第15話 悪霊 × 因縁
堕神の気配を追っていき、たどり着いたのは校舎裏である。
都合が良く人気のない場所。それゆえに、イジメやカツアゲなどの良からぬ行為にも使われそうな場所だった。
「ヒャハハハハハハハハハッ! 死ね、死んじまえよお!」
「…………!」
そこには常識から外れた光景が広がっていた。
校舎裏には複数の男子生徒が倒れており、彼らに囲まれて眼鏡をかけた痩せ身の少年が哄笑を上げている。
倒れている男子生徒はいずれも怪我をしており、苦痛のうめきを上げていた。
「ヒャハハハハハハハハハッ! アハハハハハハハハハハハハハハッ!」
そして、狂ったように目を剥いて笑っている少年の身体を黒いモヤが覆っていた。
見ているだけで怖気がするような不気味なモヤは、少年の口から出ている様子だった。
「これは……」
『ほお? アレは
「禍津霊……奇遇ってどういう意味だ?」
『見覚えがないとは言わせぬぞ。アレはかつてお主に憑りついていた堕神と同じものじゃよ。人間の心の隙間に巣食い、その者の肉体を支配する影のような存在じゃ』
「俺が殺された原因になった堕神……まさか、あの時の……!」
俺は詩織に刺されたときのことを思い出す。
そういえば、あんな黒いモヤに身体が包まれていたような気がする。
「あの堕神……生きていたのか。てっきり、俺もろとも詩織に刺されて消えたんだと思ってたけど……」
『奴は黄泉に落ちて穢れた人間の魂の集合体じゃ。一匹ではなく、複数体いる』
「元々は人間ってことか……いや、何でもいい。どうせ倒すから」
別に復讐するつもりはないが、許せるかと聞かれたらもちろんノーである。
俺は地面を蹴って前に飛び出した。
あの少年は操られているだけ……大怪我しない程度に加減をしながら、ゲラゲラと笑っている少年の腹部を殴りつけた。
「フンッ!」
「グベッ!?」
少年の身体が『く』の字に折れ曲がるが、すぐにギョロリと俺を睨みつけてきた。
「何だあっ!? お前もコイツらの仲間かあ!?」
「わっ!」
少年がデタラメに手を振り回して攻撃してきた。
あまりにも強く振り回したためか、勢いに負けて肘の先がおかしな方向に折れ曲がっている。明らかに骨折していたが、少年の顔に痛みはない。
「全然、効いてない……手加減しすぎたか?」
『かなり深いところまで浸食されておるな。このままでは完全に堕神と一体化してしまい、引き剥がせなくなるぞ』
「かつての俺のように殺すしかなくなるってことか……させるかよ!」
「ギャハハハハハハハハハハハハハハッ! 壊れろ、壊れろお!」
俺はブンブンと振り回されている腕をかいくぐり、今度は顔面を掴む。
メガネの上から少年の顔を完全にホールドして、力を発動させる。
「抵抗するなよ……そのまま倒れろ!」
「ヒギイイイイイイイイイイイイイイッ!?」
顔から直接、電流を浴びせかけた。
人間は0.1A《アンペア》以上の電流を流されると死に至ると聞いたことがあるが、正直、どの程度が1Aなのかまったくわからない。
お願いだから死んでくれるなと願いながら、後遺症が残らないギリギリを見極めて電撃を放つ。
「ギイイイイイイイイッ! ぐおおおおおおおおおおお……」
「ッ……!」
絶叫の後、少年の口からブワリと黒いモヤが飛び出した。
肉体が壊れるよりも先にこちらが限界を迎えたらしく、そのままどこかに逃げ去ろうとする。
「させるかよ……八雷神!」
『ウム』
少年からモヤが剥がれたのを見て、体内から大太刀の形状をした八雷神を取り出した。
宙を飛んで逃げようとしている禍津霊めがけて、紫電を纏った斬撃を放つ。
「消えろ」
『~~~~~~~~~~~~~~~!?』
電撃を浴びせられた黒いモヤは声にならない叫びを上げて、そのまま跡形もなく消滅した。
「フウ……勝ったか」
怪物猿……狒々神に比べるとかなりあっけなかった。
おそらく、禍津霊はそれほど強い堕神ではないのだろう。
「こっちも……生きているな、一応」
「が、は……」
刀をしまって、倒れている少年を確認するとピクピクと動いていた。
プスプスと白い湯気を口から出しており危なそうに見えるものの、心臓は動いているし呼吸もしている。
もしかすると身体のどこかに後遺症が残るかもしれないが……堕神に乗っ取られ、そのまま退治されて命を落とすよりはずっとマシだろう。
「とりあえず最悪の事態は免れたとして……コイツら、ここで何やってたんだ?」
俺は怪訝に思って周囲を見回した。
校舎裏には堕神に操られていたメガネの少年の他にも、数人の男子生徒が地面に倒れている。
おそらく、メガネの少年にやられたのだろうが……彼らはいずれも制服を着崩し、ピアスやチェーンのアクセサリーを付けており、いかにも不良といった格好である。
現場に居合わせなければ、メガネの少年の方が絡まれてたい被害者であると判断したことだろう。
『禍津霊は人間の負の感情に付け込む。憎しみや悪意、悲哀、そして絶望。そこな少年がそういった感情を持つに至る何かがあったのは確実じゃろうな』
「まあ、想像はつくけど……詮索は無用だな」
俺の使命はイジメや恐喝を止めることではない。
あくまでも、堕神と呼ばれる黄泉からの逃亡者を討つことなのだから。
「とりあえず……先生くらいは呼んでやるか。それと養護医の先生も」
俺は同情するような視線をメガネの少年に向けてから、助けを呼ぶべく職員室に向けて駆けていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます