第12話 新たな事件
―― 月曜日の朝、飯田宝飾店の女性従業員小田敬子が八時半ころ出勤してきて金庫が開けられているのを発見、宝飾品六千万円相当が盗まれたと警察に通報した。その後田中真由店長ほか二名の従業員が出勤。
「社長に電話してるんですけど出ないんです」小田恵子が墨田署の刑事に話す。社長の自宅が浅草なので刑事は浅草署に連絡をとった。 ――
浅草署の丘頭警部は墨田署からそのように事件についての説明を受け社長宅へと向かっていた。
「ごめんください、浅草警察です」
マンション入口のインターホンで五〇三号室の飯田律子を呼び出す。
「はい、どうぞ」声は男性だ。
丘頭警部と田川刑事はエレベーターに乗って部屋の前まで行き部屋のインターホンを鳴らす。
出迎えた男に手帳を見せて「あなたは?」と訊くと飯田真二と名乗った。夫だった。
「奥様は?」
「あ~、数日帰ってきてない」
「はっ、お仕事休んで旅行ですか?」
「さぁ、知らん」
「そういうことは良くあるんですか?」
丘頭警部の問いに飯田真二は少し戸惑った様子で、
「取り敢えず中へどうぞ」
とリビングへ案内する。
「たまにあるんだ。若い男とどっかへ遊びに行ってるんだと思うんだが」
「あの、ご主人はそれを容認してるんですか?」
「あ~、俺もそれなりにな……」
――どうなってるんだここの夫婦は? 考えられない。互いに無関心な夫婦なのか? 何故結婚したのか訊いてみたいわ……
「はぁ、そういうことですか」
本人以外に事件の事を話して良いものか考え、外堀から埋めるつもりで話を訊くことにした。
「ご主人は奥さんの経営する飯田宝飾店に関りは?」
「あそこは俺が妻にやらせてるんだ。元手は全部俺のやってる不動産屋から出てるんだわ」
丘頭警部はそう言う関係なら第三者ではないから話しても後々問題にはならないだろうと判断した。
「そうですか、……実は空き巣に入られたようで、小田さんと言う女性従業員の話では金庫に六千万円相当の宝飾品が入っていたらしいんですが、ご存じで?」
「えっ、それ盗まれたんか?」夫は素直に驚いたようだ。
「はい、それで、その宝飾品が間違いなくあったのかを確認したくて伺ったんですが」
「おう、間違いなくあった。リストも会社にあるはずだ。店長に訊いてくれ知ってるはずだぞ」
「その件わかりました。ですが、いずれにしても社長さんに事情を訊きたいのですが携帯も繋がらないので困ってるんですよ、連絡とれませんか?」
「いつもは携帯で連絡するんで、ほかには……」
「どの位の間帰って来ないの?」
「そうだなぁ、長いときは一週間くらいかなぁ」
「居なくなったのは何日前からですか?」
「今日で三日目だな」
「そうですか。まだ三、四日帰らない可能性がありますね……あの、写真とか有りませんか? どんな方か確認しときたいのですが」
「あ~良いよ。ちょっと待って……」そう言って夫はあちこちの引き出しを探しているが……。
丘頭警部が「無かったら、後でも良いですよ」と言おうとしたとき
「あ~あった、あった。これです」そう言って一枚の写真を丘頭警部に差し出し、
「今四十四歳だけど、老けた感じに見えるだろう」と付け加えた。
写真を受取り顔を見る。確かに夫のいう通りの印象を受けるが、笑って返事を誤魔化す
大きな石の指輪を複数つけてお金持ちの奥様の雰囲気をだそうとしているのだろう、着ているもの、履いているものもすべて高そうに見えるが、表情や立ち姿に高貴な雰囲気とか富裕層の奥様といった雰囲気が無く、ちょっとアンバランスな感じがした。
でも、何処かで見たような……。
「ねぇ、田川、この顔、どっかで……」
「……あ~警部。ホテルの遺体!」田川刑事が大声で叫んだ。
「あ~そうだ、ご主人! 奥様は殺害されているかもしれません! 一緒に来てください」
「えっ、まさか……」
突然のショックで顔色を失い丘頭警部を凝視したまま動かなくなった。
「ご主人! 大丈夫ですか?」
丘頭警部が声をかけ肩を軽く揺すると、飯田ははっと我に返った様子で慌てて外出の用意をしようとするが、手元が心許なく上着一つ満足に着られない。
田川刑事が手を貸して漸く外へ出る。
丘頭警部は墨田署にその旨を知らせ、金庫に入れていた宝飾品のリストがあるはずと伝える。
飯田真二は浅草署の地階の安置所に保管されている遺体の顔を見て
「律子っー!」と叫んで遺体の顔に頬を寄せ大袈裟なくらい痛哭する。
「飯田さん、奥さんに間違いないですね」
「あ~、律子だ。間違いない」
「そうですか、……こんな時ですけど、上でお話大丈夫ですか?」
少し間をとってから飯田は微かに頷き目頭を押さえながら立ち上がった。
「先ず、この男性に心当たりは?」
丘頭警部はホテルの監視カメラの写真を見せる
「いや~、でも、どうして殺されたんだ?」
飯田が丘頭警部にそう言って詰め寄ろうとする。が、
「どうして殺されたと思うの?」と切り返され一瞬固まった。
「違うのか?」
「いえ、首を絞めて殺害されたんです。恐らく鍵を盗むためじゃないでしょうか? 金庫の鍵は奥様もお持ちなんですよね」
「あぁ、自分と宝飾店の店長と三つあって三人で持ってるんだ」
「犯人は計画的に奥様に近づき親しくなって、鍵を奪いその時抵抗されて殺した。そして会社へ行って金庫から宝飾品を盗んだ、ということだと思われます」
飯田はじっと丘頭警部の話を聞いているが、自分の妻を殺した犯人に対する怒りがあまり感じられない。そもそもの夫婦間の関係がそうさせるのか?
「飯田さんの知合いに三十前後の男性で足が少し悪い人いませんか? 防犯カメラが捉えた犯人の歩き方がちょっと不自然で、足が悪いか、以前に悪くしてその時の歩き方が癖になってしまった。という感じなんですが」
「……」
飯田は黙って首を振った。
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