第2話 パラレルループで再スタート

「それを知りたいの?


知らなくちゃならないの?


誠を不幸にするってことを達成できているから、いいんじゃないの。


それに、あなたに関係あることなの?」



 唄さんの目は、冷酷だった。

 だけど、青葉ちゃんを奪われた以上は、井藤君のために何かやらないと・・・・!


「関係あってもなくても、相手が井藤君であっても、誰であっても、唄さんはそれでいいんですか?」


「それでいいって?」


「誰かを不幸にすることで何が残るんですか?」


 唄さんは、腕を組みながら何か考え込んでいた。

 しばらく、沈黙が続いてから、唄さんは答えた。


「残る残らないで、やるわけじゃないの。


あたしは小さい頃から、父からの威圧を受けながらだったわ。


あたしの大好きだった兄は、姉にとられてしまったけれど、母がいてくれたの。


ずっと、あたし達を支えてくれた。


だけど、誠に発達障害があるってわかってから、家庭崩壊したのよ。


だから、そもそも誠がいなければ、そんなことは起こらなかった。


あたしには、もうすでに何も残っていないのよ。


なら、残る残らないの話じゃない。


父にも復讐をとげて、姉や兄にも弟にも復讐して、あとは母を取り返すだけ。


だけど、今はそんな母も憎らしい。


あたしには、最初から何もないのだから、あとは失うだけなのよ。


あなたには、そんな気持ちがわからないでしょう?」


「わかります。


全部ではないかもしれませんが」


「ほんとうに?


言葉だけじゃない?」


「私も家庭崩壊はしています。


ですが、家族を憎んだり、復讐しようとか思いません。


今は父も母もいませんが、私は伯父夫婦と暮らしているんです。


だから、幸せというのは別の形で存在すると思うんです。


私も最初は家族といられる時間こそが幸せと思っていたんです。


でも、私は友達も叔父夫婦もいます」


 これで、説得できたかはわからない。

 だけど、井藤君をこれ以上は悲しませたくない。


「はあ、あなたって人はいつも斜め上を行く」


「斜め上?」


「まあいいわ。


そんなに言うなら、あなたがあたしを幸せにしてみなさいよ」


「え?」


 予想外の返答に、私は戸惑いを隠しきれなかった。


「あたしを救えるんでしょう?」


「そこまで言っていない・・・・」


「あたしを幸せにできなかったら、幸せと主張するあなたの命も奪う。


いいわね?」


「そんな約束、引き受けられない!」


 これって、唄さんを満足させることができなかたら、ペナルティーを食らうみたいなデスゲームみたいなこと、私は望んでいない。


「これは、強制よ。


ただの表面上だけの友達だから見逃そうと思ったけれど、このまなざしを見る限り、本物の友情を感じたわ」


 井藤君には、相談できなかった。

 まさか、私がデスゲームみたいな約束を引き受けてしまったこと。

 正しく言えば、引き受けてしまったんじゃなくて、強制的に参加させられたと表現した方が正しいかもしれない。


 私は井藤君の家に来ていた。


「井藤君、唄さんのことを聞かせて。


もしかしたら、言いたくないかもしれない。


だけど、君のことを狙っている以上、私に関係のない話って言い難いから」


「唄は、人の幸せを妬む女性になってしまったけれど、やっぱり今回も失敗だったかな?」


「井藤君?」


「もっかい、やり直そう。


青葉がいた頃に戻りたいんだ」


「井藤君、急にどうしたの?」


「時間はいくらでも、どうにでもなるんだ」


 私は、ここで目が覚めた。

 夢?


 私は小学校に入学して、井藤誠君、東海とうかい青葉あおはちゃん、北島きたじまりょくちゃん、みなみ紫帆しほちゃんと仲良くなり、いつも五人で行動した。

 井藤君と青葉ちゃんは、初対面のはずだけど、前にも会ったことある気がした。


 緑ちゃんは、髪が緑色の女の子。

 一人称は「うち」。


 紫帆ちゃんは、紫髪の女の子。

 一人称は、名前呼び。

 

 みんな、私の大切な友達。

 井藤君のことは最初は上の苗字で呼んでいたけれど、今は「誠君」と下の名前を言うことも抵抗がなくなってきた。


 ある時、二人の時にこの話を持ち出してみた。


「誠君、私ね、パラレルワールドの夢を入学前に見ててね、青葉ちゃんが唄さんって人に殺されて、誠君が時間を戻した夢を見たことがあるの」


「この話は、誰にも言わないでくれる?」


「え?」


 誠君は、こわい表情をしていた。


「俺がパラレルループしたことを、誰にも言っていないよな?」


「パラレルループ?


