎる人数である。


「それでは、新しい友達の編入を祝って……乾杯!」


「「「「「乾杯!」」」」」


 クラスメイトが一斉にグラスをかち合わせ、ドリンクを飲み干す。

 カラオケの機械に順番に曲を入れていき、思い思いの曲を歌っている。

 流行の歌を熱唱するものもいれば、一昔前のフォークソングを歌い出す者もいる。アニソンを熱烈な歌声で奏でてクラスメイトの度肝を抜いてくる者までいた。


「ねえねえ、萌黄さんはどんな歌が好きなの?」


「前の学校の友達ともカラオケ行ってたの?」


「部活動は決めたの? 私は手芸部なんだけど、優菜ちゃんもどう?」


「東京では彼氏とかいた? やっぱり、都会だから進んでたのかなあ?」


 そうやってカラオケをしている中で、女子を中心としたグループが萌黄さんを囲んでいて、様々な質問を浴びせかけている。

 萌黄さんはそれに丁寧に答えながらも、プライベート過ぎる質問は笑って受け流していた。


「部活動は……そうですね」


「ん?」


 萌黄さんがチラリとこちらに視線を向けてくる。

 妙に意味深な様子で悪戯っぽく微笑む。


「オカルト研究部に入りたいと思っています」


「ブフッ!」


 思わず、飲んでいたコーラを吐きそうになった。

 確か、昼休みに入っている部活動を聞かれたが……オカルト研究部はお勧めできないと言ったはずなのに。


「オカルト研って……そんな部活あったっけ?」


「ほら、あの変わり者の……」


「ああ……あの子が入ってるやつね。それと鬼島君も」


「う……」


 クラスの女子がそろってこちらを見てくる。まるで責めるような眼差しで。


「鬼島君、いくら人数が足りないからって、何も知らない転校生を自分の部活に引っ張り込むのは良くないと思うんだけど……」


「誘ってないよ! 誰があんな変人の巣窟に人を道連れにできるんだよ!?」


「うっわ……自分で言っちゃったよ。変人の巣窟って……」


 女子達がドン引きする。

 オカルト研究部にいるのは俺のように名前を貸しているだけの幽霊部員を除けば、変人奇人変態ばかりである。

 そんなところに清楚っぽい転校生を誘うことなどできるものか。


「そうなんですか? せっかく、鬼島君と一緒に部活動ができると思ったのに……」


 萌黄さんが眉尻を下げてガッカリとしたような表情をする。

 そんな転校生の様子にクラスの女子達も不思議そうな顔になった。


「……萌黄さんって、やけに鬼島君に懐いてるよね」


「ひょっとしたら、転校前からの知り合いだったりするのかな?」


 意外と鋭い切り口である。

 転校の前日、俺は狒々神に襲われていた彼女を救い出していた。

 その記憶は消されているようだが……ある意味では、転校前からの知り合いと言えなくもなかった。


「いいえ、知り合いではありませんよ」


 しかし、萌黄さんは穏やかな笑みで首を振った。


「知り合いではありませんが、始めて見た時から不思議と気になっています。ひょっとしたら、これが一目惚れというやつかもしれませんね」


「ブフオッ!」


 ボディブローのような言葉をぶつけられ、俺はその場で悶絶する。

 一目惚れ……萌黄さんのような美少女が、見た目完全なモブキャラの俺に対して?


「うわあ! やっぱり萌黄さんってすごい!」


「ハッキリ言っちゃうんだ……さすが東京者」


「萌黄優菜さん……恐ろしい子!」


 爆弾発言を受けて、女子達がキャアキャアと盛り上がる。

 一方で、輪に入ることができない男子達は怨嗟の眼差しを俺に向けてきた。

 これはヤバいかとカラオケルームから逃げようとすると、ガッチリと肩を組んできて逃走を阻止される。


「よーし、次は失恋ソング縛りにするぞー」


「男子全員、浮気されて捨てられた哀れな男を囲んで歌うんだー!」


「ちょ……やめてくれない!? 本気で嫌なんだけど!?」


 まるで「かごめかごめ」でもしているかのように俺を中心において、男子達が失恋ソングを歌いまくる。

 彼女を寝取られた哀れな男に対して、地味な嫌がらせをして傷口に塩を塗ってくるのであった。

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