第19話 Happy days(19)

「夏希! 早く起きて! 体温計って!」



朝は早くから起こされて



「つ・・つらい・・」



夏希のほうがもう嫌気がさしはじめていた。




「今日、おれなるべく早く帰るから。 ひょっとして可能性があるかも、の日だし。」



高宮は張り切ってそう言った。



「や、仕事優先のがいいんじゃないかな・・」



夏希はボソっとそう言ったが、



「仕事だって、やる気になれば早く終わらせることできるから。何事も合理的にやらないと、」



高宮はマグカップを置いて、素早く後片付けを始めた。




もし。



妊娠したらしたで



すごく大変なことになりそう・・



夏希は具体的には何もわからなかったが



そんな予感でいっぱいだった・・




そんな日々が何日か続き・・



「・・なんだよ、こんな時間に。」



夏希は玄関のドアを開けた斯波の姿に驚いてしまった。



思いっきりおんぶ紐で翔を負ぶった姿だった。



「あっ・・と、その! じ、実家から・・りんごが送った・・」



あまりの驚きに日本語もしどろもどろだった。



「今、手が離せないから。 入って。」



斯波はそのまま夏希を家に入れて、その姿でキッチンを掃除していた。



「萌は今日接待で遅くなるっていうから・・」



聞かれてもいないのに言い訳をする斯波に



「・・え・・あ~~~、大変そうですね。 あたしがかーくんを見ますから、」



りんごの入った紙袋をテーブルの上に置いて言った。



「あー、いいって。 なんか今日機嫌が悪くて。 おんぶしてるとおとなしいから。」



斯波は気にせずにそう言った。



全く想像できない斯波のその姿に



夏希はもう信じられない気持ちでいっぱいだった。




信じられないくらい



お父さんしてんだなァ・・




夏希はその斯波の姿に感動さえ覚えた。



「明日明後日、どっか行くんだろ?」



掃除を続けながら斯波が言った。




「え・・ああ、はあ。 ちょっと箱根に。 ノースキャピタルの箱根のプチホテルがオープンしたんで。 隆ちゃんが行ってみようって言うから。 忙しいのにお休みもらっちゃって、すみません、」



「ああ、いいけど。 高宮も日曜もなく仕事してるみたいだし、」



斯波に背負われた翔は気持ち良さそうにスヤスヤ寝ている。



ほんとにおんぶが好きなんだなあ・・




夏希は微笑ましくなって顔が綻んだ。




隆ちゃんも。



もし赤ちゃんが生まれたら、あんなになるのかな???




想像してしまった。



あたしがズボラだから、きっと子供を一生懸命しつけてくれそうかも。



こんな想像することは



恋人同士としてつきあってるときは全くなかった。



やっぱり結婚して家族になって。



『生活』を一緒にする同士みたいで。



きっと斯波さんだって



自分のこんな姿、ぜったいに想像してなかっただろうし。




斯波の後姿を見ながら



夏希は何だかほんわかとした気持ちになった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る