何それ?」


「それより、他の人に言ったか言ってないかってことを聞きたいの」


「言っていない。


だけど、誠君、急にどうしたの?」


「俺は、パラレルワールドの状態で過去に戻れるんだ。


そのことは、パラレルループって言うんだけど、どうやら記憶が残っているみたいだね」


「どうする気なの?


記憶消すの?」


「ファンタジーの読みすぎじゃない?


実際は、そんなことできないから」



「じゃあ、どうするの?」


「どうもしない。


とにかく、誰にも言ってなければそれでいいよ。


この時間では俺は幼稚園の年長の頃に、発達障害ってことがわかってしまって、親が離婚して、幼稚園を卒園式の日に転園ってことになっているみたいだね」


「うん、誠君がこの日に転園生としてきたことは驚いたけど、来てくれて嬉しいって気持ちもあったよ」


「そっか、ありがとう」


 でも、やっぱり唄さんは私たちのところにやってきた。

 小学生の段階で、妬みとか強いのは異常かもしれない。


「誠、ハーレムでも送っているのかしら?」


「送ってないよ。


みんな、ただの友達だよ」


「ふうん、まあいいわ。


恋愛という意識はない?」


 青葉ちゃんと、私は「ない」と二人同時に答えた。


 緑ちゃんは、唄さんに質問をした。


「恋愛としての意識って、なあに?」


「異性としての感情よ。


まあ、小学1年生のお子様には、そういった話はまだ早かったかしら?」


「よくわかんないけど、君は何歳なの?


というか、誰なの?」


「あたしは、唄よ。


誠のお姉さん。


学年は、小学3年生ってとこかしら?」


「唄ちゃんって、綺麗だね」


「まあ、ありがとう。


実は無名だけど、キッズモデルもやっているのよ」


 ここで、空気を読まない紫帆ちゃんが答える。


「紫帆は、誠君、大好きだよ。


誠君と付き合っているの」


「最近の小学校低学年は、ませているのかしら?


付き合うって、どんなふうに?」


「キスもしたし、手もつないで歩いたりもしたんだ。


将来は、誠君と結婚するって婚約もしたの。


指輪は、まだもらってないけど、大人になってから買ってもらうんだあ」


 やばい。

 唄さんの地雷を踏んじゃったよ。


「紫帆ちゃん、もうこれくらいにしようか・・・・」


 誠君は止めたけれど、紫帆ちゃんは止まらなかった。


「誠君にお嫁さんになりたい人を、ランク付けしてもらってね、1番は紫帆だったの」


「これ以上、言うとどうなるのかわかっているかしら?


幸せ発言はやめてもらえない?


少しでも助かりたい意思があればね」


 唄さんは、一瞬で隼のように動いたかと思えば、紫帆ちゃんは地面に倒れた。

 しかも、血だらけになっていた。


「小学低学年の分際で、偉そうな発言や態度をするんじゃないわよ。


いつ、どこで、誰が被害にあるのかわからない世の中で、軽々しいことをすると、どうなるか身に染みておくのよ。


って、死人にいってもしょうがないか。


話を聞いていないというか、聞くことすらもできないものね。


じゃあね、誠、またいつか会いましょう。


次、会う時はいつになるのかしらね」


 こうして、唄さんは去っていった。


 紫帆ちゃんはこの世界で、誠君の初恋で、初カノだったけれど、こうして亡くなってしまった。

 紫帆ちゃんに家族はいないので、児童養護施設の職員や、子供たちがお墓参りに行くことになった。


「絶対、強くなってやる・・・!」


 誠君が泣きながら、私と青葉ちゃんと緑ちゃんの前で呟いていた。

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