第3話 悲劇は終わらない

 こうして、数年の月日が流れて、私と青葉ちゃん、誠君、緑ちゃんは中学三年生となり、四人は幼馴染となった。

 誠君は大切な存在を守れるように、と最強の騎士となった。

 

 青葉ちゃんは児童養護施設にいたけれど、養子に入ることになり、今となっては名家のお嬢様。


 緑ちゃんは兵士となり、剣術は誠君よりも上だけど、物理となると男の子である誠君の方が強いとなってくる。


 私はというと、剣術の才能もなければ、魔法の才能もない。

 ただの守られの最弱女ということになる。

 だけど、私は何かの役に立ちたいので、メイドとなった。


 メイドの仕事は簡単ではなかったけれど、おかげで料理や洗濯物、掃除も含めて、身の回りのことは一人でもできるようになってきた。

 

 誠君は、唄さんに紫帆ちゃんを奪われて、最初は恨んでいたり、生き返らせることに挑戦したり、かたき討ちをするとも怒りに燃え上がっていたけれど、それが全て意味のないことだとわかった今は、こうして私たち幼馴染を守ることだけに専念してくれている。

 二度と、同じ悲劇を繰り返さないために・・・・。


 私たち、四人は幼馴染であるがために、深い絆で結ばれていると思っていた。

 ずっと、思っていたのに・・・。


 お城に、唄さんがやってきて、一人で次々とやっつけていく。

 唄さんの物理攻撃は、なぜか強くて、私と青葉ちゃんは見ていることしかできなかった。

 緑ちゃんと、誠君の二人で、唄さんと戦っていた。


「なかなか、やるわね・・・・」


「ああ、こっちもだ」


「だけど、油断大敵よ。


緑、今すぐやりなさい」


 緑ちゃんは、誠君を後ろから剣で刺した。

 誠君は、うつ伏せの状態で、血だらけになって倒れた。


「緑、どうして・・・・?」


「実は、うち、騙していたの。


この数年間、この時を狙って、あんたたちの信頼を勝ち抜いた上で」


「裏切ったのか・・・?」


「裏切ったんじゃなくて、最初から騙すことを目当てに近づいていたことに気づかないなんて、あんたはどんなに頑張っても脳筋ってことが、今ここで証明されたね」


「そうよ。


誠、そもそも、あたしに味方がいないって思いこんでなかったかしら?


残念。


あたしには、緑という味方がすでにいたということよ。


あんたを絶望させ、情報収集もすべてこの子がやっていた。


だけど、誠も含めて、みーんな違和感に気づかなかった」


「そうだね、誠。


あんたは、考えなしだよ。


少し考えれば、何で唄さんに情報がばれているのか、違和感を持てたはずだけど」


 こうして、緑ちゃんが誠君を剣で、唄さんは蹴りで攻撃しつづけた。


「やめて!」


 青葉ちゃんは、叫んだ。


「やめて・・・・、お願い。


誠を、大切な存在を傷つけないで・・・・」


「ふうん。


それで?」


 唄さんと、緑ちゃんは、誠君の攻撃を止めて、青葉ちゃんをにらみつけた。

 誠君は何回も剣で刺され抜かれたり、唄さんに何回も蹴られたせいで、血だらけの状態で、目を閉じていた。

 

 このままだと、誠君が死んじゃう・・・・!

 だけど、私は恐怖のあまり、声もでないし、誠君の方に駆け寄ることもできない。


 もし、私も攻撃されたら・・・・?

 そんなことばかりが頭の中で映像としてでてくる。


「あたし、誠を守ってみる」


「無理だって!


あんなのに勝てるわけがない・・・・」


「あたし、誠が大切な存在だから、そんなにひ弱でも守りたいの!」


 こうして、青葉ちゃんは誠君の方に駆け寄ったけれど、戦闘力がないために、唄さんにつかまってしまった。


「離して!」


「こいつ、人質にちょうどいいわね?」


「唄さん、もしかして、女の子にも手を出しちゃいますか?」


「やめてちょうだい。


女の子同士で、そんな趣味はないわ。


だけど、痛めつけた方がいいわね。


あたしと、緑に逆らった罰よ」


「唄さん、さすが!」


「ということで、この青頭は預かっておくから、誠の怪我の治療はしておくね。


今度こそ、誠に最大で、最高の絶望を味わうことになるわ」


 こうして、唄さんは青葉ちゃんを連れて、緑ちゃんとともに姿を消した。

 

 私は誠君の方に駆け寄り、電話して、救急車に運んでもらった。

 私は、誠君が入院中は、青葉ちゃんが唄さんにさらわれたことも話した。


「早く、青葉を助けにいかないと・・・!


