第22話 友達思い
一心から財務情報を入手した丘頭警部は飯田が提出したそれらと照合した後、財務捜査班に分析を依頼した。
その三日後だった、山内財務捜査班長から丘頭警部に分析結果を報告すると連絡があり、午後浅草署の会議室で捜査員全員が参加してその班長の説明を聞いた。墨田署からも市森刑事ら数名が参加した。
「飯田不動産(株)の事業継続は難しい状況だ」と山内班長は厳しく切り捨てた。
そしてその理由を
「大手K建設(株)からの受託が直近五年の間に段階的に四割ほど減少している……」
とした。
また、飯田宝飾店については
「経常利益は僅かなマイナスだが、交際費や事務委託費が異常に大きくその内容が課題だ。恐らく経営者の浪費が原因と考えられる」と言う。
「計数的なものは配布資料を見てくれ」と言われた。
「そうすると、この先この二つの企業はどうなるんでしょう?」
丘頭警部が質問する。
「経営者が亡くなっているとすれば、経営環境ががらっと変わるので何とも言えない。不動産の方は資本を増強するか別途発注先を開拓しない限り継続は無理だろうな」
「ってことは、宝飾品の保険と死亡保険金を狙った犯罪という可能性は十分にあると解釈して良いですね」
丘頭警部の念押しに、「十分有り得る」山内班長はにたりとして言った。
丘頭警部はそれを持ってその日のうちに飯田が使っている税理士を尋ねた。
「先生、飯田不動産と飯田宝飾店なんですが、うちで確認した限りでは財務状況は良くないようなんですが? どうなんでしょうか?」
「あ~そこね、両方とも私は何回も忠告したんですが、さっぱり言う事を聞かないんでねぇ~困ったもんですよ……」
大木田税理士は渋い顔を作って吐き捨てるように言った。
「じゃ、いまのままでの経営継続は難しいというのは飯田社長は知っているんですね?」
「勿論。それを伝えるのが私たちの役割と言っても過言じゃないですから」
「飯田社長は知っていて何故何もしないのでしょう?」
「……いやぁ、何か、目算が有るらしい事を言ってましたよ、私は信じちゃいませんがね」
「先生はその内容をお聞きになっていないのですか?」
「えぇ、聞きたくもありません。真っ当な話じゃないでしょうから下手に訊くと私の責任問題にもなり兼ねませんからね」大木田税理士はそう言って笑う。
「そうですか、失礼しました。最後に一つだけ……一億四千万円ほどの臨時収入があったら二つの会社は継続して行けますか?」
「そうねぇ、一時凌ぎにはなるんじゃないかな。四、五年くらいはやっていけると思いますよ……保障は出来ませんがね」そう言って税理士は口を曲げて笑う。
「そうですか、ありがとうございました。変な質問して申しわけありませんでした」
*
数馬と一助の尾行はすでに二週間に及んでまだ続いている。
一心の陽動作戦が功を奏したのか三週目に入る金曜日に動きがあった。
飯田真二が向島の高級料亭「桜屋」に入った。尾行していた数馬は即座に一心に電話を入れ応援を頼んだ。
応援が来る前に見知った人物が「桜屋」の前でタクシーを降りた。
数馬は驚いて一瞬目が釘付けになってしまったが、自身の使命が頭を過り慌ててそれを写真に収めた。
二十分ほどして一心と丘頭警部が応援に駆け付けた。
「どう、誰か来た?」一心に訊かれ数馬は良く知る人物の名前を告げた。
「じゃ、中に入りましょう」丘頭警部が先に料亭の中へ……。
出てきた仲居さんに警察手帳を示して女将を呼んでもらう。
「いらっしゃいませ」愛想笑いの女将に警部が手帳を見せて、飯田真二の入った部屋の隣に案内してもらう。
静かにしていると隣の部屋の話声が聞こえてくる。
数馬が録音器のスイッチを入れる。
二時間ほど飲食しながらの会話に色々面白い話も含まれていた。
数馬は一足先に店を出て車の中から二人が出てくるのを待って写真に撮り、これで駿太を救えると確信した。
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