第7話 襲われる女
美紗のところにハッカー仲間の下井染佳から電話が入った。
「今、パート終わったから少しだけでも闇金にお金返しに行ってくる」と、染佳。
「ダメ! ちょっと待って! 事務所に一回来て私の親連れて一緒に行かないと何されるか分からないぞ!」
そう言ったが最後まで聞かないで切ってしまった。
「いっし~ん! 静ぁ! 大変だぁ~」
叫ぶと奥から二人仲良く顔を出した。
「どないした?」
「こないだの俺のハッカー仲間の染佳が、勝手に闇金行っちゃった!」
「何ぃ! 静ぁ! 行くぞ!」
「へい、困ったお人やなぁ……」
*
一心が徳森金融に着いて階段を駆け上がる途中で女の悲鳴が聞こえてきた。
「静! 襲われてる! 急げっ!」
一心が事務所のドアを蹴破り中に入ると、十人ほどのやんちゃそうなガキどもがにやにやしながらソファに女性を押し倒し脱がせに掛かっている。
奥の机に偉そうなじじぃがにたりとしてそれを眺めている。
「てめえら、なにしてんだ!」
一心が男達の襟を掴んでひっくり返す。
「なんだてめぇ! 殺されてぇのか……」
そう言って一人が一心に殴りかかる。
さっと静の後ろに身体を隠すと、その男が「ぎゃっ」と呻いて床に伸びる。
何が起こったのか分からず男達の顔色が変わる。
女性から手を放して懐からナイフを取り出して身構える。
静は着物の裾を端折って帯締めでタスキ掛けをする。
「掛かってきよし!」
目をボクサー色に輝かせて男達の間に入ってゆく。
一心は女性と脱がされた衣類を鷲掴みにして静の後ろへ隠すようにして服を着せる。
「静! 油断するなよ!」
「へい、おおきに」
一人がナイフを腹の位置に構え静に体当たりする。
あっと思う間もなくその男が後ろへ数メートル吹き飛ばされ呻き声をあげ伸びる。
それを見て男達が後ずさりする。
静が間をゆっくり詰めて行く。
「行けっ!」
後ろの方にいた男が若い奴の背中を押す。
ふらふらっと静に近づいてナイフを振り上げて袈裟懸けに斬りつける。
静は刃先をかわしてテーブルを足場に飛び上がり男の頭に真上から一撃を加えると、グギッっと妙な音がして男が崩れる。
そして「あら、おたくさんら、雷門通りでこの女性を襲った人ですな」と、静。
男達がびくりとして「あ~あの時の……」
そして静の周りを囲んで奇声をあげ一斉にナイフで静を突き刺そうとする。
静がぐるりと回転すると、ナイフが宙を舞い「わっ」、「げっ」、「うぇっ」、「うおっ」男らが呻いて腕を押さえる。
そしてもう一回転する。バギッ、ボギッ、ドスッ、グギッ、男らが腕や腹を押さえてのた打ち回る。ゲロを吐く奴もいる。
静が残り三人に向き合い
「まだやらはりますか?」
ゆっくり間を縮める。
「ほら、行けっ!」
偉そうにして居る奴が背中を突く。
汗をだらだら流し引きつった顔をした男がふらふらと静の間合いに入ってしまう。
ズンと音がしてその男は後ろへ倒れ後頭部を床に強かに打って動かなくなる。
白髪の混じった髪をして頬に傷のある如何にもやくざという男が、いきなり静に向けてナイフを投げた。
よけ切れずに静の頬に赤い筋が浮き上がる。
刹那、静は踏み込んで男の顎に強烈な一発。ガギッ、顎の骨でも折れたのだろう音がして男は綺麗な円弧を描いて壁まで吹き飛ばされ白目を剝いて静になった。
「さあ、どないしはります?」
「この娘への婦女暴行事件として警察呼びまひょか? それとも、この娘の借用書返して貰いまひょか? それとも両方? ……」
「わ、わかった……」
そう言うのと同時に胸ポケットから銃を出す。
その銃を構える暇もなく静の一撃を喰らって男は後ろへ吹き飛ばされ、書棚のガラス戸に頭から突っ込んだ。
衝撃で書棚が男の上に倒れガシャーンとガラス戸が砕け散った。
「一心、警察に通報しまひょ。婦女暴行の現行犯として、で、金庫開けてその娘はんの借用書貰って帰りまひょ。そのくらいよろしおますやろ」
「そうだな。電話する」
一心が静の頬についた傷の手当をしていると数馬が「お待た~」元気にやって来た。
「お~数馬そこの金庫空けてくれ」
「おう」数馬がピッキングの七つ道具を床に並べダイヤルを回し始める。
程無く鍵穴に道具を差し込むと、カチャリと音が聞こえた。
「開いたぞ」と、数馬。
「流石、鍵師」
そう言って一心は扉を開ける。
大量に保管されていた借用書の中から下井染佳が保証人のものを探して、本人に確認させてから破り捨てた。
その後、丘頭警部が部下を連れて乗り込んできた。
「染佳はん警部はんにきちっと事情話してな、うちら目撃証言するさかい、な」
「はい、色々ありがとうございます」
染佳が深く頭を下げて丘頭警部に連れられてその場を離れた。
「静、随分暴れたな、後で署に来てな」丘頭警部はにやりとしてそう声を掛けていった。
倒れていた男達を警官が起す。
書棚の下敷きになった男は気を失ったまま担架に乗せられて運ばれて行った。
そのほか全員、血を垂れ流しているか、ゲロを吐いたのか汚い。
どっかの骨が折れているのかやたら痛がる情けない男も複数いる。
証拠品となる拳銃とナイフを刑事が回収していった。
そしてぞろぞろと連れて行かれるのを見届けてから一心らもその場を後にした。
*
三月に入って一条准教授の所に剣田藤樹から金を振り込んだと連絡が入った。
パソコンでそれを確認し剣田壮子に電話を入れた。一条のマンションの住所を教えて午後七時に来るように伝えた。
午後七時、インターホンが来客を伝える。モニターに剣田壮子が神妙な顔をして写し出されている。
リビングに招き入れワインとデリバリーのつまみをテーブルに並べグラスを合わせた。
「お約束は守りますよ。ご主人からお金も頂いてますから」
「これっきりにして下さいよ」壮子は強い目線を一条に送ってくる。
――こう言う女性も多く居る。貞操観念が強く絶対浮気なんかしないタイプだ……
「いいですよ。奥さんが望まないのであればね」一条はにやりと嫌らしい笑みを浮かべて見せる。
「少し飲んだら食事に出ましょう。その後、ホテルを予約してあります」
そう言うと壮子はここですぐ関係を迫られることは無いと思ったのか、ワインに口をつける。
グラスが空いた頃、壮子は酔いが回っているようだ。
隣に座って一条が壮子の肩を抱くと、……壮子はすっかり女の身体になっていた。
それから、……。
壮子がシャワーで汗を流している間に一条は外出の準備を始める。
着替えも終えてシャワールームから出てきた壮子に写真を見せる。
「これ、きみの美しい姿だよ」
壮子の顔色が変わる。
「なんでこんな写真撮ったの?」
それには答えず。「さ、食事に行こう。お腹すいたしょ」と、嫌らしく笑って見せる。
――この写真がある限りこれからず~っとお前は俺の奴隷さ……飽きるまでな、ふふふ……
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