紫帆と同じ歴史を繰り返したくないし、青葉は俺の本当に大好きな人だから」


「こんな怪我で、行けないって・・・!


・・・・誠君、今はパラレルループするつもりある?」


「ないっていうか、したくない。


パラレルワールドに移動しても、幸せな未来が待っていると思えなんだ。


幼馴染が増えて、嬉しかったけれど、緑っていう俺のことを最初から騙すことを目的としたやつもでてきて、青葉のことも、赤音のことも、紫帆のことも巻き込むことになってしまった。


それに、唄さんの妬みのエネルギーも、俺が発達障害という事実も、パラレルワールドに行ったとしても、変わらなかった」


 誠君は泣きがながら、私に話した。


「それでいい・・・・。


それでいいかもしれない。


青葉ちゃんが死んだ事実は、悲しいことだけど、唄さんはどんな形であっても、きっと誠君のことを不幸にしようとすると思う」


「うん。


そうだよね。


両親が離婚したことがなくなればいいのにって何度も思ったけれど、俺はそんなパラレルワールドに行けないみたいだね。


どんな形であっても、タイミングであっても、遅かれ早かれ、離婚しちゃう両親なんだなって今になってわかった」


 私は、青葉ちゃんのためにパラレルループをしないと安堵してしまった。

 確かに紫帆ちゃんも殺されて、緑ちゃんは私たちを騙すためだけに近づいて、青葉ちゃんは二度も唄さんに狙われる。

 それに、私はまだ誠君が好きだけど、誠君は青葉ちゃんが好き。

 親友だけど、ライバル心が捨てきれない自分がいた。


 私は誠君が退院するまで、何回も誠君のいる病院に向かった。

 

「誠君、今日も来たよ」


「ありがとう。


あれから、数か月たつけど、青葉は大丈夫なのかな?」


「悔しいことだけど、今は助けに行けないよね」


「俺も怪我が少しずつだけど、治ってきているから、退院が認められたら、青葉を助けに行くよ」


「そうだね。


青葉ちゃん、無事だといいんだけど」


「唄のことだから、こればっかりは保証できないな。


もしかしたら、生きてないんじゃないかって不安が押し寄せてくるんだ」


「大丈夫。


きっと、大丈夫。


そう思うことにしようよ」


「だよね。


わからないことに、不安を感じてもしょうがない。


早く怪我を治すことだけ、今は考えなくちゃ」


 誠君はしばらくしたら、怪我が治り、退院することになった。


 こうして、私と誠君で青葉ちゃんを助けに行くことにしたけれど、居場所がわからなかった。


 そんなところで、緑ちゃんが現れた。


「緑ちゃん?」


「やっと、退院したのか。


退屈しちゃったよ。


でも、まあ、青葉のおかげでいい暇つぶしになったよ」


「緑?


どうして、そんなことを?


青葉に何をした?」


「そう焦るなって。


今から、唄さんの居場所を教えるから、これで落ち着くんだ」


「質問に答えてない。


どうして俺たちを騙すことをしたのかということと、青葉に何をしたか答えて」


「やんなるなあ。


誠の障害は、一度気になることがあると、頭から離れなくなるかあ。


数年も耐えられた自分に尊敬するわあ。


どうして、うちが誠たちを騙すことになったとか、青葉がどうなったのか自分の目で確かめに行けばいいじゃん。


敵であるうちが、どうして詳細とやらを教えなきゃいけない?


うちはあんたが嫌いなんだし、関わりたくないんだよ。


それくらい、わかってほしい。


って、あんたに行っても無駄か。


とにかく、居場所だけ教えておくから、そこ向かえ。


うちは、後のことは知らん」


「緑・・・・」


 緑ちゃんは私に居場所だけつたえたら「じゃあな」と一言で去っていった。


「居場所を簡単に教えるとか、明らかに罠だよ」


「そんなことは関係ない。


青葉のことを一刻も早く助けなきゃ」


「無謀すぎるって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る