第8話 Happy days(8)
「え~~~? スッポン料理?」
強引に連れてこられた高宮は店の前に行って、思わずそう言った。
「めっちゃうまいんやで。 おれもよくお客さんに連れてきてもらって。」
志藤は笑顔で言った。
「おれ、スッポンなんか食ったことないですよ・・」
幾分不安そうな彼に
「よく精が付くって言うやろ? ほんまやねん。 食べるとな、カーッとやる気がわいてくるってゆーか。 おまえも激務なんやから。 老人食ばっか食ってたらアカンで、」
志藤は背中を押した。
「って、スッポンってカメでしょ? カメを食うなんてヤですよっ、」
思わぬ抵抗に
「カメやと思うな。 魚介類、魚介類。」
「アメリカ生活が長くて、こんなん食べる機会ほんっとなかったし! カンベンして下さいよ、」
「今こそ真の日本人となるべく・・な。 男ならスッポンのひとつやふたつ。 食えないでどーすんねん、」
よくわからない理屈でまたも強引に高宮を店に押し込んだ。
座敷に通されてしばらくすると、スッポンのコースが次々に運ばれてきた。
「これは・・唐揚げですか・・」
高宮は皿を凝視した。
「めっちゃ旨いで。 レモンを絞って・・」
志藤が食べるのをまだ怪しんで見ていた。
「・・おまえ、ほんまに石橋を叩いても渡らんタイプやな。 どこまで慎重やねん、」
「おれはちゃんとわかってるモンじゃないと絶対に食べませんから・・・・」
「ハハ! それでよく加瀬の作ったモン食えるなあ、」
思いっきり笑われて。
確かに・・そーだけど!
悔しいけど一瞬自分の矛盾を納得してしまった。
仕方なくその唐揚げを恐る恐る口にした。
「どう? うまいやろ?」
「はあ。 思ったよりは。」
「人間な、なんでも経験やん。」
志藤はお気楽に笑った。
そして。
スッポン鍋が運ばれてきた。
「これは・・」
高宮は部位のグロテスクさに閉口した。
「ど、どこの部分ですかね????」
箸でつかんで不安そうに言う。
「おまえな~~~。 これが足とか手とか考えてたら食えるか? トータルで考えろよ、トータルで。」
志藤はあまりに理屈っぽく慎重な高宮がだんだんウザくなってきた。
「トータル・・」
高宮は再び箸をつけたが
「って・・甲羅????」
モロなそのフォルムにドン引きしてしまった。
「おまえスッポンに失礼やろ。 いい加減にせえって!」
しまいには説教をしてしまった。
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