第10話 お約束 × 転校生

「初めまして、今日からクラスメイトになる萌黄優菜もえぎ ゆうなといいます。よろしくお願いします」


「…………」


 いつもの高校。いつもの教室にやってきた俺であったが……さっそく出会いが待ち受けていた。

 四月の終わりという時期にはふさわしくない転校生の登場。

 一限目前のホームルームに現れたのは、長い黒髪を背中に流した清潔感のある美少女である。


「わあ、すごい可愛い子!」


「マジかよ、超ラッキーじゃん!」


「どうしてこんな時期に転校生が? 何か事情でもあるのかしら?」


 予想外の転校生の登場に沸き立つクラスメイト。

 そんな彼らの喧騒に紛れて……俺は背中に汗をかきながらひっそりとつぶやく。


「おいおい、マジでか……」


 教室の壇上に立っている少女には見覚えがあった。

 服装こそ異なっているものの……萌黄優菜と名乗った彼女は、間違えようもなく、昨日、怪物猿の堕神に襲われていた女性だったのだ。

 昨晩、あんなことがあったばかりだというのに彼女は平然と学校に通学しており、転校生として俺の前に現れていた。身体が細くて気弱そうに見えるが、意外と剛の者なのかもしれない。


『ほう? 昨日の娘か。偶然なこともあるものじゃのう』


(偶然で済ませて良いのかよ……)


 愉快そうな八雷神の声に心の中で言葉を返す。

 八雷神の声は俺以外には聞こえていないらしい。独り言を周りに聞かれないように、注意しながら言葉を交わす。


(命を助けた女の子がたまたま転校生で、翌日に同じクラスにやってくるとか、どれくらいの確率なんだ? こんなことがあり得るのか?)


『偶然でないのなら運命だとでも言うつもりか? 小僧、それは少しばかり自意識過剰ではないか?』


(いや、そういう意味じゃないけどさ……)


『人の縁というのは得てして奇異なものよ。縁結びの神は気まぐれじゃからのう。いちいち気にしていては身が持たぬぞ?』


「…………」


 揶揄うように言ってくる八雷神に眉を顰める俺であったが……転校生の自己紹介はなおも続いている。


「本当は四月から通う予定でしたが、父の仕事の都合で引っ越しが伸びてしまい、入学が遅れてしまいました。どうぞよろしくお願いします」


「えー、そういうわけだから、仲良くするように。萌黄さんはそっちの空いている席に座ってもらうからな。周りの席の奴らは助けてやるように」


 担任の女教師が言って、入学式以来ずっと空いたままだった席に転校生を座らせる。

 その席はまさかと思ったが、俺の隣の席だった。


「よろしくお願いします。萌黄です」


「よ、よろしく……鬼島です」


「鬼島さん……あの、おかしな話ですけど、どこかでお会いしましたか?」


「………………初対面、かな?」


 不思議そうに首を傾げる萌黄さんに、俺は全精神力を振り絞って顔が引きつらないように努力する。

 昨日、怪物猿と戦った際に萌黄さんとは少しだけ顔を合わせていた。すぐに彼女は気を失ってしまったため、わずか数秒の出来事である。

 おそらく、俺のことは覚えていないだろうが……少しだけ不安があった。


『フム? バレて困ることでもあるのかのう?』


 わからない。

 正体がバレて不自由することがあるのかは知らないが、お約束として内緒にしておいた方が良い気もする。


「すみません、鬼島さん。まだ教科書を貰っていないので見せていただいても良いですか?」


「ああ……もちろん、良いよ。どうぞ好きなだけ御覧になってくださいませ」


「……しゃべり方がおかしいですけど、どうかしましたか?」


「いや、何でもないです……何でもないよ」


 緊張しながらも席をくっつけ、取り出した教科書を萌黄さんと共有する。


「なんでアイツばっかり……」


「クソッ! 彼女持ちのくせに……!」


「羨ましい……席代われ、もしくは爆死しろ……!」


 美貌の転校生と肩を寄せ合うことになった俺に、クラスメイトの怨嗟と羨望の視線が突き刺さる。

 慣れ親しんだはずの教室で肩身の狭い気持ちになりながら……ホームルームが終わって、一限目が始まるのであった。






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